楊貴妃の眼からは涙がとめどもなく後から後から流れ出ています<涙欄干>。その様子を詩人は次のように歌っております
”梨花一枝春帶雨 <梨花一枝 春の雨を帯ぶ>”
今にもこぼれそうな真っ白い小さな梨の花に、“春帯雨”が。しっとりとした春の雨が降り注いでいるようであったと。
どうです。たったこの7文字の中に、とんでもないほどうっとりとさせる美人の美しい涙を言い現わしています。「うまい」と、自然に唸り声が出そうなほど素敵な文章ではありませんか。「長恨歌」で私の一番好きな文章です。
“梨花一枝 春の雨を帯ぶ”
この美しい涙の後、楊貴妃はようやく声を玄宗の使人「方士」に掛けます。その声は
”含情凝睇謝君王”
馬嵬駅で別れしてから沢山の思いをいっぱい胸にして、じっと一点を見つめるようにして、「天子様はいかがですか」と。ここを又読むと、楊貴妃が言ったであろう、その声の大きさ、早さ、抑揚までもが読む者をして感じさせずにはおかないように心に響くようではありませんか。
なお、この「凝睇」を<ギョウテイ>と読んだ方がいいのか、それとも「睇<ヒトミ>を凝らして」と呼んだ方がいいのか分かりません。私の「前書」には<ギョウテイ>と読ましております。意味は 『楊貴妃(太真)は今までの数々の思いを込めて、じっと瞳を凝らし、玄宗へ、方子を使いとして此処に来させてくれたと心の中でお礼を述べました。』というぐらいになると思いますが????