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もう一つの完璧なる証明〜猿でも解る?バーゼル問題”その7”

2021年12月26日 08時12分49秒 | 数学のお話

 前回「その6」で最終回にするつもりでしたが、タイムリーなコメントが届いたので、紹介も含め、(飲み屋じゃないけど〜笑)再延長します。

 前回でも書いたように、バーゼル問題は1644年にメンゴリによりとり上げられ、1689年にヤコブ・ベルヌイの「無限級数の扱い」の中で未解決問題として扱われ、大きな問題となりました。因みに、”バーゼル”とはベルヌイ一家の出身地(スイス)の事ですね。
 1734年のオイラーの最初の証明には、無限次数の方程式という点で少なからず問題がありました。その9年後の1743年に第4論文では円積分s=∫[0,x]dx/√(1−x²)とその微分dsの積の級数展開を使い、洗練された現代の規準にもマッチする証明(ダンハム曰く)を与えます。
 しかし、この証明も僅かながらですが、抽象的な所がないとも言えません。
 そこで、寄せられたコメントとオイラー自身が1745年に書いた「無限解析入門」を参考にして、オイラーの完璧な証明を紹介したいと思います。 


幾何を用いた最初の証明

 1734年の最初の証明には(微かな事でしたが)幾つかの問題がありました。しかし、その10年後の「無限解析入門」(出版は1748年)では無限解析を用いてほぼ完璧な証明を与えています。
 最初の証明は厳密には(ダンハムが紹介した)sinx/xではなく(yを定数として)、1−sinx/y=1−x/y+x³/y−x⁵/y+x⁷/y−・・・=(1−x/A)(1−x/B)(1−x/C)(1−x/D)・・・の無限級数展開=無限積を考えた。つまり、A,B,C,D,,,が(変数xの方程式)1−sinx/y=0の解となりますね。
 そこでオイラーは、(上式を少し変形した)y−sinx=0の解を求める為に(Cを中心にAを始点とした時計回りの)半径1の円を考えた(イラスト参照)。
 正弦PM=pm=yとすると、円弧AM=AとAm=π−Aが解となり、またsinxが周期2πの関数より、全ての解は、x=A+2kπ又は(π−A)+2kπとなる(k:整数)。
 特にy=1の時は(Mとm、PとC、Nとnがそれぞれ一致し)、解はπ/2,π/2,-3π/2,-3π/2,5π/2,5π/2,・・・となり、1−sinx/y=1−x/y+x³/y−x⁵/y+x⁷/y−・・・=(1−x/π/2)²(1+x/3π/2)²(1−x/5π/2)²(1+x/7π/2)²・・・を得る。

 ここで右辺の無限積を展開し、左辺の無限和のxの係数を比較すれば、−1=2×(2/π)×(−1+1/3−1/5+1/7−・・・)とライプニッツの公式”1−1/3+1/5−1/7+・・・=π/4”を得る。 
 更に、x²の係数を比較すれば、1+1/3²+1/5²+1/7²+・・・=π²/8を得る。
 ここで上式の両辺に、初項1公比1/2²の等比級数(1+1/2²+1/4²+1/8²+・・・=1/(1-1/2²))を掛けると、目出度くQ=1+1/2²+1/3²+1/4²+1/5²+・・・=π²/6(バーゼル問題)が得られます。
 以上、UNICORNさんのコメントからそのまんまでした(悲)。


無限解析による完璧な証明

 そこで、上で述べた最初の証明の矛盾を確認する。
 まずは”全ての解を書き出せるのか?”であるが、実曲線のグラフだけでは全ての解が求められない可能性がある。例えば、sinxの代りにx³とする。1−x³=0となるのは実数ではx=1だけだが、勿論1−x³=(1−x/1)ではない。
 オイラーの公式”e^√(-1)θ=cosθ+√(-1)sinθ”からe^(2kπ√(-1))=cos2kπ+√(-1)sin2kπ=1が導けるより、x=1^(1/3)=(e^(2kπ√(-1)))^(1/3)=e^(2kπ√(-1)/3)=cos(2kπ/3)+√(-1)sIn(2kπ/3)とし、x=1,(−1±3√(-1))/2を求め、1−x³=(1−x)(1−x/((−1+3√(-1))/2))(1−x/((-1-3√(-1))/2))=(1−x)(1+x+x²)を得る。
 この様に次数が有限であれば、全ての実・虚因子とそれらの重複度まで考慮し、正しい等式を得る事ができますね。

 次に、”無限積の問題”である。
 もし次数が無限の時は、全ての実・虚因子を考慮しても、正しい等式を得る事は出来ない。
 例えば、eᶻ=1+z²/2!+z³/3!+z⁴/4!+・・・の級数展開を考える。
 z=x+y√(-1)とすると、
eᶻ=e^(x+y√(-1))=eˣ・e^(y√(-1))=eˣ(cosy+√(-1)siny)となり、どんな複素数zに対してもeᶻは0にはならない。 また、eᶻの定数項は1だが多数項の場合はeᶻ=1ではない。
 ここがミソなんですが。オイラーはeの無限積表示”e=(1+1/∞)^∞”で、i(無限大量)を∞とみなし、e=(1+1/i)ⁱとします。
 これは、ニュートンの二項定理aᶻ=(1+kz/i)ⁱ=1+kz+k²z²/1・2+k³z³/1・2・3+・・・で、k=1とした時にa=eと置き換えれば、eᶻ=(1+z/i)ⁱを得た。実際にz=1,i=10000として計算すると、e=1+1+1/1・2+1/1・2・3+・・・=2.71814・・・となるから驚きですね。
 事実オイラーは、多くの項のたし算を行い、e=2.71828182845904523536028と算出し、”一番最後の数字もまた正しい”と述べている。
 これこそがe(ネイピア数)と指数関数の誕生の瞬間ですが、眺める程にアッパレです。

 少し横道逸れましたが、上の無限積表示”eᶻ=(1+z/i)ⁱ”から解るように、eᶻ=0の解zは−i(負の無限大量)なので、複素数の中には見つからない。更に無限積の場合、積の順序に寄る収束性の問題も無視できない。


多項式から超越関数へ

 前回の最後でも言った様に、オイラーの完全なる”バーゼル問題”の証明(1745、1748)では、多項式aⁿ−zⁿの有限積表示から始め、超越関数(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限積表示を求めている。
 以下では、(簡単の為に)nが奇数の時を考えます。
 aⁿ−zⁿ=aⁿ−(1⁻ⁿz)ⁿ=aⁿ−(e^(2kπ√(-1)/n))z)ⁿ
 =∏ₖ[0,n-1](a−e^(2kπ√(-1)/n))z)
 =∏ₖ[0,n-1](a−(cos(2kπ/n)+√(-1)sin(2kπ/n))z)と有限積表示にします。
 ここで、k=0の時はa−(cos(2kπ/n)+√(-1)sin(2kπ/n))z=a−zとなり、因子(a−z)を前へ外せる。またk=1~n-1の時の残りの積因子は(n:奇数より)、∏ₖ[1,(n-1)/2](a²−2az・cos(2kπ/n)+z²)と展開できる。
 故に、上式=(a−z)∏ₖ[1,(n-1)/2](a²−2az・cos(2kπ)+z²)と変形できる。
 この変形は少し難しいんですが、前へ進みます(悪しからず)。

 上式でa−zの因子を外すと、残りは全て三項因子(共役な二項の虚因子(√-1を含む因子)が掛け合わさった三項の実因子)となる。
 この三項因子”a²−2az・cos(2kπ/n)+z²”にて、a=(1+x/n)、z=(1−x/n)とおくと、(1+x/n)²−2(1−x²/n²)cos(2kπ/n)+(1−x/n)²−①となる。
 ここで、n=i(無限大量)とすると、前述したeの無限積表示”eᶻ=(1+z/i)ⁱ”より、aⁿ=(1+x/i)ⁱ=eˣ、zⁿ=(1−x/i)ⁱ=e⁻ˣとなる。
 cosxの無限級数(マクロリン)展開であるcos(2kπ/i)=1−(2kπ/i)²/2!+(2kπ/i)⁴/4!−・・・において、4次以降の無限大量i(=n)の影響から無視していい事になる。
 つまり、殆どゼロに近くなるから、cos(2kπ/i)=1−(2kπ/i)²/2!としても差し支えない。事実、n=10000000としkがn(=i)に比べ十分に小さい値として計算すれば、オイラーの説明が正しい事が解る。

 すると先程の三項因子①は、(1+x/i)²−2(1−x²/i²)(1−(2kπ/i)²/2!)+(1−x/i)²=(1+x²/k²π²−x²/i²)4k²π²/i²となる。
 そこで、三項因子の最後の項−x²/i²はi乗しても無限に小さい影響しか与えないので外してもよく、一方でa−z=(1+x/i)−(1−x/i)=2x/iから得られる因子はxのみである。
 ここで、aⁿ−zⁿ=eˣ−e⁻ˣより、nを無限大量(=i)とした時のeˣ−e⁻ˣの無限級数を考えればいい。
 更に、n=∞とした時の超越関数(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限級数展開は(eˣ−e⁻ˣ)/2=x∏ₖ[1,∞](1+x²/k²π²)=x(1+x²/π²)(1+x²/4π²)(1+x²/9π²)(1+x²/16π²)・・・ー②と展開できる事が判る。
 因みに、(eˣ−e⁻ˣ)/2はsinhxと呼ばれる双曲線(正弦)関数で、sinh(πz)=sin(πz√-1)/√-1=πz∏ₖ[1,∞](1+z²/k²)の無限乗積展開を与えるが、πz=xとすれば②式は明らかですね。この証明は、対数微分とcot関数の部分分数分解を用いますが、長くなるのでここでは省きます。

 またオイラーの公式から、sinz={e^(z√(-1))−e^(-z√(-1))}/2√(-1)が導けるので、②式でx=z√(-1)とおいて両辺を√-1で割れば、sinz=z(1−z²/π²)(1−z²/4π²)(1−z²/9π²)(1−z²/16π²)・・・を得る。
 ここで上式のz³の係数を、(マクロリンの)無限級数展開”sinz=z−z³/3!+z⁵/5!−z⁷/7!+・・・”と比較すれば、−(1+1/4+1/9+1/16+・・・)/π²=−1/3!となり、バーゼル問題の完璧なる解答が得られた。
 以上、前回同様に「オイラー無限解析の源流」(高橋浩樹 著)を参考でした。 


最後に〜多項式から超越関数

 多項式aⁿ−zⁿの有限積表示が非常に解り難かったんですが、√-1を含む虚因子の有限積表示から、三項の実因子を抽出し、a=(1+x/n)、z=(1−x/n)と置き換え、nを無限大として、超越関数(双曲線関数)である(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限積表示に移行します。
 aⁿ−zⁿを無限積(n→∞)に拡張する事でオイラーは、(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限積表示がx∏(1+x²/k²π²)の形をしてる事を見抜いたんでしょうか。
 最後に、x=z√(-1)とおいて、超越関数(sinhx)の無限積展開とsinzのマクロリン無限級数展開を比較する辺りは実に心憎いですよね。

 因みに、超越関数(transcendental function)とは、多項式を満たさない解析関数の事で、代数関数と対照的に(区別して)用います。
 つまり、超越関数は加算や乗算それに冪根という”代数的演算を有限回用いて表せない”という意味で代数を”超越”したものと言えます。
 超越関数の例としては、指数関数や対数関数、そして三角関数が挙げられます(ウィキ)。

 実は、この回で終わりにしたかったんですが、次回はバーゼル問題に対する”オイラーの自信の根拠”について、述べたいと思います。
 長々と悪しからずでした。



10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
無限積展開と無限級数展開 (UNICORN)
2021-12-26 21:24:39
多項式の有限積展開から超越関数の無限積表示の流れは見事ですが、言われる通り有限積展開は著者の高橋氏も曖昧にしたんでしょうか。
オイラーの危険で大胆な予測は純粋数学からは批判されるけど、結果的にそうなってるんだから、流石ですよね。
コメント引用有り難うです。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-12-27 00:55:41
円関数(円積分)による証明も無限積展開に寄る証明も両方とも難しかったです。
オイラーらしく無理矢理強行突破した感があって、流石と思いつつも??って所もありました。
でも計算の神様であるオイラーらしさって言えばそれまでですが、大胆な予測っていつの世も大切なんですよね。
こちらこそコメント有り難うです。
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双曲線関数の無限積と無限級数 (腹打て)
2021-12-27 04:31:11
sin(hx)=(eˣ−e⁻ˣ)/2=x+x³/3!+x⁵/5!+・・・
sin(hx)=−isin(ix)
sin(hπx)=πx∏(1+x²/k²)
と書けるから、
極論で言えば、双曲線関数の無限積と無限級数を比較し、バーゼル問題を解決したとも言える。実際には、sin(hx)の無限積でx=izと置き換え、sinzの無限級数と係数比較しただけなんだけど。
オイラーの頭の中には常にsinxのマクロリン級数(無限和)があり、それに結びつけるがために超越関数の無限積を強引にもってきた感もする。ゆえに有限積の多項式から無限積の超越関数への移行は、やはりぎこちない感じもするね。

しかしオイラーの公式から始まり、様々な超越関数に移行し、無限解析関数に昇華する辺りはオイラーマジックとしか言いようがない。
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腹打てサン (象が転んだ)
2021-12-27 05:51:09
確かにですよね。
多項式aⁿ−zⁿが虚数を含む因子の積になり、再び実因子の積に展開する所が理解に苦しみました。
そういう私も最初は楽勝かなと思って書いたつもりですが、探れば探るほどオイラーマジックにのめり込みそうになりました。
悔しいけど、オイラーを理解できるのはオイラーしかいないんでしょうね。
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ワタシ (HooRoo)
2021-12-27 09:37:01
オイラーの公式で思考とまったままでーす
それから先、全然わかりませーん
三角関数はこれだからイヤ
超越関数ってよく言ったわよねぇ
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Hoo様の疑問に答えます (unknown)
2021-12-27 18:05:55
そもそも双曲線関数とは、sinhx=(eˣ−e⁻ˣ)/2、coshx=(eˣ+e⁻ˣ)/2で定義され、eˣ=coshx+sinhx、e⁻ˣ=coshx−sinhxと出来るので、sinh(-x)=-sinhxより奇関数で、coshx=cosh(-x)より偶関数となる。
この時(coshx,sinhx)が双曲線x²−y²=1上にある事から双曲線関数と呼ぶ。一方でx²+y²=1の単位円上にある(cosx,sinx)を円関数(三角関数)とも呼ぶ。
上の定義式より、三角関数と類似した色んな公式を生み出せる。双曲線関数の級数展開もeˣとe⁻ˣの級数展開から簡単に導けるし、sinhx=−isin(ix)もオイラーの公式(eⁱˣ=cosx+isinx)にz=ixとおけば導ける。
これにより双曲線関数が指数関数や三角関数と同様に複素数に拡張できることも判る。それに双曲線関数の無限積表示も微分を使えば導けます。

この様にオイラーの公式から三角関数と指数関数と虚数の関係が明らかになり、双曲線関数と三角関数との密な繋がりが見えてくる。

基本的な事ですがこれって重要ですよ。
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Hooさん (象が転んだ)
2021-12-27 18:32:56
実は私も三角関数アレルギーです。
だから全然気にしなくていいですよ。

ただ少し固く言えば、三角関数も双曲線関数も複素領域に拡張できる事から無限積展開や無限級数展開が出来て、解析関数に昇華することで様々に発展してきたんですよね。

双曲線関数の基礎に関しては、unknownさんのコメント参考です。
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unknownさん (象が転んだ)
2021-12-27 18:34:35
色々とご指導&ご指摘ありがとうございます。
まさしく言われる通り、基本なくしては拡張なしですもんね。
こちらこそ勉強になります。
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無限積表示の証明 (paulkuroneko)
2021-12-28 00:47:58
sin(hπx)の無限積表示の証明は、sin(πx)=πx∏[1,∞](1−x²/k²)を示せばいいんですが。
まずsin(πx)は複素平面上で正則より無限次の多項式となるから、sin(πx)の零点は±nπとなるので、sin(πx)=cx∏[1,∞](1−x/n)(1+x/n)=cx∏[1,∞](1−x²/n²)と出来ます。
この両辺をxで微分しx=0を代入すればc=πを得て、簡単に目出度く証明としたいのですが、x→∞とすればsin(πx)は発散します。
よって、f(x)=πx∏[1,∞](1−x²/n²)/sin(πx)として両辺の対数をとり、logf(x)=logπx+Σlog(1−x²/n²)−logsin(πx)。両辺を微分すると、dlogf(x)/dx=1/x+Σ(1/(n+x)−1/(n−x))−πcos(πx)/sin(πx)。
 ここで余接関数の部分分数展開(公式)であるπcot(πx)=1/x+Σ2x/(x²−n²)を使えば、dlogf(x)/dx=0となりf(x)は定数となるので、f(x)=f(0)=1が導け、双曲線関数の無限積表示の証明となります。

余計な補足ですが、ご参考までにです。
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paulさん (象が転んだ)
2021-12-28 04:52:45
対数微分に寄る証明、とても参考になります
無限積はlog(対数)を取れば無限和になりますから、証明の見通しは一気に明るくなりますよね。
cotxの部分分数展開の公式に慣れる必要がありますが、やってみると意外に簡単でした。
タイムリーなコメントとても助かります。
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