青い山脈
17才の吉永小百合さん。
リアル高校生の時に女子高生
役でバイク通学するシーンが
珍しい。
学校の先生もスクーターで通
勤している。
原作は石坂洋次郎の1947年の
小説で旧制高校を舞台とする。
だが、映画化3作目の本作では
新制高校に設定が変更された。
実際には撮影された1962年当
時には、バイク(という呼称は
存在しない。バイクという呼
び方は1970年以降に誕生した)
自体はたとえスーパーカブで
も非常に高価な物であり、バ
イク通学する女子高生などは
国内にはほぼ存在しなかった
というのが実情だろう。よほ
どの富裕層でない限り。
しかし、富裕層はいるもので、
当時乗用車で幼稚園に送り迎
えしてもらっていたお嬢様も
いたりもした。国民のごくご
く一部には。
それがなぜ特異であるかとい
うと、当時乗用車は高価な二
輪よりもさらに超高価であり、
1950年代末期では現在価値に
換算すると1台数千万円に相当
した。今の高級外車程度。
日本国民に自動車が普及しは
じめるのは、1964年の東京オ
リンピック以降だった。正確
には1960年代末期にようやく
四輪車は国民に普及して来た。
それに先行して、四輪車より
は廉価だったオートバイは
車より早期に普及した。
日本人が自由に海外に旅行に
行けず、海外渡航には預金残
高証明書を提出し、政府が認
めた国民しか海外に出る事が
出来なかった戦後~1960年代
は、日本人は本当に貧しかっ
たのだ。外貨獲得の為に、日
本人自身が海外に出る事を基
本的に禁止していたのが戦後
だった。
私が生まれた頃や幼い頃は、
そうした時代ゆえ、海外旅行
になど行く人は国民の中でご
く一部の「限られた選ばれた
人」でしかなかった。
二輪車や自動車の所有におい
ても、現代とはまるで異なる
世情だったのが事実だ。
国内移動で飛行機を利用する
などというのも、1960年代に
は映画の中の世界だけの事で、
一般的な日本人ではそれはあ
り得なかった。
だからこそ、「銀幕のスター」
たちは、洋式の最先端の家に
住み、車に乗り、女性も大学
に進学し、普段から綺麗な服
を着て銀座で買い物をする日
常、というような夢物語の世
界を見させてくれるので、映
画自体も国民的な人気を持
つものだったのだといえる。
日本の庶民の現実を描いた
1962年の『キューポラのある
街』のような超ウルトラリア
ルな作品は映画作品ではレア
だったのだ。殆どが空想夢物
語の作り物のお花畑物語が
映画では描かれていた。
基本的にシュールレアリスム
や現実主義を拒絶する方向で
戦後の日本映画は作られてい
た。
戦後15年目前後は大金持ちは
ハーレーに乗り、若者たちは
国産車に乗った。
この図式は戦後に裕福なアメ
リカへの憧憬と羨望がそのま
ま車両に投射されたものだ。
この日本人の心根は現代でも
続いており、「高級車ならベ
ンツ」という選択肢に繋がる。
また、芸能人や富裕層が二輪
ならばハーレーという現代に
も蔓延する傾向は、戦後日本
の貧しかった時代の貧しい心
がそのまま残存していると断
言できる。ハーレーそのもの
が好きで乗っている人は日本
人には少なく、ベンツと同じ
く「富の象徴」としてハーレー
を選ぶ心根が背景にあるケー
スが多い。同じ高価な価格帯
でもイタリアのドゥカティや
アグスタを選ぶ芸能人はほぼ
いない。
車=ベンツ、二輪=ハーレーが
富の象徴であり「成功者」で
あるかのような金権主義に毒
された日本人の代表が芸人や
芸能人の車選びだといえる。
今でも日本人でハーレーに乗
る者で真にハーレーそのもの
を愛している人は極めて少な
い。実態はもろにベンツ嗜好
と同じ位相にある。
この同作映画化3作目の吉永小
百合主演作品は、バイク通学
女子高生という当時ほとんど
存在しない設定を描写に入れ
た事からも分かるように「銀
幕世界への憧れ」を狙った作
品という側面もあるといえる
だろう。裕次郎出演映画のよ
うに。
前年の吉永小百合(16才)主演作
品の『キューポラのある街』
のほうが実際のリアルな当時
の日本の状況を描いている。
本作品は、戦後直後の小説が
原作だが、青春学園物の嚆矢
ともされている作品で、かな
りのお花畑の天然が入ってい
るのも確かだろう。
ただ、戦前戦中とは異なる新
しい価値観「自由主義」を謳
歌しようと教師も生徒も真剣
に考えるくだりは時代なりと
いえるだろう。
カラー作品となると、妙にリ
アル感は出てはいる。
現在2024年から61年前の時代
が映されているが、カラーで
リアル女子高生の吉永小百合
が見られるというのが貴重だ。
同年作品の『上を向いて歩こ
う』では、女子高生ではなく
ティーンながら工場で働くし
っかり者の女性を演じていて、
その演技力に瞠目する。
まるで10才以上も年が上の
女性のような演技を見せて
いるのだ。
やはり、10代の頃から吉永小百
合さんは名女優だ。
熱狂的ファンの「サユリスト」
が誕生したのも頷ける。