ここ数日は民度の低い記事で興ざめの部分もあったんですが、今日は少し民度の高い?テーマをです。少し長くなりますが、悪しからず。
全米中でデモが拡散し、暴動の度合いも広がってます。”抗議デモが暴動に発展した時、米軍部隊を投入すべきか”の問いに、52%が”支持する”と回答した(不支持は47%)との調査結果が報告された。白人の56%、中南米系の60%が支持するとの一方で、黒人の不支持は73%。党派別では共和党支持者の83%、無党派層の52%が支持、民主党支持の72%が不支持だった。
つまり、”アメリカ分断”の様相が色濃くなって来てますね。
2016年6月に出版された「ヒルビリー•エレジー」はアメリカでベストセラーとなり、世界中で高い評価を受けた。
英エコノミストは”2016年に出版された本の中で、アメリカを知る為に最も重要な一冊”と評した。
1984年生まれの若き白人のアメリカ人である著者J•D•ヴァンス自身が述べる様に、彼はイェール大学ロースクールを卒業し、経済的成功を収めてはいるものの、”人生で何か偉業成し遂げた訳ではない”。
そんな著者の人生を綴った本が大きな話題を呼んだのは、彼の故郷に暮らすアメリカ白人たちの姿が、トランプ支持者のそれとピタリと重なったからだ。
故に、”トランプ現象”を支える人々の実像を追い求め、多くの人がこの本を手に取った。
このアメリカの繁栄から取り残された白人たち(ヒルビリー)の現実は、多くのアメリカ人にとって知る由もない驚くべきものだった。
以下、「”ヒルビリー•エレジー”〜ドリームのないアメリカ」から一部抜粋です。
”ヒルビリー”(田舎者)
ケンタッキー州北東部出身であるヴァンスの家族の祖先は、アイルランド島北東部から18世紀にアメリカに移住してきた、スコッツ=アイリッシュだ。
彼の家族は自らを”ヒルビリー”(田舎者)と呼ぶ。住む家を転々とし、著者の故郷であるケンタッキー州ジャクソンでは住民の1/3が貧困状態にあり、離婚や薬物依存症も珍しくない。
アメリカで苦境にある人々と言えば、黒人やラテン系移民を思い浮かべるが、社会調査によるとアメリカで最も厭世的な社会集団は白人労働者なのだ。
つまり、極度の貧困に苦しむラテン移民や今なお差別に苦しむ黒人よりも、白人労働者階層は明日への希望を失っている。
彼らにとって、つらい現実を乗り越える為の活力となる筈のアメリカンドリームは、文字通り叶う筈のない”夢物語”でもある。
著者は、社会階層や家族が貧困の真っ只中にいる人々にどの様な影響を与えてるかを、地を這う人々の目線で、これでもかとリアルに教えてくれる。
本書は人の心を動かす力を持ってはいるが、トランプ旋風がなければ、この本はベストセラーにはなり得なかった。
一方で、逆境の中でも人生を投げ出さなかったヴァンスの姿勢や、彼自身が”CrazyFamily”と呼ぶ家族の特異さと愛おしさ、白人労働者を取り巻く絶望のどれもが真に迫る強度を持ち得ていたからこそ、この本は大きな反響を呼んだ。
崩壊した家庭と”CrazyFamily”
”一方の親は、私が生まれてからずっと薬物依存症と闘ってる。私を育ててくれた祖父母はどちらも高校も卒業しておらず、カレッジを卒業した親類も殆どいない”という。
ヴァンスの祖母は12歳の時に、家族の大事な資産である牛を盗もうとした泥棒をライフルで半殺しにしたと噂されていた。
親類の中で最も感じの良かったおじさんでさえ、母親を侮辱する言葉を吐いた自社の社員を殴り倒して気絶させ、電動のこぎりで腹を切り裂いた事がある。
ヒルビリーの人々にとって、家族を守る事はいつも善き事であり、ナイフや銃の使用ですら正義の執行に必要な手段に過ぎない。
一方で、ヒルビリーの文化は矛盾に満ちている。家族を大事にすると言いながら、子供を見捨て、家族を裏切る者が多くいる。
ヴァンスは12歳のとき実の母に殺されかけ、母を被告とした裁判を行っている。
ヒルビリーは誰もが一生懸命に働く事の大切さを説くにも関わらず、30%の若者が週に20時間以下しか働いていない地区もある。しかも、その若者たちは誰一人として自分の事を怠け者とは思っていない。
この独特な文化がどれほど根深く人々を蝕んでいるか?著者の過酷すぎる実体験が如実に物語ってる。
悲惨な学生生活を送ったヴァンスだが、自身を含め、貧しい子どもが学校で苦労する原因として、公的機関ばかりがやり玉にあげられる現状には違和感を覚える。
学校などの公的機関は重要ではあるが、貧しい子ども達の行く末を阻んでいたのは崩壊した家庭生活だった。怠惰•暴力•ドラッグで家族という最後のセーフティネットが破壊され、歪んだ価値観に生きるヒルビリーの抱える問題は、解決する事は勿論、正確に理解する事すら困難だ。
貧困白人の現実とこれから
祖母との2人暮らしで平穏を手に入れ、高校卒業後には海兵隊で多くを学んだ著者だが、後にイェール大学ロースクールに進むという成功を掴む。
大学に行く事すら珍しいヒルビリーでは望外の成果だ。社会階層の最底辺から頂上へ移動した彼だからこそ見えるものがある。
ヴァンス同様に、社会の上澄みだけで生きてきた人種には貧困のリアリティを知らない。どれだけ精緻に理論を積み上げても、彼らの声に耳を傾けない限り、真の姿は見えない。
大学時代のヴァンスがオハイオ州議員の元で働いてた時、給料を担保に高利で金を貸すペイデイローンを廃止する法案が審議されていた。多くの議員にとって、このローンは弱者からなけなしのお金をはぎ取る人食いザメの様な存在に映った。
しかし、カードすら作る事のできない著者を含む貧困層は、ペイデイローンの存在なしには、この瞬間すら生き抜く事ができないのだ。
ヴァンスの故郷の人々は、自らの選択が人生に何の影響も与えないと思いこみ、”自分ではどうしようもない”という感覚が拭い難く付き纏っている。
簡単に仕事を投げ出し、自分たちの境遇の責任を移民や黒人に押し付け、全てを諦めてる彼らの状況を変える方法などあるのだろうか?その価値観を揺さぶる事のできる言葉など存在するだろうか?
それでも、この問題を解決する為には、自分たちから向き合うしかない。著者はこう語りかける。
”こうした貧困の問題は、政府がつくり出されたものでも、企業や誰かがつくり出したものでもない。私たち自身がつくり出したのだ。それを解決できるのは自分たち以外にはいない”
繁栄から取り残された人々の存在は、遠いアメリカだけの話だけではない。製造業の海外移転や少子高齢化により、日本でも地方の衰退は加速している。
子どもの貧困も課題となっている。地方から東京へ出てきた人なら誰でも、衰退する地方に纏わりつく重い空気、そこから抜け出した事に対する複雑な思い、都市で暮らす人々と接して初めて感じる大きなギャップをヴァンスほどではなくとも経験している。
ヒルビリーが日本の未来の姿とならないようにする為に、自分達に何ができるだろうか。
以上、HONZからでした。
ヒルビリーとトランプ旋風と
ラストベルト(錆びた工業地帯)とは、2016年の米大統領選挙を説明するキーワードとして一気に認知度が上がった言葉だ。
この”ラストベルト”なくして、トランプの勝利はなかったのだから。
つまり、トランプ現象の震源地”ラストベルト”に住む”忘れられた白人”の叫びを、ただ一人聞き取ったのがトランプ候補だったという哀しくも奇妙な現実がそこにはある。
この言説を説得的に裏づけたのが、ラストベルトの叙事詩でもある2016年の「ヒルビリー•エレジー」であったのだ。
”僕は白人かもしれないが、北東部のワスプ(WASP)の一員とは違う。僕は大学を出ていない何百万といるアイルランドからきたスコッツ=アイルランド系白人労働者階級の一員だ。
普通のアメリカ人は彼らをヒルビリー、レッドネック、ホワイトトラッシュ(白いゴミ)などと呼ぶ”
確かに、この本にはトランプの名は一度も出てこない。しかし著者のJ•D•ヴァンスこそが、トランプ現象の底流にある叫び声を世界に伝えたのは事実だ。
つまり、トランプ時代のアメリカの声は疑いなく、このヴァンスの著作だろう。
彼の著作は完全に時代と共鳴した。
しかしなぜ、これほどの共振現象を起こしたのか?それは、人々がトランプ現象の不可思議な勢いと勝利に戸惑いつつ、ヴァンスの説明が見事に腑に落ちたからだ。いや、トランプを支持した自分たちを納得させる説明を何とか欲してたからだ。
ラストベルトに住む”忘れられた白人”の叫びをただ一人聞き取ったのがトランプ候補だったという説明は、ぎりぎりの所で”アメリカンデモクラシー”を救済した。
一方でトランプを受け入れなかった人も、ヴァンスの描いた白人の存在には心を痛めざるをえないし、彼らの声を聞き取る事ができなかったという反省を促した。
ヴァンスが描いた世界に住む人々は、選挙においてトランプが重要州を反転させる上で重要な役割を果たした。また、”忘れられた人々の叫び声”は、トランプ現象の”最初の一押し”であった事も間違いない。
つまり彼らがいなければ、トランプは予備選すら勝ち抜く事はできなかったろう。
貧困白人VS黒人
”オバマは初の黒人大統領として、人種を乗り越えなければならなかった。しかしトランプは、初の「白人大統領」として(白)人種を呼び戻した”(タナハシ•コーツ)。
このコーツの黒人から見た白人の世界は、ヴァンス同様に見事な言説ではある。コーツがオバマ時代のアフリカ系アメリカ人に新たな言葉を与えた様に、ヴァンスもトランプ時代の”忘れ去られた白人”に新たな言葉を与えたのだ。
そのコーツはこう反論する。
”ヒルビリー•エレジー的な言説は、トランプ現象の本質的な部分を隠蔽してる。トランプの台頭を、文化的な憤りと経済的な破綻に起因するものとする主張は、白人の評論家や知的リーダーたちの間では定型の説明になってるが、その証拠は危うい”
このコーツの議論に対しては、単純な人種決定論だとの批判も少なくない。また、それは人種問題のみには還元できない格差の問題などを逆に隠蔽してしまうとの批判もある。
コーネル•ウェストは後者の視点からコーツを激しく突いた。
誰もがこのコーツの描く世界は、行き止まりの世界である事を直感的に感じ取ってる。それこそ、トランプに批判的な人々も踏み込む事を躊躇する領域だ。
つまり、トランプの勝利を人種の問題に還元しちゃうと、紆余曲折を経ながら240年近くかけて構築してきたアメリカという概念が大きく揺らいでしまう。それをぎりぎりの所で抑えてるのが、”ヒルビリー的な言説”だ。
「ヒルビリー•エレジー」がトランプ時代に必要とされたもう一つの理由がここにはある。
以上、「ヒルビリー説がどうしても必要だった」を参考でした。
しかし哀しいかな、今回の全米中に広まった暴動で”ヒルビリー的な言説”も限界に来つつある。コーツの言う人種間の問題は根強いものがあり、”ヒルビリー”を超えるものがないでもない。
結局、人種間の問題や貧困白人の問題や諸々の格差の問題、依存症や薬物の問題。240年間のアメリカが抱えてきた様々な鬱憤と憤りが一気に爆発感染した今回の暴動とも言える。
最後に〜アイリッシュ系移民と野球
アイリッシュ系白人の貧困の境遇は、私も理解してたつもりだ。
「野球とニューヨーク、その1」と「その2」でも書いたが(要Click)、彼らの境遇は黒人よりも酷かったと言われる。当時は、身分においても黒人よりも低く見られてたからだ。
それでも初期のアイルランド系移民は非常にラッキーだった。タマニー派の恩恵もあって、マンハッタンに上手く溶け込み、仕事も与えられ、プロスポーツではメジャーリーガーやボクサーも多数輩出した。
しかし、それ以降に移住したアイリッシュ系は、アパラチア山脈に追いやられ、鉱山労働者として働く他、生きる道はなかった。ドイツ系移民は教育と知能があったから、全米中に拡散できたし、イタリア系は教育がなくとも、ニューヨークで飲食業を中心に1つの大きな地盤を築いた。
メジャーリーグが黒人を受け入れなかったのは、アイリッシュ系白人の存在が大きい。メジャー創立当初、白人の半分以上はアイリッシュ系だったとされる。
初期のプロベースボールは黒人も白人と混じってプレーしてたが、アイリッシュ系と黒人が対立し、暴力や喧騒を嫌った黒人がニグロリーグを作ったが、興行という点では白人リーグには敵う筈もなかった。
アイリッシュ系白人は教育や教養はなくても腕っぷしは強かったから、野球やボクシングでは活躍できた。
それ以降のアイリッシュ系の貧困の歴史は、この「ヒルビリー•エレジー」にも書いてある様に目を覆いたくなる程である。
まさに、”アメリカの繁栄から取り残された白人たち”そのものなのだ。
ただ、この本の著者のヴァンス氏はとても恵まれてはいた。ミシガン大学時代に出会った議員の存在がとても大きいと思う。
もし議員との出会いがなかったら、イェール大学ロースクールもこの本のベストセラーもなかったろう。
結局、何を書こうが何を言おうが、どんな辛い経験をしようが、全ては運次第なのだ。
しかし、アメリカの貧困はアイルランド系白人だけの問題ではなくなってきている。様々な人種間でかつ格差間で、この壮絶な貧困劇は容赦なく襲いかかるのだから。
つまり、美味しい話にただ飛びついただけでした。
ここにても貧困白人はトランプの掌の上にあったんですね。
結局、彼らは最初から”捨てられし移民”だったんでしょうか。それともアメリカを支え続け、”生き延びる白人”になるんでしょうか。
そういう意味でも今回の暴動は、黒人VS貧困白人のガチンコの戦いになりそうな気もします。
勿論、平和的なデモもあり、人種間の融和と融合を売りにしてますが。何処まで広がるやらです。
朝鮮半島でも、同じ人種なのに最後には断裂するんですよ。結局一度切れたら元には戻らないって事ですかね。
黒人も学歴をつけて経済的に自立すれば怖いもの知らずになる?イギリスの王室に嫁いだメーガン妃も強気ですね。
これは教育の有無から来ているのかも。ということは、黒人であろうが、白人であろうが、知能指数が全てを決定付けるような気がします。知能指数によって教育に格差が生じて、収入の格差になり、それが白人であっても、ゴミ扱いをされる人達になる?
そういう白人層が成功した黒人やアジア系民族を嫉妬して痛めつけるのではないかしら?
白人としての歪んだ自尊心があるからこそ差別が陰惨極まりないないものになる。
学歴の有無が人生の明暗を分けるみたいです。その為には大金を払ってでも有名大学へ行く。成功の全てがお金で手に出来るという昨今の堕落したアメリカンドリームです。
ただ知能指数で言うと、ユダヤ系やドイツ系に軍配が上がりますかね。トルーマンやレーガンもアイリッシュ系でアホ丸出しだったんですが、アイリッシュ系の米大統領って16人も、全大統領の1/3です。そのうち13人がスコッチ=アイリッシュ系で、純粋なアイリッシュ系と比べると雲泥の差です。
彼らの共通点は無骨で忍耐強い所です。でもタカ派ですぐにカッと来ますかね。結局、貧困白人といっても千差万別で、日本人には理解しにくいです。
その他にも、モンロー宣言の第5代モンロー、南北戦争の北軍大将だった18代グラント、史上最年少の42歳で大統領になったセオドアルーズベルト。それに国際連盟の設立に尽力した28代ウィルソン大統領ですね。それと42代クリントンを忘れてました。
純粋なアイルランド系移民は、35代ケネディと37代ニクソン、40代のレーガンの3人だけです。
スコッツ•アイリッシュとは、英国スコットランドからアイルランドへ移住してきたプロテスタント系で、つまり移民の移民ということですね。以上余計な補足でした。
ところが次第にイスパニック系、ユダヤ系、アフリカ系が社会で幅をきかすようになっていた。
トランプはマイノリティになりつつある白人保守層の期待に応えて登場したわけですが、支持者を意識するあまり今回、発言で失敗しましたね。
とは言え、アメリカという国は何だかんだ言って面白い国です。
色々と調べてくださって感謝です。
僅か?240年の歴史ですが、色んなものが凝縮した新大陸なんですね。
日本人の常識からすれば、理解に程遠いほどですが、日本も含めアジアの歴史が平ぺったすぎるんでしょうか。
面白いと言えば面白いし、怖いと言えば怖い。