ここに来て、ロシア軍が大規模なミサイル攻撃をウクライナ上空に晒し続けている。
西側専門家の予想が正しければ(だが)、今頃はF16 戦闘機がクリミア大橋を破壊し、クリミア半島はウクライナに戻り、ロシア軍は撤退を余儀なくされ、プーチン政権は失脚してたであろう。しかし現実は、丁度その真逆になりつつある。つまり、プーチンの勝算が現実のものになりつつあるのだ。
事実、昨年の12月、アメリカのシンクタンク(戦争研究所=ISW)が”アメリカがウクライナを見捨てれば、ロシア軍のウクライナ全土占領も不可能ではなく、アメリカは天文学的な軍事費を支払う事になる”との異例の警告を発した。
つまり、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアと直接対峙する欧州NATO諸国支援の為、アメリカは在欧米軍の大幅派兵を迫られる。更に、これを静観する権威主義の国々はここぞとばかり、中国が台湾に、ベネズエラがガイアナに、北朝鮮が韓国への軍事侵攻を強めたりと、あちこちで火の手が上がるだろう。
そうなれば、”アメリカは更に莫大な国防費を強いられる”との論法である。
JBpressでは、現在のNATOとロシアの戦力比較に基づき、「ウクライナ戦争後の最悪シナリオ」を予想する。
1/4と少し古い記事だが、ロシア側から見た”勝利のシナリオ”の可能性を探ってみたい。
プーチンの勝利のシナリオ
年末年始にかけ、ロシアはこの5日間で約300発のミサイルと200機の無人機をウクライナに対して使用したとされる。
ウクライナ空軍の発表によれば、昨年12月29日の未明から早朝にかけ、ミサイル122発と自爆型無人機36機を合わせ、158機(発)の空からの大規模攻撃があったとし、ウクライナはそのうち114機を破壊したという。
ロシアがこれだけ大量のミサイルと無人機を囮として攻撃に使ったので、ウクライナの防空部隊は非常に厳しい対応を迫られた。更に、これら囮で混乱させた後に3種類の高速ミサイルによる攻撃が高速で突っ込んでくるので、被害は当然大きくなる。
ウクライナの防空ミサイルの能力からみれば撃墜の可能性は高いが、囮を使われ、多数弾を撃ち込まれると撃墜が飛躍的に難しくなる。事実、撃墜数から推測すれば、高速空対地ミサイルや弾道ミサイルの全てを撃ち漏らしてるとの分析もある。
ロシアが、ウクライナの対レーダーミサイルのうち最も破壊したかったのは、パトリオットミサイルだ。もしウクライナにPAC3ミサイルが配備されてれば、ロシアの弾道ミサイルを撃破できるし、PAC2ミサイルが戦場付近にまで進出すれば、地上作戦を支援する戦闘機を撃墜できる。
つまり、ロシアにとって(西側で”愛国者”を意味する)パトリオットは、現段階で最も脅威な兵器なのだ。
一方でウクライナ軍は、これらについての情報を一切出していない。もしレーダーが破壊された映像を出せば、レーダーミサイル攻撃は成功し、ロシアが(この戦いで不利とされた)電子戦に勝利した事になる。
でも、なぜこの時期に集中したのか?
2022年の酷寒期直前(11/10~12/20の40日間)に実施したロシア軍の飽和攻撃と2023年同時期のミサイル攻撃を比較すると、22年は5回の飽和攻撃があったが、23年は一度もなかった。だが、今年は12/29の新年直前に100発を超えるミサイル攻撃を実施した。これは26日にロシアの揚陸艦が爆破された直後でもある。
本来ならロシアは、22年同様のミサイル攻撃を23年にもしたかった筈だ。が、ミサイルの保有・製造数から考えれば、最も効果的な時期に集中したかったのではないか。つまり、3月の大統領選挙の前に成果を挙げる為に、この時期に計画していたとの分析もある。
2022年(9~12月)の発射数と2023年同時期のミサイル発射数を比較すると、22年は1212発で23年は802発で、昨年は一昨年の66%。
この比率がこれからも続くのか?更に低下していくのか?更に言えば、西側が思ってる以上に手強いのか?そうでもないのか?
一方で、ロシア軍は地上軍兵器や弾薬が不足し、イランから導入する無人機以外の兵器生産量が回復しない事から、ミサイルの保有数も減少していくとの分析がある。事実、ロシアが北朝鮮から弾道ミサイルの供与を受け、発射したとの米高官の声明があり、更に、イランからも短距離弾道ミサイルを入手しているとの噂もある・・・
以上、深川孝行氏のコラムからでした。
結局は、プーチンの勝算は誤算に変わる可能性も多く残されてはいる。戦争に勝者はいないとされるように、この侵略戦争にも勝者は存在しないのだろうか。
アメリカを含む西側が疲弊し、同様にロシアも疲弊する。ロシアを援助し続けてきた中国も多少の損失を受けるだろう。
やがて先進国は後進国に成り下がり、その永華は過去のものになる。そんな光景が目に浮かばない訳でもない。
最後に〜プーチンの野望と誤算
今や専門家の分析の大半が当てにならない中で、この先を予想するのは殆ど不可能だが、このままアメリカがウクライナを見捨てれば、NATO共に孤立したウクライナは確実に敗北する。
一方で、表面上は余裕を見せているが、ギリギリの戦いを続けているプーチン政権も同じで、いち早く戦争を終わらせ、ロシア有利の状況下で(ウクライナ併合はともかく)停戦合意を結びたい筈だ。
”いつまでもあると思うな、親のスネ”でもないが、ウクライナはアメリカやEUの、ロシアは中国やイランのスネを齧り続けている。だが、米中両大国の支援は遅かれ早かれ尽きる事になる。
ただ、プーチンがEUから孤立したウクライナを骨抜きにし、アメリカから見捨てられたEUに対し圧力を掛ければ、プーチンの野望であるウクライナ支配は現実のものになるだろうし、欧州圏での勢力分布も旧ソ連時代に戻す事も不可能ではない。
一方で、EUがロシアからウクライナを死守し、アメリカ抜きでもロシアへの徹底抗戦が可能な事を証明できれば、プーチンの野望は誤算に変わるかもしれない。
仮に、EU対ロシアの対決となった時、侵略という野蛮な妄想が勝つのか?徹底抗戦という決死の覚悟が勝つのか?
もし歴史が繰り返すのならば、1853年のクリミア戦争と同様に、再びEUがロシアを跳ねつけるだろうし、時代が独裁者に味方すれば、ロシアはウクライナを駆逐する。
だが、歴史は同じ事を繰り返す事はなく、”韻を踏む”様に形を変えながら反復し続ける。故に専門家は、過去の歴史の要素を抽出して抽象化し、先を予測するが、それでも見事なまでに外れてしまう。
ただ言えるのは、強い筈のプーチンの覚悟は脆さを含むし、脆さを含んだ権力は潰れさる。
もっと言えば、プーチンの勝算は同時に誤算でもあり、過信と妄想が生んだ侵略戦争は虚無と喪失をもたらすだけに終わるのだろうか。
追記〜プーチンの過信
以上の記事は、今年の1月末頃に書き溜めてたものだが、ロシアの大統領選が近づくにつれ、圧倒的にロシアが優位になってきた。
一昨年の2月に始まったロシア=ウクライナ戦争だが、気がつけば2年を優に過ぎてしまった。”歴史は韻を踏む”と言うが、昨年の2月頃は”ここまで拗れたら全く先は読めない”との声が多かった。が、今はウクライナ敗北の声が大半を占めるようになっている。
初戦では猛反撃を受けたロシア軍だが、その後ウクライナ領内に侵攻し、120万人ものウクライナ国民をロシアに強制連行したが、そのうち50万人近くが子どもだった。つまり、ロシアは深刻で慢性的な人口減少に悩んでいる。
一方で、アメリカのバイデン大統領は、オバマ政権発足の2009年からこうしたウクライナ情勢に深く関与し、プーチンと確執を深めていた。つまり、米露は水面下でウクライナの奪い合いを展開していたのであり、当時のアメリカの司令塔こそが今のバイデン大統領だったのだ。
これだけでも、プーチンがウクライナに侵攻した理由にもなるが、当の本人は”ロシアは過去も未来も大国である”と豪語する。事実、第2次チェチェン紛争当時のロシア国民は、プーチンの”男ぶり”に熱狂した。
つまり、プーチンの”強いロシア”を支えてきたのが核兵器だ。即ち、核で相手を威圧するには、核使用が現実的選択肢である事を見せせつける必要がある。一方で、アメリカは”プーチンが核を使うかもしれない”と警戒するが、プーチンは”アメリカが核を使う”とは考えていない。
”裏切り者は決して許さない”
これこそがプーチン流の掟だが、”悪夢を現実に変えた”という点では、ルイ16世の恐怖政治と何ら変わりはない。
一方でプーチンは、自分をピョートル大帝に擬えている。つまり、350年も前のロシアを夢見てるのだ。そんなプーチンにとって、ウクライナは”スラブの同胞”でも国家でもなく、所詮は”奪いとる”だけの存在なのだろう。
つまり、プーチンに勝利するには、西側はもっとプーチンを知る必要があるのかもしれない(「プーチンの過信、誤算と勝算」(松島芳彦著)より)。
ロシア大統領選挙で17日、プーチン大統領が勝利し、5選が確実となった。
選挙管理当局はプーチンの得票率が87%を超えたと発表したが、そのプーチンは”票を10ドルで買えるアメリカの郵便投票とは別物だ”と揶揄し、”ロシアの民主主義は西側より透明性が高い”と述べた(BBC)。
ただ現実には、本来の意味での対立候補は1人も立候補を認められなかった。つまり、プーチン政権が対立候補を徹底して排除した結果であり、彼らは投獄されるか、国外に逃れるか、命を落とすかの選択肢しかないのだから・・・
ロシアが勝っても負けても、”ロシア難民”という新たな問題が発生しそうですね。
初戦こそまんまと裏を掻かれましたが、その後は何とか持ち直し、西側の消耗とウクライナの損耗を視界に入れ、大統領選の前には挽回に転じ、圧勝で5選を成し得ました。
今の所はプーチンのシナリオ通りですが、問題は山積みで、クーデター的政権がいつ転覆するか非常に不透明です。
慢性的な人口流出により、空洞化したロシアですが、このままだと暴君が支配するだけの核大国ならぬ過疎大国で終わるでしょうか。
paulさん言われてる様に、プーチンの勝算はそのままプーチン政権の破滅に繋がる気がします。
哲学本を熟読してると言うより
大統領演説では多少は学のあることを言わないと、単なる破壊者では国民からは無能みたいに思われるから
転んだ君が言ってるように
今のロシアは北朝鮮と同じで、実質は軍事クーデター的政権だからプーチンみたいな暴君でも務まる。
ネズミみたいに狡賢い所もあるけどプーチンの周りを固める奴らも同じ様な極右的な人種で、気がついたら周りには戦争バカしかいなくなったって事も考えられる。
でも旧世代の破壊兵器だけは腐るほど在庫があるから、いくらでも戦争は出来る。
ただ兵隊がいない。このままだと囚人兵もいずれ尽きるだろうし、プーチンの恐怖政治を恐れ、国外へ逃亡するロシア難民も増えるだろうな。
プーチンの思想の支えとなる哲学書で言えば、イリインの白軍贔屓、レオンチェフの保守主義、ダニレフスキーのスラブ主義などがあるものの、特にドゥーギンのユーラシア主義と極右的な思想は、プーチンに大きな影響を与えてると思います。
結局は、崩壊したソ連に代わる(2度と西側に屈する事のない)強いロシア帝国の樹立こそがプーチンの狙いかなと思いますが・・
でもやってる事自体は、単なる無差別大量破壊なんですが、そういう意味ではアメリカの正義と何ら変わりはない。
所詮、大国の主権とはそんなもんでしょうね。
プーチンの侵略戦争は核兵器の使用をチラつかせたもので、潤沢な大量破壊兵器がある限り、勝算は十分にあると思われます。
しかしその勝算はロシアとプーチンの破滅でもあり、破滅へと向かう入り口とも言えます。
他方、バイデンの過信と誤算は西側民主主義の破滅でもあります。
プーチンはウクライナを欧米に奪われる事が、ロシアの国家存亡に繋がると考えてますが、西側が思う以上にプーチンは狡猾でロシアは懐が深い。
またメンケルの盲信がプーチンの過信を生んだとされますが、09年から一貫して変わらないアメリカの対露政策もバイデンの盲信とも言えますね。
他方でプーチンは、19、20世紀のソ連の哲学者の本を熟読してたとされますから、思想的には国家が主導する”ロシア版民主主義”の繁栄を願ってるのでしょうか。
ともあれ、一筋縄では行かない危険な破滅性を持つ独裁者です。
そういう意味では、プーチンという人間を理解してなかったという事でしょうね。
器で言えばピョートルに劣るし、能力や知力ではエカチェリーナに劣ります。スターリンやフルシチョフやブレジネフと比べても同様です。
ただプーチンの場合、狡猾と言うか、とてもズル賢い所があります。一方で、教養とか品格とかは全く欠如してる様に思われます。
今や慢性的にクーデター化したプーチン政権ですが、恐怖で国家を支配するやり方には大きな疑問を感じます。
いずれ、某らの反動が起きるのは確実でしょうね。
プーチンも追い詰められた感があり、かなり無理をしてウクライナに攻め込んだ所がある。
特に、序盤の作戦が裏目に出た時は、支持率低下も噂されたが、そういうのを払拭し、再選に結びつけた。
勿論、対立候補がいない実質のワンマン選挙だから勝って当然だが、この後の何らかの反動がプーチンにとっては大きな驚異となるかもしれない。
歴史は韻を踏むが、何かとてつもない事が起きるのも歴史である。