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ディアスポリス

 週刊モーニングに連載中の「ディアスポリス-異邦警察」が今一番面白い漫画だと思う。単行本は7巻まで出ているが、全部持っている。単行本を毎巻買っているいるのは他に「あずみ」だけだから、私にとってはこの二作を現今の二大漫画と称してもいい。
 

 「異邦警察」とはどんなものか?その概略が第一巻に記されている。

 東京には密入国異邦人(ディアスポラ)・不法就労外国人、約15万人。
 悪い奴もいるが、貧しい出稼ぎや日本政府の認定を受けられない難民も大勢いる。
 そういう連中が、この東京で
密入国外国人の密入国外国人による密入国外国人のための都庁をつくりあげた。
 そこには役所もあれば厚労相の許可しない病院や文部科学省の知らない学校、金融監督庁と無関係の銀行、郵便局、警察・・・。 

 こんな組織など実際には存在しないだろう(たぶん・・)が、ひょっとしたらあるかもしれないと思わせるリアリティーで迫ってくるこの物語の主人公は、警察署長として、日夜厳しい任務を全うしている久保塚早紀である。「異邦人」を唄った久保田早紀と似た名前をもち、ハードボイルド時代の松田優作を髣髴とさせるいでたちで、部下の元エリート銀行員鈴木とともに、裏都民の安全と平和のためにまさしく身を挺して次々現れる敵と戦う彼の記録と呼ぶべきものが本書である。
 暴力的なシーンも多いし、絵柄も決してきれいとは言えない。しかし、実に面白い。私の知らない裏世界を垣間見る好奇心のようなものが刺激されるのかもしれない。しかし、脚本者のリチャード・ウー(実は日本人らしい)は、
 「そんな胡散臭い物語(本書)は、実はあなたと地続きのすぐ近くにあり、今現在、そして将来の日本だということも、ご理解ください」
と警鐘を鳴らす。母国で迫害を受けて日本に逃げ込んだ者、一攫千金を求めて日本で夢をかなえようとした者、そうした様々が背景を持った人々が織りなすドラマは、たとえ漫画の世界の話だとしても心を打つ。誰もが必死で生きているのに、決してうまくいかない、そんな社会の裏側にうごめく人々の生き様について語れるだけのものを私は何も持っていない。この物語に登場する人物は、皆悲しく辛い過去を背負っている。この日本という国の中でぬくぬくと生きてきた私などには彼らのなめて来た辛酸は想像すらできないであろう。
 だが、そんな私でも、ここ数日来のチベットでの暴動のニュースを見聞きするたびに「裏世界が私たちと地続きである」というウーの言葉が現実味を帯びた重い響きをもって胸に迫ってくる。報道によれば、チベット民族の中国政府に対する苛立ちが爆発したものだと言われているが、それに対する中国側の過酷な取り締まりもこれから問題となるであろう。オリンピックを目前に控え、沈静化に躍起となるあまり、チベット民族への弾圧が強まることさえあるかもしれない。その場合には、国を脱出し他国へ逃げのびる人々も多くいるだろう。そのうちの何人かが日本にやって来て、私の近くに身を潜めることだってないとは言えない・・。毎日の自分の生活だけで精一杯の身には、唐突とも思えるチベットの騒乱に知らぬうちに拘わってしまうかもしれないのが、現代社会だ。閉じられているようですぐに他とつながってしまうのが現代である。まったくの対岸の火事などというものは実はもうないのかもしれない。
 周囲わずかな範囲のことにしか心が向かない毎日を送りながら、時にはそれではいけないと苛立ちながらも、どうしようもなくやっぱり流されていってしまう、そんな風にして毎日を暮らしていったら、いつの間にかにっちもさっちも行かなくなっている、そんなことにならないように、時々は「ディアスポリス」を手にとって、世界の情勢に思いをはせるのも私にとっては大切なことではないか、などと少々強引なことも思ったりする昨今である。
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