象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

ドーハの悲劇からカタールの感激へ〜若き躍動と老雄の弊害と

2022年11月24日 14時43分55秒 | スポーツドキュメント

 1993年の”ドーハの悲劇”から29年。
 この期間が長かったのか?短かったのか?私にはよくはわからないが、同じカタールの地で悲劇は歓喜に変った。
 元々野球小僧の私は、熱烈なサッカーファンでもない。故に、この衝動を等身大に受け止める事はできないかもしれないが、ドーハの悲劇はやがて古い過去になり、ドイツに勝利した歴史的快挙という新たな過去にすり替えられていくのだろう。

 (八百長っぽかった)日韓大会以来、サッカーのワールドカップにはあまり興味が持てなくなっていた。その上、アジア枠が広がり、29年前のドーハで身にしみた様な最終予選の緊張感や異常なまでの興奮もいつの間にか消え去っていた。
 今大会も、金満国家特有の度の過ぎたインフラ整備で多くの出稼ぎ労働者が犠牲になり、人権問題などが焦点に挙げられ、悪評は留まる事を知らなかった。
 因みに、世界3位の原油資源を誇るカタールでの大会は”最も高額なW杯”と騒がれ、開催予算はロシア大会の約20倍に当たる2000億ドル(約28兆円)とか3000億ドル(45兆円)ともされる。


マラドーナになれなかったメッシ

 一方で、グループリーグの組合せが決まり、対戦相手がドイツとスペインだとわかった時、決勝トーナメント進出はほぼ不可能だと思い、ますます興味が失せた。
 ワールドカップには番狂わせが付きものだが、相手が優勝を狙う強豪国だと今の(スター不在と言われる)日本の力では番狂わせが起きる確率は異常なまでに低い。
 因みに、試合直前のオッズではドイツの1.44倍に対し日本は7倍で、日本が勝つ確率は17%。村田がゴロフキンに勝つ確率よりも更に低い。故に、どんな展開になろうが”番狂わせすら起きない”と直感した。
 もっと言えば、”日本が勝利するシナリオが思いつかない”のだ。

 そんな中、今大会の様々な悪評を払拭するかの様に、同じ中東のサウジアラビアがアルゼンチンから大金星を挙げるなど、番狂わせの下地は出来上がってたような気もする。
 アルゼンチンのメディアは”メッシの夢は悪夢に変った”と報じたが、”動けないメッシでは老いたマラドーナにすら及ばない”と言いたげでもあった。
 そこでもし、番狂わせが起きるとすれば、ドイツが(日本を見下し)油断するという、有り得ない様な初期条件付きに限られる。
 しかし、昨晩の試合を見る限り、”日本が強くてドイツが弱かった”と思えなくもない。
 だが、前半のドイツは予想通りに強かった。ランキングの差がそのままゲームに出ていたのは確かである。
 後半は日本が先に仕掛けた。4バックから3バックと攻撃的な布陣に変え、これがたまたま上手く行った。と言えば監督に失礼だが、想定内の采配であった事は”(苦しい展開だったが)プラン通りに戦えてる”という前半終了後のコメントからも理解できる。


長友不要説

 一方で、古株の長友選手が先発出場してたのを見て、不思議と嫌な予感がした。アルゼンチンのメッシと同じく”老いた偶像”に思えたからだ。
 いくら4大会出場の経験豊富なキーマンとは言え、36歳のベテランを先発させるなんて、少し無策すぎる。
 事実、”長友不要論”でサイトをググると、サッカーファンでさえ意見が分かれてるみたいだ。
 確かに、ビッグクラブで長年プレーし続けていたとは言え、彼を超える左SBがいないという事自体大きな問題だが、昨晩のドイツ戦を見る限り、”長友を外した”という(監督の)勇断が勝利を呼び込んだようにも思える。
 事実、彼を外した瞬間から(前半は重苦しかった)選手の動きが見違える程に良くなった。 
 つまり、昨晩のMVPはドイツの猛攻をPKの僅か1点で抑えた権田でも、若きストライカーの浅野や堂安でもなく、”老雄”長友を前半で見切りをつけた森保監督ではないだろうか。

 シュート数では日本の11本(後半だけで10本)に対し、ドイツは26本(後半13本)。ボール支配率でも日本の24%に対し、ドイツは65%。データだけから見れば、やはりチームとしての力の差はそのまま露呈してたように思える。
 そんな不利な状況の中、先に動いたのは日本だった。長友を外した事で、チームに新たな躍動と新鮮な空気が渦巻いてるのが手に取るように伝わってきた。
 長友という選手は嫌いではない。
 しかし、若手からすればいくら経験豊富なスーパースターだとしても、”お荷物”に思えるケースも少なくはないだろう。”世界のイチロー”ですら、マリナース時代の後ろ半分はお荷物的存在であったのだから。
 勿論、リスペクトは必要である。しかし、リスペクトも度が過ぎると歪な偏愛に変わる。選手だってキャリアや実績に拘り過ぎると、チームからみれば奇怪で浮いた存在になり果てる。
 ピッチ上に立ってる長友選手が、私の目には異常なまでに変質に思えたのもそのせいでもあろうか。

 事実、(最終予選を控えた春先には)評論家からも長友の代表入りを疑問視する声はあった。もし彼が20歳の選手であれば、先を見据えた大抜擢と評価されたかもしれないと。
 しかし、明らかにピークを過ぎた36歳の老雄をあえて代表に抜擢した森保監督に、何か納得させられるだけの策があったのだろうか?
 目先の勝利に拘り過ぎるが故、古株や過去の実績に頼り、自ら選択肢を閉ざした森保監督に弱気の虫が取り付いたのも、この時期である。
 しかし、敗戦を必要以上に怖がり、先が見えなくなっていた男の姿は昨晩のカタールの地にはなかった。いや、少なくとも後半の戦いでは”若さと心中する”というベスト8を見据えたプランが見え隠れしていた。


最後に

 特に、サッカーは(野球とは異なり)経験や過去の実績よりも、ここぞという時の瞬発力や豊富な運動量が大きな比重を占めるケースがある。
 TVで見る限りだが、長友ではドイツの攻撃についていけないと素人目にも判断できた。
 更に、後半で魅せた若い選手の猛猛しい躍動は、長友のそれとは次元が違うようにも感じた。経験やキャリアは長友の方がずっと上だが、勢いと鮮度が全く違う。
 試合後のインタビューでは、長友選手がカラ元気を出して騒いでるのを見るにつけ、やはり交代は正解だったと確信した。

 ”老兵は死なずただ消えゆくのみ”でもないが、日本から遠く離れたカタールの地での歓喜の中、かつての老いたヒーローはその甘くも苦い思いを独りで噛み締めてるのかもしれない。
 しかし、老雄を排除した日本チームの若き躍動が、強豪ドイツを撃破したのも事実である。
 サッカーだけでなく他のスポーツにもスキルや技術は必要である。しかし、メッシがマラドーナになれなかった様に、若き肉体の躍動と咆哮というのは、国家を背負った戦いでは大きなパフォーマンスを醸し出す。
 勿論、若さが全てではないが、若い血液と柔軟な思考は進化する上では、いや前へ進む上では常に必要である。
 現代数学も常に古典的な矛盾や哲学的な不完全性に悩まされながらも、若き天才らと共に将来を見据え続ける事で、大きく進化し幅広く繁栄してきた。

 長友選手には悪いが、彼が先発出場してる間は、今大会では1勝もできないと思っていた。事実その通りになりそうたが、もし私が森保監督だったら、彼を代表として選ぶ事はなかったろう。
 しかし、次のコスタリカ戦では(もし出場機会があるとしたらだが)老害を払拭する様な若手に負けない活躍を期待したいもんだ。



8 コメント

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4年前 (tomas)
2022-11-25 04:22:10
ドイツは前大会で韓国にまさかの敗北を喫し、決勝トーナメント進出を逃すという失態を演じたから、油断というのはなかったと思うけど
前半を理想的な形で終えて、慢心に近いのがあったんじゃないのかな。

長友の代表選出でも色々と議論が湧いたけど、この勝利で監督も吹っ切れたんじゃないの。

昨夜、韓国とウルグアイ見てたけど、サッカーって点が入らないスポーツだね。それに比べたら、日本の後半の2点なんてドラマチックすぎてまるで映画を見てるみたいだった。 
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tomasさん (象が転んだ)
2022-11-25 08:02:21
おはようございます。

ドラマチックと言えば
ドイツの26本のシュートを(PKを除いて)1本も枠内に許さなかったキーパー権田選手のパフォーマンスも圧巻でした。

ドイツは2大会続けてグループリーグ初戦でアジアの国に破れた訳ですが、今回はどんな言い訳も理由にならんですね。
それだけヨーロッパとアジアのレベルが急速に縮まってる訳で、韓国の選手がプレミアリーグの得点王に輝いてる事もそれを実証してます。

日本がヨーロッパや南米の強豪に勝っても”番狂わせ”と言わせない時代がすぐそこまで来てるような気もしますが・・・
スペイン戦でも日本選手の若き躍動を期待したいです。
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VARがなかったら (腹打て)
2022-11-25 09:53:40
日本は0-2で負けてたね。
監督はプラン通りと言ってたけど、2点目がオフサイドじゃなかったら、プランは完全に崩されてた。
当然、カードも切れなかったし、攻撃的采配も使えなかった。

本当の評価はこれからなんじゃないの
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-11-25 23:52:01
そ~なんですよ。
浮かれてる場合じゃない。

メディアは掌を返したように森保監督を称賛してますが、大会前はボロクソでした。
もしコスタリカに勝って2勝しても決勝トーナメントに行けなかったとしたら、メディアは誰を責めるんでしょうか。
そういう事にならないのを祈りたいんですが・・・
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負けちゃいました (hitman)
2022-11-28 05:20:17
何だかねぇ
こういう予感がしてたの・・
転んだサンは長友の老害のせいにしたかったようだけど^_^
今の日本の力ってこんなもんなのかなぁ
ドイツ戦は単なるまぐれって感じで

岡田さんがいいこと言ってた
ドイツ戦で勝つのも想定内だったし
コスタリカ線で負けるのも想定内だって
ドイツ戦で運を使い果たしたって思えば・・納得だけど 
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hitmanさん (象が転んだ)
2022-11-28 06:50:53
オッズから見れば
日本の1.8倍に対し、コスタリカの8倍。
日本がドイツに勝つ確率17%よりも、コスタリカが日本に勝つ確率が18.3%と僅かに高いですね。
つまり、岡田さんの”想定内”発言は当然とも言えます。

でも、ドイツ戦の勝利で浮かれた日本とスペイン戦での大敗で後がなかったコスタリカでは(条件付き確率で言えば)五分五分とも言えました。
こうして数学的に見れば、勝負はオッズ通りに運ぶんですよね。

ただスペインがドイツと引き分けたらしいから、日本に負けたら(ドイツを含めた)3チームが得失点差で並ぶ混戦になる。
オッズにもよるけど、スペインが本気なら勝つ確率はゼロに近いけど、引き分け狙いなら番狂わせもあるのかな・・・
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モンティのパラドクス (腹打て)
2022-11-28 13:33:44
じゃないけど
直感で見れば日本の勝利となるんだよね。
しかし浮かれ放しの日本と
1点でも与えたら終りのコスタリカでは事後確率は大きく変わってくる。
コスタリカは守りを徹底したが故に、負ける確率は大幅に減り、逆に日本の焦りを生んだ。

そう思えば、コスタリカは勝つべくして勝ったし、日本は焦りから自滅したとも言える。
油断はなかったと思うけど、本気で勝とうと思えば前半から長友を外し、3トップで行くべきだったのかな。

お陰でスペイン戦は盛り上がるだろうね。
でも歓喜から悲劇にならなければいいのだが
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-11-28 20:37:20
大会前の日本のグループ突破の確率は34%とされてましたが、ドイツに勝利した後は75%まで上昇し、コスタリカに破れ、29%に下落。更にスペインがドイツに引分けた事で20%まで下がった。
もしスペインが(引き分け狙いでなく)本気でやれば確率は0%近くに下がりますね。

34%→75%→29%→20%→0と単なる確率ですが、ここまで急降下します。
結果論ですが、ドイツに敗れコスタリカに勝ってれば・・・でも無理かな。

事実、英国メディアも”無理、もう終わってる。吉田も伊藤も・・・”とバッサリですね。
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