オホクニは落ちた鼠の穴から這い上がって、「スサノヲ」と妻「須世理毘売」の、何とも言い表わせられないような、怪しげな雰囲気の前に、突如として、出てきたのです。その時の二人の顔は如何に???これも想像するほかありませんが、これ又、この劇を演じさせるとしたら、その俳優さん泣かせの場面だと思います。でも、その時、スサノヲは、スセリヒメは、何を言ったか、また、どのような会話があったのかも何も書かれてはおりません。次に書いてあるのは、
“爾持其矢以奉<スナワチ カノヤヲ モチテ タテマツル>”
とです。オホクニは、そのような二人の間に飛び出してきて、その場の摩訶不思議な雰囲気を察知したのでしょうか、何も言わずに、ただ、ネズミから受け取った”鳴鏑<ナリカブラ”の矢をスサノヲに差し出したのです。
その後、3人が如何なる会話をしたかも書かれてはおりません。次に書かれているのは
“率入家而。喚入八田間大室”
<イヘニ ヰテ イリテ ヤタマノオホムロヤニ ヨビイレテ>と読ましております。 「八田間<ヤタマ>」の「田」について、宣長は「その意は未だ思い得ず」と書いておりますが、柱と柱の間が8つもあるような大変広い部屋であることには違いないと思いますが、そこへ案内します。この場所を宣長は、スサノヲの
”内寝<ウチツミヤ>”
だと説明があります。寝室です。そこへ案内したのですから、よほど親しい人でないと連れて行ったりはしない筈ですが、さて、何の目的で、そのような内向きの処へスサノヲは案内したのでしょうか???