生まれた俺が悪いのか?それとも世の中が悪いのか?
何だか、ドラマ「非情のライセンス」(1973)の主題歌っぽくなってきましたが、夜の街も同じ状況にあるみたいだ。
「フォン・ノイマンの奇行」でも書いたが、勢い勇んで飲み屋街に繰り出した知人も、私と同じ様な散々な目にあった様だ。
彼は私と違い、(モテ顔という訳でもないが)イケメンで実年齢よりも確実に10歳は若く見られるという典型の”夜男”である。
彼なら私のリベンジを果たしてくれるだろうと、美味しい結果報告を待っていた。
すると、私の期待を察したかの様に朝一番で電話が鳴る。
男の声は少し沈んでいた。
私はやはり”何か良い事でもあったのかな”と逆の予想をした。
”人通りはとても賑やかだったんだけどね・・・”
”ええ?そんなに多かったの”
”ああ、いつもの年末の繁華街みたいだった”
”で、どうだった店の方は?包み隠さず言えよ。楽しかったんだろ?”
リベンジなるか?
男は少し声のトーンを上げた。
”君の言うとおりだった”
”どういう意味かな?”
”終わってたってこと”
”全てが?”
”ああ、全てが終わってた。もう昔の久留米じゃない。コロナの影響がここまで大きいとは・・・自分の目を疑ったよ”
私は内心ホッとした。もし自慢話で終止したら、どう切り替えそうか迷ってたからだ。
”でも多少は良いこともあったろ?”
”多少はねって言いたい所だけど・・・”
”ロシアンパブはどうだった?万が一、全滅した時の為に(滑り止めとして)教えておいたけど・・・”
”最初の居酒屋では結構盛り上がったんだよな。君のケースと同じよ。でもその後が最悪・・・”
男の声は再び沈んだ。
私は彼を励ます気に不思議とならなかった。只々、男の愚痴を聞いていたかった。
”ロシアンパブでも駄目だったか?まるで1億総玉砕だな”
”まったく、笑えないけど笑っちゃうな”
”でも、アベノミクスよりかはマシだったろ?(笑)”
”どっちもどっちよ。店に入れたとしても女がいないんだもの。通りは賑わってるのに、店内は誰もいないんだ”
”やる気あんのか!っていいたいよね”
”全く、商売根性すらない。唯でさえコロナで落ち込んでるのに、(店側の)何とか盛り上げようって気概すらない”
”そうなったら全滅だよね。客が落ち込んでるだけなら、ナンボでもカバーできるけど・・・”
男は笑っていた。
”そーなんだよ。強がりでもいいから、元気な所を見せてほしいんだ。店も客もお互いに鬱っぽくなって、雰囲気は最悪だ”
”でも人通りが賑やかなら、開いてる店も結構あったろ?”
”かなり閉まってた。行きつけの店は警察の監査が入ったりして、長らく閉店状態だったね。それにネオン自体が消え、閉鎖した店も多かったみたい。開いてたとしても、女がいない。いたとしても緊張感もない”
”ロシアンパブはどうだった?やはり駄目だった?”
”開いてはいたけど、(中華風の)ママさんが言ってた。<席は空いてるけどねぇ、女がいないから付けそうにない>と”
”いないって、何人かはいただろ?俺の時も僅かに4、5人だったんだから”
夜の街とオミクロン株
男の声は再び沈んだ。
”いや、本当にいないんだ。だって客の声しかしなんだもの、女がいないのは明らかだったさ”
”で、そのまま帰ったって事はないだろ?君は久留米には詳しいから、色んな店を知ってる筈だし・・・”
”1人になって2軒ほどハシゴしたけど、1軒は女が付くまで20分ほど掛かった。そこそこの娘だったけど、典型の農村出身女みたいで話が全く合わんかった”
”やはり女はいたんだ(笑)。もう1軒はどうだった?”
”笑い事じゃないよ。こっちはすごく落ち込んでたんだから・・・それに、2軒目はもっと最悪だった”
”君を持ってしてもリベンジならずか?”
”誰が行っても無理よ。会社や勤め人の団体客すら近づかないんだから・・・老人ばかりで年金を散財してるって異様な感じだったね”
私も少し落ち込んだ。
”ママさんは親切にしてくれたろ?今は必死な筈だから”
”それがやる気ないんだよ。中年の太ったチーママみたいなのが横についただけで、政治的な話ばかりして、それで8千円ほどの請求よ”
”払ったの?”
”まさか・・・半額にしてもらい、逃げるようにして帰ったさ”
”女はいないし、ボッタくるし、まるで悪夢だったね”
”君のブログをなぞってるみたいで、思わず笑ってしまったよ”
”やはり笑ったんだ。でも、年末年始もこんな風なのかな?”
”いや、もう少しは盛り上がるとは思うよ。だって年末年始は店の方も稼ぎ時だから、無理してでも女を入れて、客を呼び込むはずさ”
”県内外からも多くの客で賑わうだろうね。今は監査やらで閉鎖してる店も無理して開店するだろうし、年末年始を外したらそれこそ1億総玉砕だろうから”
男は再び沈んだ。
”でも、その頃はオミクロン株が流行りだすかもな。2度目のワクチンから時間も経ってるから、免疫も薄くなってるし・・・”
”年末年始は家でじっとしてるつもりなの?君はそんなのには耐えられんだろ?”
”いやどうかな?今の状況から見て、久留米の繁華街でオミクロン株が発見されたら、100%終わっちゃうね”
”確かに、飲み屋街って衛生的な面でもとても汚いし、換気なんてしてそうにもない”
”居酒屋だって昼間見ればとても汚いし、客も多く換気も怪しい”
”自分も今月はそこそこ羽根を伸ばしたけど、普通なら喉くらいは痛くなるのに、インフルエンザや風邪は流行ってないのかな?”
”コロナ一点だろうね。インフルも全てがオミクロンに置き換わる。毒性は判らないけど、油断するとコロナの二の舞になる”
”コロナの後はオミクロンか?廃れた夜の街よりもそっちの方が脅威だね”
男は(私が思うより)冷静だった。
”でも、ものは考えようよ。家でじっとしてて、オミクロン株で夜の街が潰れていくのを眺めるのも悪くはないさ”
”君が大好きだった夜の街が全滅しても?”
”うん、今の飲み屋街なら死滅した方がいい。君もブログで書いてたじゃないか”
”抱けない女なら抱かない方がいいって論理かな?”
”いや、抱かせない女なら(抱かない方がいい)ってとこかな”
”確かに、ただ会話して呑むだけなら、家で飲んだ方がずっと安全だし、お金もかからない。きれいな奥さんがいる人は言う事が違うね・・・”
”独身の君の方こそ羨ましいよ”
”年末年始は奥さんの為に奉仕するという事で、来年こそ良いお年をですよね”
”君こそ今年は色々あったから、来年こそはロシア美女が微笑むかもな”
”ロシアンパブに乾杯!”
”夜の街撲滅にも乾杯!”
最後に
本当は、男と一緒に飲み歩きたかった。こうなる事はある程度想定できたが、それでも男と一緒に死滅寸前の飲み屋街を歩いてみたかった。
私が予想した以上に”夜の街”は死滅しつつある。1億総玉砕でもないが、飲み屋街総絶滅と言えなくもない。
男が言う様に、年末年始はオミクロン株で夜の街は覆い尽くされるかもしれない。そうなれば、確実に日本の飲み屋街は沈没する。
3度目のワクチン接種がオミクロンの爆発感染に間に合えばいいが、多分無理だろう。
そういう私も、年末年始は家に引きこもるつもりだ。夜の街に魅惑な女神が存在しない事が判った以上、自分を開放する意味も誘惑に乗る気もない。
自粛に耐え続けた2年間だったが、それに対するご褒美は殆どなかったように思える。
自分を開放したくても、その開放する場がないという虚しさは、自粛以上にツライものだ。
確かに、夜の街で良い思いをしても散財が重なるばかりで、結局は大損である。しかし嫌な思いをすれば、無駄な散財はなくなる。
箍(タガ)が外れた人間は、夜の街とともに死滅するのか?それともオミクロン株とともに絶滅するのか?
敢えて腐敗した夜の街に羽根を伸ばす事は、負けると解ってて突入したバンザイ攻撃と同じである。
夜の街に幻想を追い掛け、その幻想と共に死滅する。まるで、妻ゼルダに幻想を見出し、彼女の幻影を追い掛け続け、自らの幻想に敗れ去ったフィッツジェラルドの様に・・・
終戦末期に、大日本帝国陸軍上層部が描いた”1億総玉砕”は絵に書いた餅でもなさそうだ。
偉そうな事を言う私も、ホステスからいつも言われる。
”触ってばかりいないで、少しは飲んだら?”
全くその通りだ。しかし、これが私の理性の限界なのだろうか・・・
良くも悪くも男と女の関係も…。
飲み屋っていっても所詮は男と女の関係です。一度死滅して(飲み屋が)どれだけ変われるのか、この目で確認したいですよね。
夜の街もここまで廃れると、哲学にでもしたくなるんでしょうか。
でも日本人は今回のコロナ騒動で何を学んだんでしょうか?理性もパニックやパンデミックに陥ると殆どアテにならない事だけは解ったような気もします。
そんなこと言えるのは相当な美人だったんでしょー
悪夢といいながら
結構いい思いしてんじゃないですか💢
勿論、お互い様ですから、ヤンワリ言うしかない。内心アホ臭と思ってもですよ。
夜の街って結局は子供騙しの延長上にあるんですかね。