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後置修飾

 中学3年の英語が一番面倒なところにさしかかった。分詞から関係代名詞にいたる、句や節が後ろから前の単語を修飾する文の形を理解させるのには、毎年手間どる。もともと日本語にはない修飾の仕方だから、簡単には理解できないのだろうが、学校でこれを「後置修飾」などとおどろおどろしい文法用語を持ち出して説明するものだから、余計に生徒たちに拒否反応が広がる。
 例えば、「背の高い少年」なら、日本語の語順のとおり a tall boy と言えばいいから簡単だ。それが「髪の長い少年」となると a boy with long hair とはやくも「後置修飾」となってしまう。それでもまだこれなら、前置詞 with の働きによるものだと説明すれば難しい用語など使わずとも理解してもらえる。しかし、これから先がややこしい。
 「何か食べるもの」これは不定詞 to を使って、something to eat 。これには無理矢理 something to ~ という熟語だと言っておけば何とか文句は出てこないですむ。しかし、文法的に言えば、これは不定詞の形容詞用法「~するための(べき)」だなどと解説したら、その瞬間に多くの生徒が拒否反応を起こしてしまう。だから、熟語として覚えさせようとしているのだが、分詞を使った文になるともうそんなことは言っていられない。しっかりと説明しなければ、「分からない」の嵐になる。私もできることなら、「後置修飾」などという言葉は使いたくないのだが、使わなければ学校での説明と齟齬が出る恐れがあるので仕方なく使っている。
 「走っている少年」 a running boy 。これはOKだ。しかし、「公園を走っている少年」 a boy running in the park 、これになると途端に怪しくなってくる。「なんで後ろからなの」という質問が必ず出る。当然だ、日本語は常に前から後ろの言葉を修飾するのだから。その質問に完全に答えるには言語学的な説明が必要になってしまう。そんなことを言っても余計に迷わせるだけなので、「幾つかの単語がまとまって一語を修飾するときには、そのまとまりを後ろに置くことになっている。だから「後置修飾」と呼ばれるんだ」と説明するしかないのだけれど、果たしてどれだけの生徒が納得してくれたのか心もとない。まあ、結局は言語の違いなど頭ではなく、慣れで克服していくしかないのだから、何度も暗誦すればそれとなく理解できるようになるものだと私は思う。だから、「わからなくても何度も口に出して読んでみろ、そのうち分かるようになるから」と励ましている。
 そうやって関係代名詞も乗り越えようとするのだが、なかなか簡単なものではない。続けて書いていこうと思ったが、簡単に纏められるものでもないので、次の機会に譲ろうと思う。今は文部科学省が英語を小学校の科目に導入することを決めたことに触れたい。1ヶ月ほど前に、妻がNHKのラジオのニュースでそれを聞いたらしいが、翌日の新聞にも載っていないし、TVでも取り上げられなかった。聞き間違えかと不審に思ってメールを送ったところ、NHKから我が家に電話がかかってきて、誤報などではなく、しっかりと裏づけのあるニュースであるからと返事が帰ってきた。しかし2・3年の内というだけで正式に何年後とまでは決定していないようだし、授業内容も現在の「総合」の時間を使うのかどうかも、決まっていないらしい。妻は小学生に英語を教えている関係上、「どうなるんだろう」と私にたずねてくるが、そんなことは私には分からない。ただ、中学校のように教科書を使って文法的に説明していったところで、現状を前倒しにするだけで、決して使える英語が身に付くわけがない。耳で聞いて英語のリズムに慣れて、間違いを恐れず、恥ずかしがらずに英語をどんどん話すーーそうした方針で進めるならば、少しは成果が現れるかなと淡い期待は持ちたいと思う。
 しかし、そうした教え方のできる先生を養成するのにかなりの時間がかかるだろうから、簡単にはいかないかもしれない。しかし、性急にことを進めずにしっかりしたビジョンの下に、ぜひ実現してもらいたいと思う。
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