河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

第19回香川県理学療法士学会の特別講演

2014-02-16 | 研究・講演
以下の内容で特別講演をさせて頂いた。



健康寿命を延伸する Closed Kinetic Chain エクササイズ

 わが国では超高齢社会を迎え、後期高齢者の今後の増加を考えると介護予防事業がより重要となる。特に加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)は高齢者の転倒・寝たきりの原因として、その予防は喫緊の課題である。サルコペニアでは筋衛星細胞数減少による修復・再生能低下により筋量が減少するだけでなく、α運動神経が減少して他の運動単位の発芽(sprouting)により支配比が増加(Roos et al, 1997)することで運動単位が減少し、typeII 線維の選択的脱神経と周囲のtypeI線維からの再支配などが見られる。さらに神経筋接合不全、毛細血管血流不全などが起こるとされている。すなわちサルコペニアの改善には筋組織だけでなく神経細胞やそれらを栄養する血管細胞も含めた神経筋単位のトータルな再生が必要である。
 私はアメリカ留学時、整形外科に設けられたバイオメカニクス研究室に所属し、当時はまだあまり知られていなかったClosed Kinetic Chain のコンセプトに感銘を受け、スポーツや加齢で障害を受けやすい膝関節のバイオメカニクス研究に取り組んできた。1955年に Steindler が記述した Closed Kinetic Chain ( CKC ) のコンセプトは、1980年代後半から前十字靱帯再建術後のリハビリテーションとして注目を集めることになった。その理由として、CKCエクササイズは再建靭帯にかかる負荷がOpen Kinetic Chain (OKC)エクササイズよりも小さいという研究結果が注目されたことが挙げられる。変形性膝関節症においては従来 OKC での大腿四頭筋訓練や膝伸展位下肢挙上(SLR)訓練が推奨されてきた。しかし整形外科でしばしば処方されるこれらのOKC運動は、関節面にいびつな圧分布を生じることと異常な運動パターンを形成させる点で問題を残した方法である。そこでCKC によるホームエクササイズとしてお風呂好きの日本人のライフスタイルを利用してバスタブでレッグプレスを行う入浴エクササイズ ( NY Ex. ) を考案し、その有効性を検討してきた。CKCでは膝関節における剪断力が減少する一方で圧迫力が高まるが、高齢者ではCKCでのレッグプレス出力が著明に低下しており危険なストレスが発生することはない。むしろ、最近の基礎研究からは適度な歩行やリズミカルなレッグプレス運動は軟骨代謝を刺激する効果があると考えられる。
 最近になって、冒頭に述べたような観点から筋肉の力学的作用に着目するだけでは真の健康寿命の延長はできないのではないかという疑問を感じるようになり、CKC運動の特性を解明するためのバイオメカニクス研究に加えて、細胞・分子レベルでの基礎研究も行うようになってきた。中でもリハビリテーションの分野では古くから物理療法として用いられてきた電気刺激に可能性を感じるようになってきている。
 サルコペニアには運動療法が有効であるが、施設利用高齢者のように身体機能の低下した高齢者においては必ずしも高負荷の筋力増強トレーニングが行えない場合もある。低負荷で安全に運動を行う試みとして筋電気刺激と周期的水平揺動刺激を組み合わせることによる新しい筋力増強方法を開発した。
今回の講演ではこうした新しい取り組みについて、細胞・分子レベルでの基礎研究についても触れながら考察してみたい。

コメント
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