☆ 兼好法師の「徒然草」は箴言にあふれている。
☆ 私は第41段「五月五日、賀茂の競馬(くらべうま)を」が好きだ。
☆ 兼好法師が、賀茂の競馬を見に行ったが、人が混雑していてよく見えない。ふと目をやると向かいの木に登り、枝の股のところにしゃがみこんで見物している坊さんがいる。この坊さん、木の上だというのに居眠りをはじめ、落ちそうになっては何度も木にしがみつく。見物人たちはそれを見て、「愚かだなぁ。危ないなぁ」とバカにする。
☆ それを聞いた兼好法師が放った言葉が、「我等が生死の到来、ただ今にもやあらむ。それを忘れて、物見て日をくらす、おろかなることは、なほまさりたるものを」(私たちはいつ死ぬかわからない。今この瞬間かも知れない。それを忘れて日々を過ごしている。愚かなのは、あの人以上だよ)
☆ これを聞いた見物人たちは、誰が言ったのかと振り返り、「まったくその通りだ」といって、場所を開けてくれたという。
☆ 私たちはいつも死と隣り合わせにいる。それを忘れて日々だらけて過ごしているのではないか。忙しさに大切な何かを忘れて生きているのではないか。
☆ 兼好法師の言葉は、心に刺さる。その言葉に感じ入る見物人たちの感性もすごいと思う。