今日は朝から狐の嫁入りがありました。その分、昨日の猛暑日よりほんの少し気温が下がったのですが、時折日が差すと地面の雨が蒸発して一気に湿度が高くなったりもしました…。
ところで、今日8月22日は『天の元后聖マリアの記念日』です。かつてこの記念日は5月31日でしたが、典礼暦の改訂後、聖母被昇天の8日目にあたる8月22日に祝われるようになりました。
これは1954年に、時の教皇ピオ12世(1876〜1958)が発表した回勅“Ad Caeli Reginam”(アド・チェリ・レジナム)によって定められました。この回勅のなかで、教皇は
「マリアは神の母であり、新しいエバとしてイエスのあがないの業に参与した。また、卓越した完徳と、力強い取り次ぎによって、天の元后と呼ばれるにふさわしい方である」
と述べています。
この『天の元后聖マリアの記念日』に関連するものとして多く描かれたのが『聖母戴冠』の絵です。被昇天した聖母マリアが父なる神とイエス・キリストから天の元后の冠を授かるという構図で、有名なところでは
(パリ・ルーヴル美術館蔵)
画僧フラ・アンジェリコ(1395〜1455)
(フィレンツェ・ウフィツィ美術館蔵)
サンドロ・ボッティチェリ(1445〜1510)
(スペイン・プラド美術館蔵)
ディエゴ・ヴェラスケス(1599〜1660)
などのルネサンス期やバロック期のものがあります。
そして、音楽としては《サルヴェ・レジーナ(元后あわれみの母)》や《レジーナ・チェリ(天の元后)》、《アヴェ・マリス・ステラ(光り輝く海の星)》などがカトリック教会で聖母マリアへの祈りの音楽として歌われます。そして器楽作品で最も有名なのが
ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバーの《ロザリオのソナタ》全16曲の中の第15曲『聖母戴冠』です。
《ロザリオのソナタ》は、受胎告知から始まって、イエスの誕生と成長、捕縛と受難、復活と昇天といった聖母マリアとイエス・キリストに関わる物語を音楽化した作品です。そして、この作品最大の特徴が『スコルダトゥーラ』という特殊調弦です。
《ロザリオのソナタ》では、通常低い弦からソ・レ・ラ・ミと調弦されるヴァイオリンの調弦を、第1曲《受胎告知》と第16曲《守護天使のパッサカリア》以外は曲毎にスコルダトゥーラして調弦を上げたり下げたりして書かれています。中には緊張感を高めるために異様なまでにピンピンに張力を上げる曲もあるのですが、『聖母戴冠』の調弦はソ・ド・ソ・レと最低弦以外は全て一音低く調弦されて張力が下がるため、柔らかな音色で演奏されます。
そんなわけで、今日はビーバーの《ロザリオのソナタ》から、実質的な終曲である『聖母戴冠』をお聴きいただきたいと思います。ハヴロ・ベズノシウクのバロックヴァイオリンで、2時間以上にわたる壮大な聖母マリアの物語を締めくくる暖かな響きの音楽をお楽しみください。