母がお風呂から上がってきた。足が悪く歩くのもゆっくり一足一足だ。すかさず母の腰にバスタオルを巻く。それから母が前に作ったバスタオルで作った上着?を出して、不自由な右の腕から通し左の腕を通した。
「助かるなあ」と言い、居間に入っていく。
それも一足一足。一歩を踏み出すのに時間がかかる。わたしが見ていると
「まるで嫁っこみたいだな」と苦笑いした。
「なんも。母さんは可愛いから大丈夫だあ」と応えるとわたしの返事が思いがけなかったのか、照れくさかったのか、反論しなかった。
そうだよね。
お嫁さんの道中はゆっくり一歩を踏み出すのに時間がかかるよね… って、ん?
母さん、お嫁さんじゃなくて、花魁(おいらん)道中じゃないの?
って思ったけど、あえて口にしなかった。