今日は薄曇りの空が広がる、雨でもカンカン照りでもない過ごしやすい陽気となりました。
そんな中、今日は先日の《鳥獣戯画》展でも訪れた上野の東京国立博物館にやって来ました。こちらの本館で、現在
特別展《国宝聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ》が開催されています。
奈良県桜井市にある三輪山を御神体として祀る大神神社(おおみわじんじゃ)は日本最古の神社として有名ですが、かつて仏日本古来の神々と仏教とが結びついて考えられた神仏習合(しんぶつしゅうごう)の時代には、その境内にいくつもの神宮寺が建っていました。その中のひとつだった大御輪寺(だいごりんじ)に安置されていたのが
現在、同じく奈良県桜井市にある聖林寺におわします、天平彫刻の傑作として名高い十一面観世音菩薩立像(国宝)です。
現在、同じく奈良県桜井市にある聖林寺におわします、天平彫刻の傑作として名高い十一面観世音菩薩立像(国宝)です。
この展覧会は、明治時代の神仏分離令によって廃寺となった大御輪寺ゆかりの十一面観世音菩薩立像(聖林寺・国宝)や
平安時代作の地蔵菩薩立像(法隆寺・国宝)等の仏像や、大神神社の御神体であり禁足地である三輪山への信仰にまつわる様々な出土品等を展示して、三輪山信仰の歴史の深さに思いを馳せるものとなっています。
8世紀・奈良時代に作られた聖林寺の十一面観世音菩薩立像は、日本彫刻史上最高傑作のひとつとして有名です。ヒノキの一材から大まかな形を掘り出して内部をくり抜き、別材の両腕や手首を取り付けて指先に鉄線をいれて作った木心部に、漆に木屑を混ぜて練った木屎(こくそ)を盛りつけて形作る木心乾漆造(もくしんかんしつづくり)という技法で造られています。
聖林寺の十一面観世音菩薩立像の特徴は
何と言ってもその厳しくも美しい顔立ちです。卵型の輪郭、ややつり上がり気味の瞼、くっきりと眼球周りのラインを刻んだ目、がっしりとした鼻筋、ややきつく結んだ口元…そのどれもが魅力的です。
また、柔らかい木屎漆で制作された木心乾漆造ならではの特徴が
指先の表現の繊細さです。ふわりと曲げた指先は、まるで体温すら感じられそうな完成度の高さです。
指先の表現の繊細さです。ふわりと曲げた指先は、まるで体温すら感じられそうな完成度の高さです。
また
十一面観世音菩薩が乗る蓮台の花弁の一枚一枚にも細やかな表現か見られ、一部の隙も感じられません。正に、天平時代当時の最新・最高の技術を投入して造立された、一大プロジェクトであっただろうことが窺えます。
十一面観世音菩薩が乗る蓮台の花弁の一枚一枚にも細やかな表現か見られ、一部の隙も感じられません。正に、天平時代当時の最新・最高の技術を投入して造立された、一大プロジェクトであっただろうことが窺えます。
また、あまり拡大した写真が無かったのですが、
蓮台が載る三重の台座は花紋型の神鏡のような形をしています。こうしたところに、神仏習合の痕跡が垣間見えるような気がしています。
この像にはかつて光背があり、今回は
現在、奈良国立博物館に寄託されているその光背残欠も展示されていました。因みにこの光背残欠を基にして、2014年に在りし日の光背が西陣織で織られたタペストリーで復元され
現在、聖林寺の大悲殿では観音像の後ろに掛けられ、かつての華やかな様相をしのばせています。
今回の展覧会では、現地では聖林寺大悲殿のガラスの向こう側におわします十一面観世音菩薩立像を
かつて大御輪寺に安置されていた頃のように三輪山を背にして立つかたちでの展示となっています。また、今やスタンダードとなったと言っても過言ではない360度展示をして、現地では絶対に拝観することのできない
かつて大御輪寺に安置されていた頃のように三輪山を背にして立つかたちでの展示となっています。また、今やスタンダードとなったと言っても過言ではない360度展示をして、現地では絶対に拝観することのできない
お背中をも拝見することができます。これは大変貴重な体験で、本来ならば絶対に見られることのない背面まで拝観できることで、この像の造立に真摯に取り組んだ天平人の矜持と篤い信仰心を感じることができます。
今回も日時指定券での入場となりましたが、その効果もあってか会場内はそれほど混み合わず、ゆったりと観ることができました。十一面観世音菩薩立像が現地で祀られているのと同じくらいの高めの台にのせられて展示されていることもあって、多少人の頭が重なっても御顔が見えなくなるということも無く、心ゆくまで拝観することができました。
この特別展は9月12日まで開催されています。この十一面観世音菩薩立像が奈良県外に出開帳されるのは今回が初めてのことですので、機会があれば是非おいでになってみてください。