「A会社のBです。お送りしたC見積書についてご質問のメールをいただきましたので、お電話をしました。」
先日、ある駅のホームのベンチで電車を待っていたところ、隣に座っていた20代後半と思しき男性がいきなり電話をしはじめました。
B氏は特に大きな声で話していたわけではなく、隣に座っていた私も話を聞くつもりはなかったのですが、つい耳に入ってきてしまったのです。結局電話が終わるまで一部始終を聞くことになりました。
電話の内容は、C見積書を受け取った会社の担当がB氏に値引きの要求をしているもののようでした。B氏は電話の向こうの担当者に「現状の数では値引きはできない。注文の数を増やしてくれるか別の商品を注文してくれるか、または、来年も発注してくれるかを約束してくれなければ無理です」ということを繰り返し訴えていました。
営業の研修やコンサルティングを仕事にしている者としては、顧客からの値引き依頼に簡単に応じないB氏は営業パーソンとして「なかなかやるな」という感じでした。
しかし、一方でホームには大勢の人がいる時間帯であり、現にベンチには私のほかにも数人が座っていました。そうした中でAという社名を名乗り、さらに具体的な商品名や発注数さらに、金額まで隣の人にはっきりと聞こえてしまうような声で話をしていたのです。正直びっくりしてしまいました。
思わず、もし近くにA社の競合の人がいたらどうするのだろうかと余計な心配をしてしまいました。
近年、研修やコンサルティングの依頼をいただく際には、業務委託の契約書や秘密保持契約書等を交わすことを求められるケースが多くなりました。もちろん、とても大切なことですのでそれについての異論はありません。そうした中でB氏のように大勢の人がいるところで気にせずに社員が自社の情報を流してしまっては、秘密保持や契約書を結ぶどころの話ではありません。
現在では、いずれの企業でも入社時の研修や営業パーソンの研修等で、情報保護の重要性についてはしっかり伝えているはずです。当然、B氏もこうした重要性はきちんと理解しているのだろうと思います。しかし、車内ではなく駅のホームということで気が緩んだのかもしれません。
たった1人の社員のこうした行動が会社そのものの信用を一瞬で落としてしまうことにつながりかねないのですから、本当に気を付けなければなりません。お酒を飲んだりして気が緩んでいるときなどについいろいろしゃべってしまい、あとでヒヤッとした経験がある人もいるのではないでしょうか。
したがって、悪意をもって情報を流すようなことはなくても、うっかりこのような行動をとってしまう社員がいるかもしれないということをあらかじめ想定しておかなければならないということです。繰り返し情報の重要性を伝え、きちんと理解して行動できるようにするための人材育成はとても大切です。
さて、冒頭の件ですが、結局B氏がA社に戻って上司に相談してから顧客に返事をするということで、その場は終わったようでした。
私が乗る電車が到着する前に一応一件落着?をしましたので、とりあえずほっとしてベンチを立つことできました。しかし、正直、隣でやりとりをしている間、ずっとハラハラし通しでした。やれやれ!