川天使空間

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「地をはう風のように」高橋秀雄・作 / 森英二郎・画 福音館書店

2011年05月01日 05時19分13秒 | 創作・本の紹介
ひでじぃさまの最新作。

--春・土色の風の中で--

春、暖かいおだやかな朝を迎えた日の午後に、山から直に下りてくる、強い西風。
地をはう風が、田んぼの上をのして行き、新田の砂や土を巻き上げて、さらっていく。
地の底から空までを、黄色に、茶色に、灰色に染めた。
強い風にゆさぶられる冒頭。すさまじい。

そして、
「コウゾウはいつだって目をつりあげている」
の一文に、はっとする。

六年生の井上公造。
コウゾウは一年生になる弟の稔、母のキヌエ、祖母のキヨ、家族四人で鬼怒川の近くのトタン屋根の家に住んでいる。
生活が苦しく、「本宅」と呼ばれる忠明さんの家の世話になっている。

薪割りをするコウゾウと一緒に力をいれていた。
自分自身の鬱積した思いもコウゾウの思いといっしょに腹の底につめこんでいた。
「筋の強い木がギギギィと小さな音を立てて、切れ目からゆっくり傾いていく瞬間がたまらなかった」
その瞬間を感じて、腹の底につめこんだ思いがさあっと解放された。
「積み上げた面が平らになったところで、地面に残った薪を胸にかかえた」
ここのうれしさ、わかるわかる、と思ったら、後半の部分に
「コウゾウは壁に隙間なく積まれた薪を見るのが好きだ」とあって、ますますうれしくなった。

--夏・ちがやが咲く道--

忠明さんの田植えを手伝うコウゾウたち。
「畦から田んぼの中に入るときには足がすくむ」
苗舟が、そこに見えて、足や手や腰の痛みまで伝わってきて。
ぐったり疲れて、
「ちがやの白い穂の中にゆっくりと体を倒した」
弟の稔みたいに、気持ち良くて眠りそうになった。

そういえば、ニラ虫取りって、やってみたいかも。
家に帰ったとき、「夏だというのに寒々とした感じの囲炉裏が照らし出された」。
この部分で何故か、前の方にあった「囲炉裏の火がごちそう」の意味がぱあっと実感された。

忠明さんはケチだけれど、息子の忠雄さんはコウゾウたちをかわいがってくれる。
町の言葉で話すおばさんのねぎらいの言葉や笑顔に救われるコウゾウ。
喧嘩両成敗と、どの子も公平に扱ってくれる吉田先生。
辛い環境だけれど、コウゾウのまわりにはあったかい人たちがいる。

母のキヌエが飯場に住み込みのまかないをやることになったとき。
おばさんに「なんでも相談してね」と言われ、涙を流して返した言葉が、
「いづも、そうです……」
コウゾウの気持ちがこもっていてこっちも泣けてきた。
キヌエと別れる場面では、悲しみマックス。

--秋・ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん--

祖母のキヨは「悪いけど百円ばっかし、貸してもらえっけ」と近所の人たちから金を借りては返していない。
あろうことか、転校してきてコウゾウの隣の席になって淡い恋心を抱いていた文子の母にも借りたことがわかった。
いずれそのことは文子にもわかって、蔑まれるにちがいない。
「どうせおれなんか」と、考えてしまう。
葬式の花かごから投げられた小銭を集めても百円には届かない。
そんなとき、割り算の問題で、コウゾウはクラスで12番目に正解を出し、「がんばったなコウゾウ」と吉田先生にほめられる。
ここでついに、ぶわっと泣けてしまった。
そして、文子に自分の傘を貸して、自分は大きな蕗の葉をさして雨の中を、
「ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん」
うれしさマックス。&、ぼろ泣きマックス。

--冬・いなりずしの季節--

学芸会の勧進帳で、コウゾウは駿河次郎の役をもらう。
気が短い駿河次郎の役をコウゾウに割り振った吉田先生、グッドジョブ。
文房具を扱っている呉服屋わきやで学芸会の衣装のためのボール紙を買ったら、おつりを返してもらえない。
「あと十円でいいがら」とわきやのおタキさんが言う。
キヨが貸した百円にあと十円ということだ。
コウゾウは怒り狂う。
でも、学芸会の準備は順調にすすめられ、学芸会の前の日は、各家でいなり寿司を作る。
ここで悟一やん登場♪ 旧知の人に会えたようなうれしさににんまり。

--ふたたび春・オリオン座の星たち--

川原のネコヤナギを見に来た啓子と文子。
コウゾウはみすぼらしい家を見られたくなくて家から出られない。
「ねえ、ここ、だれか住んでんの」という文子の声。
どうせおら家は人が住めないようなボロ家だと、卑屈になるコウゾウ。
翌日は学校で荒れまくり、のぼるとけんかしようと踏みだそうとしたとき、「井上君」と、文子が泣きそうな顔でしがみつく。
コウゾウを校舎の裏に呼び出した啓子は、
「文ちゃんは知らねで言ったんだし、悪気なんてこれっぽちもねえんだから」と言う。
「おめえがのぼるになんかけんかふっかけっから、文ちゃん泣いてたから」と。
うわーっとうれしくなって困った。

忠雄が結婚することになり、風呂場を新築するので、古い風呂桶がコウゾウの家に来ることになった。
重い風呂桶を力を合わせてなんとか家にしつらえ、夜、お湯をわかす。
軒で半分しか覆われない風呂のそばで忠雄さんに肩を抱かれ、星を見る。
「♪星はなんでも知っている~」
未来が見えた気がした。


ひでじぃさまのご本は、少しずつ、少しずつ、「読まされて」いく。
自分の体が、本の世界に入りこんでいく。
いつもながら、ただ、ため息。

お話に圧倒されて、ちょっとだけ自分の創作に戻る。
どうして自分はこうも薄っぺらいのだろう。
今日もびよよよ~~ん (*^ __ ^*)
コメント (2)
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