今日の日中は夏日に迫る暖かさとなりました。もう、厚手の上着は御役御免になってもいいのかと思うくらいでした。
ところで、今日ネットでちょっとした調べ物をしていたら、YouTubeの画面に
先日ご紹介したゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)のヴァイオリン・デュオの動画が出てきました。以前《4つのヴァイオリンのための協奏曲》を検索したことでアルゴリズムに載りやすくなっていたのだろうと思いますが、偶然にも20年以上前に自身で演奏したことのあるものだったので懐かしくなったので載せてみました。
その作品とは、『ガリヴァー旅行記』を基にした2つのヴァイオリンのための組曲です。
『ガリヴァー旅行記』は日本では童話的な作品として知られていますが、元はアイルランドの風刺作家ジョナサン・スウィフト(1667〜1745)によって仮名で執筆された風刺小説で、正式な題名は、
『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』
と言います。原版の内容はイギリスから搾取されるアイルランドの惨状を暗に皮肉ったものでしたが、イギリスの大衆の怒りを買うことを恐れた出版社によって大きな改変を加えられた初版が1726年に出版され、1735年に完全な版が出版されました。
『ガリヴァー旅行記』は、出版当初から人気があったようです。そして、初版刊行のわずか2年後の1728年にテレマンがこれを題材として書いたのが《2つのヴァイオリンのための組曲『ガリヴァー旅行記』》です。
この組曲は5つの曲からなります。
第1曲:イントラーダ
もしオーケストラ作品ならトランペット屋ティンパニで華やかに鳴らされそうな、冒険の始まりを告げる導入曲(序曲)です。
第2曲:リリパットのシャコンヌ
日本で『ガリヴァー旅行記』といえば真っ先にこの場面を想像する、リリパットという小人たちの国での出来事を描いた場面です。
通常シャコンヌと言えば3/4拍子のゆったりとした曲ですが、何とテレマンは
チョコマカした小人の国に合わせて3/32拍子というとんでもない細々した拍子で書いています。上の印刷の楽譜だと気になりませんが、実際の楽譜だと
これでもかというくらいぎっしり音符がと詰め込まれていて、解読するのも一苦労です(汗)。
第3曲:ブロブディンナグのジーグ
リリパットとは正反対の巨人族の国ブロブディンナグでの物語です。本来ジーグは6/8拍子の軽快な音楽ですが、そこは流石に巨人の国、今度は
なんと一拍が全音符の24/1拍子というとんでもない単位の拍子で書かれています。
第4曲:ラピュタの住民たちの夢想と、目を覚まさせる下僕たち
なんとここでは『天空の城ラピュタ』が登場します。ジブリ映画の『天空の城ラピュタ』でも、スウィフトがラピュタについて書いていることをパズーがシータに語る場面があります。
ただ、ここに出てくるラピュタはジブリ映画で描かれたテクノロジーの巣窟のようなものではありません。天空に浮かんだ城を使って地上を支配して富を搾取し、意に沿わないところの上空に城ごと飛んでいって日光を遮り作物を枯らしてしまうという、どちらかといえばムスカが望んだような歪んだ支配者的存在として描かれています。
第5曲:礼儀正しいフウイヌムのルールと、ヤフーの野蛮な踊り
高貴かつ知的な馬の種族フウイヌムと、猿の姿をした野蛮な種族ヤフーとを描いた場面です。
フウイヌムを表す優美なルール舞曲と、ヤフーを表す駆け回るような異なる2つの曲がいっぺんに演奏されることによって、2つの種族の対象的な有り様が表現されています。
先日ご紹介した《4つのヴァイオリンのための協奏曲》もそうですが、テレマンは通奏低音を伴わない同族楽器でのデュオ・アンサンブル作品を多く残しています。こうした小品はチェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバといった通奏低音楽器がなくても楽しめるものとして当時から手軽に演奏されていたでしょうが、それから世々経て今日でも貴重なバロック・デュオ・アンサンブルのレパートリーとなっています。
実際に演奏してみると分かるのですが、実はこの曲は全体的に第1ヴァイオリンより第2ヴァイオリンの方が難しいのです。これはモーツァルトの作品でもありがちなことなのですが、メロディを担当していないセカンドパートの方が音符が多くて大変なのです。
幸いなことに、私は当時第1ヴァイオリンを担当したので難を逃れましたが、もし第2ヴァイオリン担当だったら大変だったと思います。特に最後のヤフーのパートはフウイヌムの倍くらいの音符数があるので、あの時第2ヴァイオリンを担当していた知人はさぞ大変だったろうと思います。
そんなわけで、今日はテレマンの『ガリヴァー旅行記』をお聴きいただきたいと思います。テレマンならではの、2挺のヴァイオリンで奏でられるガリヴァー旅行記の世界観をお楽しみください。