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さつま芋掘り

 サツマイモを塾生と掘りに行った。私の父が畑で作っておいてくれるサツマイモを毎年この時期になると掘りに行く。かれこれ20年以上続けている、私の塾の恒例行事だ。小学生を対象として参加者を募るのだが、これを待ちわびている者たちもいてなかなか楽しいイベントである。
 2週間ほど前から11月6日にサツマイモ掘りに行くことを塾生には告知してあったのだが、天気予報が思わしくない。どうも雨模様だと知った父は、午後1時からの予定を午前中に変更できないかと気を揉んだが、私立受験コースの小学生や中3生の受験補習の予定も組み込んでしまっているので変更はできないと言い切ったものの、どの予報を見ても日曜は昼過ぎから雨だとの予報。外れることが多い天気予報だから、案外晴れるんじゃないかと高をくくったのだが、あろうことか今日に限って完璧に予報どおりの天気になってしまった。午前中授業をやりながら、天を気にしていると10時半頃からぱらぱらと降り始めた。「あー、降り出したよ」という私の声に参加予定の女の子が溜息をつく。次第に強くなる雨脚に「今日は無理だな」と私が呟くとその女の子も小さく頷く。畑に早朝から出向いていた父が一度戻ってきた。「無理だよね」「う~ん、来週にするか」簡単に決まったが、できるなら今日行ってしまいたかった。私も父も空を恨んだ。
 しかし、どうしたことか12時を過ぎたら、パタッと雨が止んでしまった。「これなら何とか行けるね」女の子が私を促す。「行くか」と私は家にいた父と相談をした。「畑にはシートが覆ってあるから濡れていない。そのシートを上にあげて屋根代わりにすれば少々の雨なら何とかなる」父のその言葉で決行を決める。何度か保護者からの問い合わせの電話が入るが、「やります」と答えて準備を整えた。
 結局10人が集まった。参加予定よりもかなり減ったが、この雨で中止と判断した家庭が多かったのだろう。グズグズして雨が降り出しても困るので約束の1時ちょうどに出発した。このまま1時間ほど降らなければいいのに、という願いも虚しく途中で雨が降り始めてしまった。しかも午前中とは比べ物にならないくらいの強い雨だ。何て運が悪いんだと思ったところでどうしようもない。このまま行くしかない。畑についた頃は雨音が激しく、子ども達も顔を曇らせる。しかし、芋畑は先乗りした父が、竹を柱にして、敷いてあったシートを屋根のように上げてくれていた。覆いができた芋畑は合羽さえ着ていればさほど雨に濡れずにサツマイモが掘れるようになっていた。いつもながら父の工夫の巧みさには頭が下がる。何でこんなことを思いつくのかと思うほど工夫が素晴らしい。それに頼ってばかり来た己の不甲斐なさは・・・などと思ってもいられない。とにかくイモを全力で掘って、子ども達を少しでも濡れないままで帰さなくてはならない。
 一人一畝ずつ掘るようにといっても、小学生であり簡単には掘れない。そこで、私が備中鍬で掘って助けてやるのだが、背の高い私がシートの下で背をかがめながら掘っていくのは大変だ。ものの五分も動いたら腰が痛くなってどうしようもなくなる。しかし、ここで弱音を吐くわけにもいかず、シートから身を出して雨に濡れながらも次々に掘り返していく。横で待っている子ども達が出てきたイモを、土を払いのけてビニール袋に詰め込む。今年はなかなか大きなイモができている。子どもの顔くらいありそうな物まで出て来る。きゃっきゃっ言いながら子供たちが袋に入れていくのを見ていると、来てよかったなと毎年思う。いくら都会から離れた町だと言っても土に触れることは少ない子供たちばかりだから、慣れない手つきながらも収穫を体験できるのは原初的な喜びを味わえるようで、歓声が絶えない。これで天気がよかったら、秋空の下もっともっと歓声がこだましたのに、と残念でならなかった。いくらシートで覆いをしたところで、合羽で防備をしたところで、夢中になった子供たちにはさほどの効果もなくなってしまう。全員泥んこでぬれねずみになりながらも、袋いっぱいにサツマイモを詰め込んだ。中には2袋を一杯にした者もいて大収穫だった。「さあ、帰るぞ」という私の声に促されて畑を後にした子ども達は「ありがとうございました」と一人一人お礼を口にする。それを聞いた父はニコニコしながら「おいっ」と答える。来年もこうやってここに来ることができるように、と私は思いながら子ども達とバスに乗り込んだ。
 雨中のイモ掘りではさすがに全員がどろどろになった。子ども達がバスに持ち込んだドロを明日掃除するのが大変だと思いながらも、楽しいときを過ごせた幸せを感じた。本当に来年も同じようにイモを掘りたいなあ。


 
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