新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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「渡る世間はウソばかり」の情報操作の時代

2020年07月16日 | メディア論

ニュースの評価表示が不可欠

2020年7月16日

 「何が本当か」「どちらが正しいのか」。メディアが流すニュースに接していると、こうした判断がつきかねるケースが増えています。メディアは情報を急いで流していればいい時代から、情報の評価を伴うニュースの伝達が不可欠な時代に変わりました。

 

 米国では、SNSで投稿への監視機能を強化する姿勢に転換を始めています。「政治家や政治関係者の発言であっても、投稿削除や警告表示をする場合がある」(ツイッター、フェイスブック)。米国紙は、辛辣な解説、論説、オピニオンをどしどし掲載し、ニュースの評価を下しています。

 

 日本の場合は、チェックや評価は後回しにして、情報を流すのが原則ですね。対立する動きの報道は慎重で、両論併記をしておけば責任を問われない。社説は社会に判断材料を提供するのが使命なのに、「議論を深めてほしい。丁寧に説明を」と書いて終わりといった傾向が目立ちます。

 

 16日の朝刊を読んでいて、「明らかにどちらかが間違っているか、ウソをついている」としかいいようのない記事が多く並んでいました。もう少し、踏み込んだコメントやファクトチェックがほしいものだと、読者は不満でしょう。

 

 まず、安倍政権が力を入れている観光支援策「Go To トラベル」です。小池都知事が「今や感染拡大警報の状況」と発言し、野党は「コロナ感染が拡大しているのに、観光を奨励するのは間違い。コロナが収束した後に支援策を実施するとの閣議決定がある」などと、批判しています。

 

 これに対し、西村経済再生相は「5月25日に緊急事態宣言を解除した。その時は流行は収束させたと判断している」と、答弁しました。これは苦し紛れの弁明で、ウソでしょう。観光支援策が問われているのは、現在の感染状況です。新聞には「賛否が激しく割れている最中に、先を急いでやるべき事業ではない」と、はっきり書いてもらいたい。

 

 新聞は何か見解を表明する際は、社説の場を選ぶ。次々に新しい動きが出てくる時代に入ったのに、いまだに社説至上主義をとっています。社説に頼っていたら、タイミング失するし、本数も限られる。争点になっている情報には、簡潔に意見を述べるミニ解説を添えたらたらどうだろう。

 

 コロナ対策分科会の尾身茂会長は「旅行自体が感染を起こすことはない。旅先で3密状態の会食、集会などが感染を拡大する」と、16日に述べました。そうなのでしょう。西村氏はなぜ「あの時は収束と判断した」などと、口走ったのか。首相の指示待ちで、事実を言えなかったのでしょう。

 

 16日の新聞には、森友学園事件を巡る財務省の公文書改ざん問題で、自殺した近畿財務局職員の妻が起こした損害賠償訴訟(1億1200万円)の記事が載っていました。「夫の自死の真相を知りたい」と迫る妻に対し、国と佐川氏(当時の財務省理財局長)は争う姿勢を見せたと、あります。

 

 新聞は両者の言い分を並べています。裁判だから判決がでるまで待とうということなのでしょう。それにしても佐川氏側の「判例上、公務員の不法行為を問う国賠訴訟では、公務員個人は賠償責任を負わない」という主張は、この事件は該当するのか、しないのか。

 

 新聞には「佐川氏による露骨な文書改ざん指示、主導は犯罪的な行為であり、この判例を適用するのは疑問だ」くらいの指摘はあってほしい。さらに、その判例の紹介、法律家によるコメントは記事掲載の必須条件です。

 

 この日の新聞には、日銀が金融政策決定会合で、新型コロナ対応の大規模な金融緩和政策の維持を決め、黒田総裁の記者会見の詳報(日経)も載っています。会見の発言だから、そのまま載せておけばいいということはありません。虚偽に近いような部分がいくつかあります。

 

 「2%の物価上昇率目標は、目標も手段も適切だ」と。手段が適切なら目標が達成されているはずです。もう10年も0%に近い水準が続き、だれも実現できるとは思っていない。さらに「(見直す考え)は全くない」と。虚偽というのは言い過ぎにしても、黙殺していい発言です。

 

 さらに「財政政策と金融政策のポリシーミックスが実現されている。金融・金利政策は財政ファイナンス(日銀による国債購入)ではない」と。これは虚偽に近い説明です。ポリシーミックスと言えば、聞こえがいいだけです。「財政赤字支援のために中央銀行の独立性が失われている」というのが実態です。

 

 安倍首相もコロナ対策で1次、2次にわたり、200兆円もの補正予算を組み、財政赤字の拡大に危機感を持つのが普通なのに、海外に向け「世界最大級のコロナ対策」と胸を張ったのには、驚きました。「世界最大級の財政赤字国」が正解なのに、実態を隠した発言です。ではどうするのかを、識者はあまり触れたがらない。権力を持った者に、識者も及び腰になる時代です。

 

 情報伝達が加速し、ちょっとしたことから大火になり、対立の火種になるので、政治はますます真実、事実を隠したがる。ウソの情報を故意に流す動きをチェックするのが第一種の「ファクト・チェック」とすれば、現実と違う発言や政策の虚偽を解明する第二種の「ファクトチェック」が、それに劣らず必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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Unknown (アゴラ閲覧者)
2020-07-18 17:14:33
いつもながら…あなたの結論ありきでかつそれがみんなの答えだとの文。それこそ新聞記者特有の特権階級意識の表れ。キャンペーンに関しあなたの意見はわかるが、そうでない人もたくさんいる。だから両論併記だし、あなたのようにお金に困らない年金暮らしと、そうでない会社が倒産するかもしれない現役世代では全然認識が違うんです。高齢者優先で現役世代が死ねということですか?
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