
原子炉級プルトニウムで核爆弾が作れるか?その結論は、YESでもありNOでもある。以下少し古い記事ですが、「アゴラWeb」を参考です。
日本が現在国内外に保有しているプルトニウムの総量は約48トン。その殆どは”原子炉級プルトニウム”。メディアはその48㌧を”原爆6000発分”と表現しているが、これを使えば日本がすぐにでも強大な核兵器国になれるといわんばかりの報道だった。
これはホントにミスリードな表現なのか?
原子炉級と兵器級プルトニウムと
チャーチル”その8”でも述べた様に、原子炉でウラン燃料を燃やすと副産物としてプルトニウムができる。
初めのうちにできるのはプルトニウム239(Pu239)で、核分裂の効率が良く、原子炉の燃料や核爆弾の理想的な原料になる。しかしウラン燃料を長時間燃やし続けると、他にPu240やPu241などの高次の同位体(混ぜもの)が次第に増える。
しかし、”混ぜもの”が増えると中性子や熱の発生が増え、核爆弾は作り難くなるとされる。
故に、軍事用兵器として核爆弾は、高い信頼性が求められるので、”兵器級プルトニウム”とよばれるPu239の純度が高い(93%以上)奴が使われる。
一方、原子力発電所(軽水炉)で出来るプルトニウムは、”混ぜもの”が増え、Pu239の純度は50~60%程度に落ちる。これを”原子炉級プルトニウム”と呼ぶ。
燃料級(82~93%)で核爆弾に転用可(核実験実績あり)、原子炉級(70~82%)で転用おそらく可(実績なし)、MOX級(70%以下)で転用不可能、とされる。
原子炉級プルトニウムの2つの課題
原子炉級プルトニウムでは本格的な核爆弾はきわめて作り難くなるとされる。その原因は以下の2つ。
まず1つは、”混ぜもの”が増え、それらから多量の中性子が発生し、核爆発の点火装置が常時点きっ放しの状態が生じる事だ。
結果、爆縮の途中から連鎖反応が始まり、プルトニウムが超臨界になる前に蒸発飛散すると。
この現象は”早期爆発”と呼ばれ、”湿った爆弾”になり、十分な爆発威力が発揮できない。但しその場合でも、威力は広島や長崎の1/10程度が期待できるとあるが、近似計算による推定でしかなく、実証した実験例は一つもない。
1994年に民主党クリントン政権下の米国エネルギー省(DOE)は、”1962年に原子炉級プルトニウムを用いた核爆発装置の実験に成功し、その爆発力は20キロトン以下であった”と発表した。日本の某新聞はそれを鵜呑みにし、”商業炉のプルトニウムで核爆発が成功した”と報じた。
しかし、この実験に使われたプルトニウムは”原子炉級”ではなく、”燃料級”であった。つまり兵器級にかなり近く、とても原子炉級と呼べるものではなかった。それに商業炉ではなく軍事用の原子炉で作られたもの。
つまり、この報道とDOCの発表はウソだったのだ。実際には巨大な火薬の爆発程度であったと言われる。
古い時代には”燃料級”を含め”原子炉級”と呼ぶ時期があった。あえて”原子炉級”と”爆発力20kt以下”という情報のみを流す事で、現在の定義による原子炉級プルトニウムで、相当量の威力の原爆ができそうな嘘のイメージを流布し、プルトニウム利用推進派を沈黙させるを目論んだのだ。
この発表は見事に功を奏し、殆どの日本人やメディアはその嘘を今日に至るまで事実として信じ込んでいる。
もう1つの問題は発熱である。
この発熱が、実用的な核兵器を作る時により深刻な問題となる。通常核兵器では、兵器級プルトニウムの発熱は10W未満に抑えられるが、原子炉級プルトニウムでは、僅か8kgで90~150Wの発熱がある。こうした発熱体をTNT火薬で包むと、内部の温度は火薬が不安定化する100度をはるかに超える。大きな火薬玉に100ワットの白熱電球を埋め込むようなものだ。
高温の発熱体である原子炉級プルトニウムの場合、プルトニウムを囲む金属球を常時は外し、使用寸前に組み込むような形態の核爆弾しか作れない。故に、待機時の安全性と使用時の性能の高い信頼性を要求されるミサイル搭載用核弾頭にはとても使えないのだ。
つまり、原子炉級プルトニウムは核爆発装置の兵器として”当てにならない”ものといえる。
日本の原子炉級プルトニウムは脅威になり得ない?
以上述べた様に、原子炉級プルトニウムはミサイル搭載用の核弾頭にはとても安心して使える代物ではない。
米国の核武装関連累積コストを見ると、約9割がミサイルなどの搬送手段とその誘導制御システムに割かれており、核爆弾そのもののコストは1割に過ぎない。
仮に日本が核武装するとしても、ミサイルと誘導制御システムのコストが相対的に大きくなるだろう。その高価なミサイルに載せる核弾頭に安全性や性能信頼性が保証できない原子炉級プルトニウムを使うという、バカな選択をする国がどこにあろう?
核武装の必要性が生じた時は、”専用の生産炉”を作り、そこで生産した兵器級プルトニウムを使い、信頼性の高い防衛システムを構築するしかない。故に、日本がいくら原子炉級プルトニウムを溜め込んでも、世界に実際上の脅威を与える事にはならない。
わが国が保有する48㌧のプルトニウムはIAEAにおける厳しい監視下に置かれ、日本がこっそりと不正転用する事などとてもできない構図になってる。
それでも仮にどこかの国から疑義を持たれた場合、”万が一核武装の必要が生じた時は、我が国は兵器級プルトニウムを生産し、信頼性の高い兵器を作る。原子炉級プルトニウム転用を疑うのはわが国を見下しているに等しく、大変失礼ではないか?”とやり返せばよいだろうと。
最後に
ハッキリ言ってそこまでの危険を冒して、核兵器を作る必要が何処にあろうかとも思う。つまり核兵器は、お金の掛かり過ぎる超危険廃棄物に過ぎない。
”核が戦争の抑止力になる”という神話も都市伝説になりつつある。
核に代わる精度の高い情報兵器を作った方が近道のような気もするが。これからの戦争は、「米中もし戦わば」じゃないが、”戦わずにして勝つ”という事だろうか。否そんな綺麗事じゃ済まんのか。
最近、アメリカの中国パッシングが続いてます。バブル期のジャパンパッシングも結構強かったんですが、ファーウエイとの次世代5G争いは、アメリカとしては何としてでも阻止したいでしょう。
情報がいかに国益と戦争において有利に立てるかを物語ってます。命中貿易戦争に関しては、転んだサン同様にやや中国に分があるかなと思いますが。ファーウエイ締め出しの件では、アメリカに分があるかなと思います。
花より団子じゃなく核より5Gなんですよね。
イランとの軍事衝突が唯一の関心事なようで。
Huaweiの件は、一時的であってもサイバー攻撃は絶対に許さんぞというアメリカの強い意思表示でしょうか。
全く主導なき時代の勝者はどの国なんでしょうか?