先日(11/11)の”その1”では、43年ぶりに再び蘇った大場が、ノンタイトル戦で亀田和樹を軽く血祭りに上げ、井上尚弥との挑戦権を得た所まで書きました。
さて、いよいよ運命の決戦が始まります。
決戦前夜
大場陣営はラスベガスは初めてだった。流石に、長野ハルも桑田も興奮を隠せない。
”聞いてはいたけど、これがラスベガスなのね。思った以上に豪華で大きいわ”
”でも、マー坊にはこれ位が丁度いいのかな。刺激があるほど狂気を呼び覚ますからな”
大場がニンマリした。
”ボクシングの聖地はこうでなくっちゃね。オレはここでカネロ以上の存在になるよ。よーく見ててよ”
まるでラスベガスの喧騒を全て吸収してるかの様な政夫の存在に、流石の長野も吸い込まれそうだった。
”ホントにこの子は、神の生き写しなのかね”
桑田が大場を睨みつけた。
”調子に乗るなよ、オッズでは井上が有利なんだからな。アメリカのボクシングファンの60%は井上が勝つと見てんだぜ”
事実、ここに来て井上の評価が上がり、オッズは1対1.6程までに巻き返していた。
大場は微笑んだ。
”サラテの時はもっと不利だったね。でも結果はオレの圧勝だったよ、桑田さん”
長野ハルが囁いた。
”楽勝だと内心思ってるでしょ?でも相手もマサオの情報を数多く入手してる筈よ。今頃は弱点を全て暴いてるかもね”
桑田がポツリと漏らす。
”弱点と言えば、ドネア戦で受けた右目の傷は深かったらしいね。眼底骨折らしいとの噂もある。でもな、その傷が開いたらマー坊の一方的になるかもだ”
大場は再び笑った。
”相手の弱点を突いてまで勝とうとは思わない。それに、ここはアメリカだよ?そんな事許されないさ”
長野は内心ホッとした。ここまでマサオが冷静である事に少し驚いたほどだった。
”この子は何処まで神に近付こうとしてるのかしら”
一方井上サイドは、何度も繰り返し、戦術の確認をしていた。
ガードを固め、左右のステップで大場のストレートを躱しながら、接近戦に持ち込み、ボディと顔面に自慢の強打を打ち分ける。
伸びのある井上のストレートは、大場のリーチを持ってしても十分に射程内にある。上手く行けば、一発で仕留める事も可能だ。
井上陣営はオッズ通りのプランを立てていた。つまり、井上有利のイメージしか湧かなかったのだ。
ゲストに呼ばれてたドネアは、こう予想した。
”オオバは脚を使ってくるだろう。それに左右のストレートは、この階級では非常に驚異だ。パワーでは井上だが、破壊力ではオオバが上だ。井上の脚が何処までオオバについていけるかが、大きなカギとなる”
井上が粉砕するか?大場か破壊するか?
”粉砕か?破壊か?”
MGMホテルの広告塔には、この大きな文字が浮かび上がった。
場内のボルテージは最高潮に達していた。
不可解な大場の生い立ちも手伝ってか、多くの著名人や政財界の有名人もリングサイドを取り囲む。
最初にリングに登場したのは大場だった。白をベースにロイヤルブルーのストライプのガウンは、崇高さと華麗さを漂わせている。
勿論、その鮮やかさの中に狂気と凶器が潜んでるのは明らかだった。
異例の事であるが、リングに上がる前に、CNNの美人キャスターにコメントを求められた。
”どんな戦いを見せてくれます?世界中の女性はハートが押し潰されそうですよ”
大場はニコリと呟いた。
”今は、会場が満杯である事にホッとしてます。正直、どれだけの入りかなと心配してたんです”
キャスターは腹を抱え、思わず吹き出しそうになった。
”素晴らしいファイトを期待してますわ、ミスター•オオバ”
大場は軽く会釈すると、リングに上がった。
一方で井上陣営は、”ウイ•アー•ザ•チャンピオン”の派手な音楽と共に登場した。彼が獲得した4つのド派手なベルトを引っさげ、余裕のある微笑みを浮かべながら登場する。
リング上で二人は初めて視線を合わせた。前日の計量は、お互いの要望で別々に行われたのだ。それまで軽く微笑んでた大場の目に鋭いものが光った。
一方、井上も負けてはいなかった。軽く睨み返すと少しお辞儀をした。偉大な先輩ボクサーに対する礼儀は忘れてはいなかった。
大場は少し戸惑った。軽く笑って返すと、桑田に声を掛けた。
”結構冷静ですね。井上は思った以上にオーラがある。確かに凄いボクサーですよ”
桑田は注意を促した。
”まそれだけのボクサーって事よ。でなきゃ、ボクシングの聖地ラスベガスでの日本人対決にこれだけの観客は集まらんだろう。全米中のボクシングファンは、この試合の意味をよーく知ってるという事さ”
早速、トップランクの重鎮ボブ•アラムが大場に声を掛けに来た。
”Mrオオバ、健闘を祈る。素晴らしいファイトを見せてくれ”
大場は通訳を通じ、軽く会釈をした。
”素晴らしい舞台を用意してくれて有難うございます”
アメリカ国家が流され、その後”君が代”が日系の女性歌手によって歌われた。場内のボルテージは異様なまでに盛り上がる。
リングアナが、井上を”キング•オブ•キング”と紹介すれば、大場は”レジェンド•オブ•レジェンド”と紹介された。
大場は苦笑いしたが、井上は表情一つ変えない。
いよいよ、運命のゴング
リングサイドには、カネロとロマチェンコもいた。大場はロマチェンコにチラリと目をやった。ロマチェンコは笑っていた。
”どれ程のボクサーなのか、ここで見せてもらおうか”
ゴングが鳴った。
予想通り、井上はガードを固め、距離を詰めに掛かる。両腕の盛り上がった筋肉は、大場を仕留めるに十分過ぎる程だった。
大場は左を伸ばし、距離をとる。ラスベガスの大舞台に慣れてる井上に力みはなかった。目の前のレジェンドに臆する事なく、いきなり挑みかかる。
右のオーバーハンドから左ボディーフックと、一気に大場をロープ際まで追い込んだ。
大場はまだ、会場の雰囲気に慣れてはいない。華麗な筈のフットワークはまだ自在に機能してはいなかった。
井上は、明らかに大場の立ち上がりの”堅さ”を見抜いている。
ロープに追い詰めた大場のボディーに、パワフルな左右のフックをのめり込ませた。堪らず大場はクリンチで逃げようとするも、ガードが空いた所に、正確無比な右のショートをねじ込む。
大場がグラつき、会場は大きく揺れる。
桑田は必死で何かを叫ぶが、大歓声で殆ど大場の耳には届かない。
井上は更に距離を詰め、大場のボディと顔面に強烈なブローを打ち分けた。大場の膝がガクンと落ちた。その瞬間、井上の頭が鈍い音を立て、大場の額にぶつかる。
大場の額から真っ赤な血しぶきが派手に舞う。レフェリーは慌てて試合を止め、ドクターを呼んだ。
44年前のサラテ戦で受けた額の傷がパックリと開いたのだ。
ドクターが大場の額をチェックする間、桑田は指示を与え続けた。
”打ち合うな、脚を使え!そしてガードを高くしろ”
何とか出血が止まると、2人はリング中央で向かい合った。大場は脚を使いリングを舞うが、ダメージが残ってるらしくその足取りは不安定だ。
一方、井上は冷静に距離を詰める。時折放つ、ロングレンジのオーバーハンドは大場の驚異となった。大場がグラつく度に会場は揺れる。
予想外の展開
リングサイドで見守るボブ•アラムは”意外にこの決着は早く着く”と予感した。
1R終了のゴングが鳴ると、大場のセコンドは大慌てだ。
桑田が大声で言い放つ。
”井上のパンチは思った以上に伸びてくる。不用意にジャブを繰り出すと、右のカウンターをもらう恐れがある。距離を大きくとって、もっと脚を使え”
大場は少し戸惑っていた。
”思った以上にパンチが強い。それにグ〜ンと伸びてくるから、視界に入りづらい。大変な戦いになりそうだ”
2R、大場はカードを固め、リングを忙しく回った。井上が距離を詰めると、バックステップで躱す。左ジャブではうまく距離が取れないので、左にスイッチし、井上の右を潰しに掛かる。
井上が詰めれば大場が離れるという展開で、この回も井上有利で終了する。
3R、再び井上の右が大場のテンプルをかすめた。バランスを崩した大場は堪らず尻もちをつく。大場陣営はスリップを主張したが、受け入れられない。
会場は割れ、怒声と混乱が鳴り響く。
今度は、ガードを高くした大場の左ボディに、井上の右が炸裂する。”く”の字に曲がった大場の体躯に、井上が襲いかかった。
満身の左アッパーで大場の顎を抉ると、上体が大きく浮いた。そこにトドメの右が大場の顔面に直撃する。
会場が大きくどよめいた。
大場は仰向けにキャンバスに堕ちた。全てが終わったかに思えた。しかし、何とか8カウントで立ち上がるも、足元は明らかにふらついている。
桑田は何も声を発する事が出来なかった。
”このままでは大場は破壊される。しかも策がない。どうすりゃいいんだ?デトロイトスタイルは無謀だったか”
その後、大場は必死で井上の猛攻に耐え続けた。再び、井上の頭が大場のテンプルにぶつかり、血しぶきが飛んだ。
レフェリーが試合を止め、井上に注意を与え、罰点1が与えられた。お陰でドクターチェックが入り、大場は九死に一生を得た形となった。
ランブル•イン•ザ•ベガス
3R終了のゴングが鳴ると、何時もは控室で試合を見守る筈の長野ハルが、リングサイドに駆けつけていた。
”何やってるのよ政夫!打ち合うのよ、でないとヤラれるわよ。サラテ戦を思い出すの”
大場は、2度に渡るバッティングで怒りは頂点に達してた。しかし、パンチのダメージで狂気に火がつかない。
桑田は開き直った。
”デス•スタイルで行こう。左を伸ばし、井上が詰めてきたら、右アッパーを合わせろ。今はそれしかない”
大場は意外に冷静だった。
”まだ3Rが終わったばっかですよ。井上の攻撃パターンはある程度は理解できた。お楽しみはこれからですよ”
4Rのゴングが鳴る。
デス•スタイルに変えた大場は、左ジャブを繰り出し、井上が距離を詰めてきた所を、右アッパーのフェイクを使い、左フックで右テンプルを狙い撃ちした。井上の右目から鮮血が派手に飛び散った。ドネア戦で受けた傷が生々しく蘇る。
堪らず井上がガードを上げると、満身の力を込めた右アッパーを鼻骨に叩き込む。鼻からも大きく出血した井上に、ドクターチェックが入った。
桑田は大きく頷いた。
”その調子だ。じっくりと料理しようぜ”
大場は少し微笑んだ。
両ガードで顔面を防御した井上に、大場の左右のストレートが容赦なく降り掛かる。がら空きになったボディに、左アッパーと右のショートが突き刺さる。
くの字になった井上の顔面と砕けつつある鼻骨に、左右のアッパーカットが無残にものめり込んだ。
上体を大きく仰け反らした井上に、大場の狂気が容赦なく襲いかかる。
2ダースほどのストレートが血塗れの顔面に叩き込まれると、流石の井上も放心した様にカンバスに崩れ落ちた。
その時、白いタオルが宙に舞う。
まさに、”ランブル•イン•ザ•ベガス”(ベガスの奇跡)が起きた瞬間だった。
闘い終えて
レフェリーはすぐに井上を抱きかかえ、慌てたドクターが井上の意識をチェックする。右目は完全に塞がり、鼻骨は見事なまでに陥没していた。
あまりの衝撃に、レフェリーが大場の手を上げるのを忘れた程だった。
会場にはどよめきが支配し、何があったのか呑み込めない連中もいた。
勝者の筈の大場は、井上の様子を心配そうに眺めていた。
”少しやり過ぎたかな?やはりサラテとは違った。グローブがメキシコ製だったら井上は死んでたね”
興奮から冷めた桑田が言い放つ。
”デトロイト•スタイルではなく、デス•スタイルが正解だったな。でも、もう少し情けってもんがあるだろうよ、マー坊”
大場は頷いた。
”ああ、1ダースは余計だったすかね。でも俺も必死でしたすよ。正直、2度目のダウンの時は終わったと思ったもの。殴られたら殴り返す、これがボクシングの王道ですから”
すると、長野ハルが近くに来て囁いた。
”アンタたち、ボブアラムの顔を見てご覧?今にも泣きそうよ。政夫が井上を破壊しちゃったから”
桑田が大場の耳元で小さく囁いた。
”ロマチェンコを見ろよ、こっちこそ傑作だぜ(笑)”
確かに、カシメロのスタイルは単調とも思えますが、テテ戦では結構用心深かったです。
特にショートアッパーは見えませんでした。私にはカシメロ有利にしか思えませんが、いい試合になる事を願います。
井上の打たれ強さはドネア戦で立証済み どっち転んでも井上
井上も今まではすんなりとKO勝ちで来たが、これからは研究し尽くされ、イバラの道かも知れないね。
カシメロのアッパーと飛びこんでくるストレートに要注意!
キズモノになる前だったら冷静に対応出来そうだけど。
転んだサンと同じ予想かな。特に井上のテンプルを狙われたら、一気に決まりそうかも。
パッキャオに似たラフスタイルは、井上にとっては非常に脅威です。特にアッパーには気を付けたいですね。
ドネア戦で傷者にされた井上にとっては、正念場かキャリアの終わりを示唆する試合になるかもです。
ひょっとしたら番狂わせが起きるかも
俺はカシメロのKO勝ちと見る
転んだサンはどうなのかな?
理由が見当たらんけど
私達は今、情報化社会の真っ只中にいます。お陰で色んな情報が自在に入手できるんですが。一方で、その情報の真意を見分ける能力が薄れてきてる様な気もします。
この記事で私が一番使えたかったのは、大場の強さが何処から来るのか?井上の強さと何処が違うのか?
でも結局は、単なるエコ贔屓の展開になってしまいました。反省反省。
ただ、井上の右目をしつこく狙いポイントを稼いで、井上が強引に詰めた所をカウンターを狙い撃ち。体力と突進力を徐々に削ぎ落とし、終盤KOにつなげるのかなと。
フライ級なら井上が勝つんでしょうが。バンタムなら質量ともにボリュームのある大場が上なんでしょう。
多分、井上の右目は網膜剥離と同じ様にこれからも苦しむでしょうね。相手はこぞって右目を明らかに狙ってきますから。意外にも彼のボクサー生命は短いものになるような気がします。
でもこれからの井上はキツいね。右目は徹底的に狙われるだろうし、距離を詰めて戦う事もできなくなる。
PFPで1位になったのは嬉しいけど、複雑でもありますね。
ウーン以外だったですねぇ。
確かに井上の防御の甘さはドネア戦でハッキリと証明されてた。
バンタムに上げた大場の破壊力も想定内でした。もう少し大場が脚を使って井上を翻弄するかと思いましたが。危機感を感じた大場が敢えて打ち合いに挑み井上を一気に粉砕した。
ウーン、個人的にはじっくりと頂上対決を見たかったんですがねぇ〜。今と40年以上も前のボクシングではこうも次元が違うのかな〜。
ウーン、考えさせられます。
最後の大場の左右の連打はアモレス戦そっくりでした。サラテというより仮想アモレスだったんですね。
という事は次はロマチェンコという事になるのか。