中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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職人さんを大切にする

2018年01月31日 | コンサルティング

 「職人がどんどん廃業してしまって困っているんです。せっかくこうしてオーダーをいただいても、作ってくれる職人が減ってしまったので、注文するのも順番待ちなんです。今、頑張っている職人も皆年を取ってしまい、おじいちゃんばかりになってしまっていました。これからどうしたらよいのか・・・」

これは以前、セミオーダーの靴の製造を請け負うお店をやっている人から聞いた話です。職人が減少している背景はいろいろあるようですが、世代交代が順調に進まなかったため、後継者となる若い人が育っていないことが大きいようです。

その他にも、賃金の安い海外に生産を移管することが増えて安い靴が流通した結果、職人になっても将来の展望が見出せないと道半ばであきらめてしまう人が多いことなどもあるとのことです。

円高の時代が長く続いたこともあり、日本の製造業は製造拠点をこぞって海外へ移管しました。最近では円安によって少しより戻しもあるようですが、それでもまだまだ海外に頼っている割合は多いです。

話は変わりますが、私はときどき通勤で使用している駅中にある「ポータースタンド」というお店に立ち寄ることがあります。全体的に駅中にあるお店は、買い物客が絶えずせわしなく出入りしている雰囲気のところが多いと感じますが、このお店だけはいつも落ち着いた時間が流れているような気がします。疲れているときなどにふと立ち寄ってみたくなるのです。

実はこの「ポータースタンド」は、あの吉田カバンの直営店なのです。吉田カバンはカバンの商品企画に始まり、カバンが顧客の手元に届いた後のメンテナンスに至るまで一貫して自社のカバンの価値を高めるために取り組んでいます。さらに、広告宣伝は自らされなくても、テレビや雑誌からの取材が多いようですし、書籍を出版されていますから吉田カバンの良さを知る人は多いでしょう。

最近、この吉田カバンの仕事術を取り上げた「吉田基準」(吉田輝幸著 日本実業出版社)という本を読む機会がありました。この「吉田基準」という言葉は自社で生み出したものではなく、吉田カバンの製造に携わる職人さんたちの間で自然発生した言葉だそうです。

「吉田基準」の中身はいろいろあるそうですが、その1つが商品企画から縫製までを一貫して日本国内で行うこと。海外で作るほうが利益が出るとの誘いを受けても一切断り、職人さん(吉田カバンでは職人と言わず、職人さんと呼ぶのです)を絶やさないということを創業者の時代から貫いているとのことです。

創業以来80年間、カバン以外のものは作らず、カバン屋であり続けること。さらに現社長は職人さんを絶やさないよう、職人さんの養成にも力を注ぎ、さらには自社のみならずカバン業界全体の健全な発展を目指していらっしゃいます。

冒頭の職人の数が減少しているという話は、靴業界やカバン業界のみならず様々な業界でも同様のようです。建設現場では職人不足の深刻化により建設コストが上昇し、工事がなかなか進まない事態も続出しているとの報道もあります。

どの業界でも、職人の減少に危機感を持ちつつも具体的な改善策を見出すのは簡単なことではないでしょうが、吉田カバンが行っていることのうち何か1つでも取り入れてみると、大いに参考になる部分があるかもしれません。

たとえば、吉田カバンが職人さんを大切にしてきたように、まずは社員のことを「大切にしなければならない人だ」と見守り続けるといったことが大切なのではないでしょうか。

そういった面からもこの吉田基準、「若手が育たない」と嘆かれている方にもぜひお勧めしたい一冊です。

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