久しぶりに胃に突き刺さる様な映画を見た。これだからハリウッドは、アメリカは放っておけない。いい意味にも悪い意味でもですが。
しかしこれだけの大作でありながら、純収入は赤字。因みに、制作費が3400万ドルに対し、興行収入は2125万ドルと結構な赤字ではある。
当初はかなり期待され、公開週に1500万ドル稼ぎ出すと予想されたが。実際は半分にも満たなかったらしい。
そんな不運な傑作も、実際に見てみると、まるで等身大の実物を目の前で見てるようで、不幸な事件が起きる度に、黒人が異様な叫びを上げる度に、胃が痛くなる。
この映画は単なる人種差別のお涙頂戴の、日本人が喜ぶ様なドキュメントじゃない。事実を事実のまま脚色抜きに映し出し、ありのままの60年代のアメリカをスクリーン一杯に映し出してる。
本作は、1967年のデトロイト暴動の最中に発生した”アルジェモーテル事件”を題材にした作品とあるが。
そういった悲惨なドキュメントを超えたドキュメント、痛みを超えた痛みでもあり、怒りを通り越した悔しさと侮辱を超えた屈辱が同居する。
3人の黒人が白人警官の銃の犠牲になった事件だが。非常に重たく、ボディーブローを深く抉るような展開の連続で、見てて嗚咽を催しそうでもある。
クレジットロールでは、ザ•ドラマティックスのボーカルであるラリーリードの素晴らしい歌声が虚しく響く。
黒人殺害に直接関わった3人の白人警官も、ごく普通の善良な警官だ。しかしその一方で、黒人の暴動に正義が狂気と化す様は、見てて悍ましい。まさに日常に潜む狂気ではある。
白人警官の暴力に、ただただ無抵抗に必死で耐え抜く黒人たち。嘘の自供をすれば命は助かるのに、誰も同胞を裏切ろうとはしない。ただただ殴られ脅され、罵声や侮蔑の言葉を浴びせかけられ、放心状態で泣きじゃくる。
そんな全くの無抵抗な黒人を他所目に、白人警官の行動はエスカレートする。
”俺たちは警察だ。お前らの中に狙撃者がいる事は判ってる。素直に吐けば、命だけは助けてやる。さもなくば殺す。警官を敵に回せばどうなるか?お前らが一番よく知ってるだろう”
この言葉は、現在の”アメリカの力の政策”にも当てはまる。北朝鮮もイランもイラクもメキシコも、これと同じ様な脅し方で、アメリカは常に”力の優位性”を誇示してきた。
”白”は威圧と優位を、”黄色”は卑怯を、”黒”は服従を意味する。それは今でも全く変わらない。この交わる事のない3つの色。そしてこれからも交わる事はないだろう。
白人の視点に経つ人種差別の不都合な正当性を、まざまざと見せつけられた様な気がした。お陰で、傑作なんだけど後味の悪い作品に映った。
映画でも、黒人が裁判官を務めているようなのも見るから、教育を受ければ、この頃は対等に仕事もできるんだと思っていたのですが。
むしろ、そういう能力のある黒人が台頭してきたことが、トランプの勝利につながったとも。
それは、全部ではありませんが、能力のない白人たちが、昔の人種差別を復活させて、能力がなくても、とにかく白人であれば優遇される時代に戻したい、その願望がトランプを勝利に導いたと何かで読んだような気がしていますが、転象さんが今回見られた映画は、昔の人種差別が現在も立派に生きているという内容だったんですね。
出来の悪い無能な白人がしでかす、典型の人種差別の実態と言うか。
サブタイトルの”This is America”が、全てを物語ってます。
結局白人至上主義ってのは、無能な白人でも頂点に立つべき社会なんですかね。トランプを見てるとつくづくそう思います。
”ハードロッカー”で名を挙げ、評価を落とした女性監督の映画ですが、名誉挽回のいい映画でした。
この映画の監督は、転んだサンが毛嫌いするキャメロンの元奥さんです。
個人的には、ハードロッカーも嫌いじゃなかったんですが。この作品の方がずっとオスカーに相応しいですかね。
転んだサンのコメントにあるように、無能な白人の視点で見た典型の人種差別ですね。見てて地味ですが、おぞましいです。
パッとしない映画にも見えましたが。女性にしてはよくできた作品かな。
でも、ハードロッカーに比べたら、出来過ぎですな。名前貸しして、有能なゴースト監督に撮らせたんでしょうか。今ではよくある事ですが。
でも久し振りにtomasさんの声を聞けて、嬉しいです。