やあ、いらっしゃい。
過ぎ行く夏に名残は尽きねど、季節は秋を迎えようとしている。
夏の間、夜毎開催して来た怪奇の宴も、今夜で一旦お終い。
続きはまた来年、お盆の頃より語らせて貰おう。
さて3日前だが、私は予言や予知をあまり信じないと言った。
だが「第6感」といった、所謂「勘」の力は案外信じている方だ。
根拠を挙げるなら…例えば地震が発生する直前、岩盤に掛かった圧力の為に電磁波が発生する事が観測されている。
よく言われる「大地震の前に動物が奇妙な動きを見せた」という噂は、実際の話らしい。
平常時以上に放出された電磁波を不快に感じて起した行動との、実験結果が出されているのだよ。
我々人間だって、電気をビリビリ感じたら、不快に思うだろう。
つまり人間にも動物同様、そういった予兆を感じ取る力が有る筈なのだ。
今から紹介する話は、68番目に話したのと同じ、『捜神記』に在る1篇だ。
振り返れば今年は中国の怪談話ばかり紹介して来たが、北京オリンピックも有った事だしと大目に見て欲しい。
非常に短いが、前置きを念頭に読めば、中々に奥深く感じられるだろう。
始皇帝が秦を治めた時代、長水(ちょうすい)県に1種の童謡が流行った。
「御門に血を見りゃ、お城が沈む――」
誰が謡い出したともなしに、この唄はそれからそれへと拡がった。
或る老女がそれを気に病み、毎日その城門を窺いに来るのを見て、門を守っている将校は彼女を脅してやろうと思い、密かに犬の血を城門に塗って置いた。
すると老女はそれを見て、驚いて遠くへ逃げ去った。
その後、忽ちに大水が溢れ出て、城は水の底に沈んでしまったと云う。
天変地異の前に不穏な空気が流れるのは事実見られる。
他人の予言や予知頼みをしているばかりでは、自己の感覚は研ぎ澄まされない。
先ずは己の直感を信じて、己の判断で動く勇気を持とう。
生きようとする力にこそ、不思議は満ち溢れている。
それと余談だが、今回紹介した話も日本の伝説に影響を及ぼしている。
最後の最後に説教臭くして申し訳無い。
これにて今夜の…そして今年分の話はお終いだ。
それでは今年最後の蝋燭を吹消して貰おうか。
……有難う。
残りは25本……随分暗くなったものだ。
此処までお付き合い下さり有難う。
お蔭で毎晩楽しく過せたよ。
願わくばまた来年…この薄暗い小部屋で、残り25本の蝋燭と共に、貴殿が来るのを、待ち侘びて居るよ。
その日まで、御機嫌よう。
くれぐれも夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
そして、風呂に入ってる時には、足下を見ないように…。
いいかい、約束だよ…。
参考、『中国怪奇小説集(岡本綺堂、編著 光文社、刊 捜神記―亀の眼―の章)』。
過ぎ行く夏に名残は尽きねど、季節は秋を迎えようとしている。
夏の間、夜毎開催して来た怪奇の宴も、今夜で一旦お終い。
続きはまた来年、お盆の頃より語らせて貰おう。
さて3日前だが、私は予言や予知をあまり信じないと言った。
だが「第6感」といった、所謂「勘」の力は案外信じている方だ。
根拠を挙げるなら…例えば地震が発生する直前、岩盤に掛かった圧力の為に電磁波が発生する事が観測されている。
よく言われる「大地震の前に動物が奇妙な動きを見せた」という噂は、実際の話らしい。
平常時以上に放出された電磁波を不快に感じて起した行動との、実験結果が出されているのだよ。
我々人間だって、電気をビリビリ感じたら、不快に思うだろう。
つまり人間にも動物同様、そういった予兆を感じ取る力が有る筈なのだ。
今から紹介する話は、68番目に話したのと同じ、『捜神記』に在る1篇だ。
振り返れば今年は中国の怪談話ばかり紹介して来たが、北京オリンピックも有った事だしと大目に見て欲しい。
非常に短いが、前置きを念頭に読めば、中々に奥深く感じられるだろう。
始皇帝が秦を治めた時代、長水(ちょうすい)県に1種の童謡が流行った。
「御門に血を見りゃ、お城が沈む――」
誰が謡い出したともなしに、この唄はそれからそれへと拡がった。
或る老女がそれを気に病み、毎日その城門を窺いに来るのを見て、門を守っている将校は彼女を脅してやろうと思い、密かに犬の血を城門に塗って置いた。
すると老女はそれを見て、驚いて遠くへ逃げ去った。
その後、忽ちに大水が溢れ出て、城は水の底に沈んでしまったと云う。
天変地異の前に不穏な空気が流れるのは事実見られる。
他人の予言や予知頼みをしているばかりでは、自己の感覚は研ぎ澄まされない。
先ずは己の直感を信じて、己の判断で動く勇気を持とう。
生きようとする力にこそ、不思議は満ち溢れている。
それと余談だが、今回紹介した話も日本の伝説に影響を及ぼしている。
最後の最後に説教臭くして申し訳無い。
これにて今夜の…そして今年分の話はお終いだ。
それでは今年最後の蝋燭を吹消して貰おうか。
……有難う。
残りは25本……随分暗くなったものだ。
此処までお付き合い下さり有難う。
お蔭で毎晩楽しく過せたよ。
願わくばまた来年…この薄暗い小部屋で、残り25本の蝋燭と共に、貴殿が来るのを、待ち侘びて居るよ。
その日まで、御機嫌よう。
くれぐれも夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
そして、風呂に入ってる時には、足下を見ないように…。
いいかい、約束だよ…。
参考、『中国怪奇小説集(岡本綺堂、編著 光文社、刊 捜神記―亀の眼―の章)』。