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ガロアの最終論文(#6)〜正規部分群の定義〜第4節

2024年04月01日 02時51分30秒 | エヴァリスト・ガロア

 前回「#5」では、ガロア群の中に正規部分群の存在を示したガロアでしたが、今日紹介する第4節では”(元の方程式に)根の有理式の値を添加すれば、その値を不変とする所までガロア群が縮小する”事を述べている。
 

第8章〜ラグランジュの定理

 第4節では、”ある方程式にその根の有理式の値を添加すればその方程式の群は、この有理式を不変にする順列以外は含まない様に、小さくなる。事実、第1節によれば既知の方程式は方程式の群の置換で不変でなければならない”[定理4]とある。これは、”体K(r)に群Hが対応する”事を主張している。
 そこでまず、係数体Kに根のある有理式rを添加した時、縮小した群がK(r)のガロア群である事を確かめる。
 ガロア群とは”(1)ガロア群の置換で不変⇒体Kの元(2)体Kの元⇒ガロア群の置換で不変”の2つを満たす群だが、Kを拡大したK(r)のガロア群も全く同じ条件を満たす。つまり、”ガロア群の置換で不変⇔体K(r)の元”となる。
 ガロアは”この有理式を不変にする順列以外は含まない”群を示した。そこで、rを不変にする最小の群をHとして、まずは(2)”体K(r)の元⇒Hで不変 ”の簡単な方から証明する。
 これは、体K(r)の元は全てrの多項式で表されるので、Hはrを変化させない。よって体K(r)の元はHで不変(証明終)。

 さて、(1)の証明に入る前に(「#1」でも述べたが)、[補題3]の元になった「ラグランジュの定理」とは”重根を持たない方程式(係数体をKとする)の根a,b,c,…の有理式A,Bにて、Aを不変とする全ての置換でBが不変ならば、BはAのK上の有理式で表される”との事だった。
 パッと見では、[補題3]とは違う定理の様にも思えるが、[補題3]でVはa,b,c,…のあらゆる置換で値が変化する式だ。従って、Vを不変とする置換は単位置換だけであり、a,b,c,…の順序を変えない。故に、「ラグランジュの定理」より、a,b,c,…はVの有理式で表される。
 ガロアの証明の本質も、Vがa,b,c,…のあらゆる置換で変化するという点にあったから、条件を「ラグランジュの定理」に変えてもそのまま成立する。
 そこで、(1)の”Hで不変⇒体K(r)の元である”を、[補題3](ラグランジュの定理)を使って証明する。
 rを不変とする全ての置換とはHの事である。従って、Hで不変な元はrの有理式で表される。故に、その元はK(r)に含まれる(証明終)。
 つまりガロアは、”体K(r)には群Hが対応してる”と主張したのだ。ここまで来れば、ガロア理論の中核にある「対応定理」はあと一歩の所にある。


第9章〜ガロア群と拡大体との対応

 以上より、「ガロアの対応定理」を整理すれば、”体Kのガロア群をGとすると、拡大体K(V)のガロア群は単位置換(恒等置換)のεだけとなる。この時、体Kと体K(V)との間に中間体K(r)があれば、それに対応するGの部分群Hが存在し、またGの部分群Hが存在すれば中間体K(r)が存在する。この場合、ガロア群の定義は<Hの置換で不変⇔体K(r)の元>となり、体と群が1対1で対応する”と言える。
 そこで、体と群の1対1対応をx³+3x−2=0で確かめる。「#1」でやった様に、この方程式の3根a,b,cは、a=s+t,b=ωs+ω²t,c=ω²s+ωt,但しs=√(1+√2),t=√(1−√2)で、ラグランジュの分解式V=a+ωb+ω²cを使えば、ガロア方程式x⁶−54x³−729=0を得た。
 ガロア群は3次対称群S3となり、それぞれ3!=6個の置換に対応するVは、ε→V=3t、(23)→V₁=3s、(12)→V₂=3ωs、(123)→V₃=3ω²t、(132)→V₄=3ωt、(13)→V₅=3ω²sとなる。

 いまS3の位数(元の数)は6で、部分群の位数は全体の群の位数の約数となるから、2と3の時を考えればいい。つまり、位数2の部分群:{ε,(12)},{ε,(13)},{ε,(23)}と位数3の部分群:{ε,(123),(132)}だけである。
 因みに前回「#5」では、位数3の部分群Hだけが正規部分群になる事を確認した。がこれは、Hに含まれない元を1つ1つ取り出し、Hの3つの元にそれぞれ掛合わせ、右剰余と左剰余を調べ上げるという、複雑な計算によるものだった。
 一方で、中間体に添加される値を求めるには、部分群の全ての置換で不変で、他の置換では変化するものを選べばいいが、ガロアは”Vが全ての置換で異なる値をとる有理式を選べば十分である”と書いている。故に、対称式は基本対称式の有理式となるので、基本対称式の値を全て添加すればいい。因みに、基本対象式とは2変数a,bで言えば、a+b,abをいう。
 そこで、係数体Kには1の3乗根ω=(−1+√3i)/2が含まれてるとし、st=−1に注意すれば、部分群{ε,(12)}では、V+V₂=3(ωs+t)でVV₂=−9ωとなり中間体はK(ωs+t)となる。
 {ε,(13)}では、V+V₅=3(ω²s+t),VV₅=−9ω²で中間体はK(ω²s+t)。{ε,(23)}では、V+V₁=3(s+t),VV₁=−9で中間体はK(s+t)。
 最後に{ε,(123)},{ε,(132)}では、V+V₃+V₄=3t(1+ω+ω²)=0,VV₃+V₃V₄+V₄V=9t²(1+ω+ω²)=0,VV₃V₄=27t³=27(1−√2)となり中間体はK(√2)となる(上図参照)。
 以上の部分群のうち、正規部分群は位数3の{ε,(123),(132)}のみで、実際、K(ωs+t),K(ω²s+t),K(s+t)上ではガロア方程式x⁶−54x³−729=0の因数分解は不可能だが、K(√2)上では、x⁶−54x³−729=0→(x³−27+27√2)(x³−27−27√2)=0の様に因数分解できる。

 更に見ていくと、a=s+tよりK(s+t)=K(a)。ωs+tにωを掛けるとω²s+ωt=cとなり、K(ωs+t)=K(c)。ωs+tにω²を掛けると、ω⁴s+tω²=にωs+ω²t=bとなるので、K(ω²s+t)=K(b)を得る。  
 確かに、K(ωs+t),K(ω²s+t),K(s+t)は、Kに元の方程式の根a,b,cを1つずつ添加したものだが、これでは対応する群が正規部分群にはならない。 
 一方でガロアは、対応する群が正規部分群になるのは”1つの補助方程式の全ての根を添加する時である”と言っている。
 つまり、aの共役はb,cであり、これら全て添加すると体(a,b,c)にまで拡大し、元の方程式もガロア方程式も1次式にまで因数分解できる。但し、この場合の対応する群は{ε}のみであり、正規部分群ではあるが、方程式を解くには役に立たない。

 以上、第2節と第3節をまとめると、”補助方程式の根の添加により、ガロア方程式の因数分解が可能になったとする。この時、補助方程式の根をr,r₁,r₂,…とすると、K(r,r₁,r₂,…)のガロア群はKのガロア群の正規部分群である”[定理B]となる。
 同様に第4節は”中間体K(r)が存在すれば、K(r)の元を不変とする部分群Hが存在する”[定理C]となる。
 つまり、非常に難解だった第2、3節は正規部分群の発見の過程であり、もし正規部分群が存在する事が判ってれば、もっと簡単に導ける筈だ。但し、この前に正規部分群を定義する必要がある。

  
第10章〜正規部分群を定義する

 親友シュバリエに当てた手紙の中で、ガロアは以下の様に書いている。
 ”方程式に根の1つだけを添加する場合と、全ての根を添加する場合には大きな違いがある。どちらも方程式の群は添加により、同じ置換により互いに移行する群へと分類する。しかし、これらの群が同じ置換を含むという条件は第2の場合にしか成立せず、これを固有分解と呼ぶ”
 以上を言い換えれば、群Gが異なる群Hを含む時、G=H+HS+HS’+…と、群Hに同じ置換を施したものに分解できる 。同様に、G=H+TH+T’H+…と、同じ置換を施したものへも分解できる。これら2つの分解は普通は一致しないが、これらの分解が一致する時、この分解を固有分解と呼ぶ。

 つまり、ガロアの言う”固有分解こそが正規部分群による剰余類分解”と言えるのであろう。だが、固有分解という言葉は、数学の世界にて一般化しなかった。
 ここで「ガロアの論文を読んでみた」の金重明氏は、実際に4次方程式のガロア群である4次対称群S₄の24(=4!)個の置換にて、S₄の次数6の部分群H={ε,(12),(13),(23),(123),(132)}と、次数4の部分群I={ε,(12)(34),(13)(24),(14)(23)}を例に挙げ、部分群Hによる剰余類分解、例えばS₄=H+(14)H+(24)H+(34)Hは左右で一致しないので、固有分解ではない。一方、部分群Iによる剰余類分解は左右で一致するので固有分解である。
 以上を、4pに渡り長々と説明してるが、ここはガロアの理念に従って、”置換の上を飛ぶ”事にする。

 現在、上の例の様に”固有分解”したそれぞれのまとまりを剰余類(余りに着目した分類)と呼ぶ。但し、左から置換をかけて分解したものを左剰余、右から置換をかけて分解したものを右剰余という。因みに、上の例は左剰余類分解となる。
 ここで、分解するタネになる部分群Hが正規部分群なら、前回「#5」より、全てのτに対し、τH=Hτだったので、左剰余と右剰余は一致する。逆に、左剰余と右剰余が一致すればHが正規部分群になる事は、τH=Hνの時τH=Hτを言えばいい。
 そこで、τH=Hνと仮定すれば、τHはτを含む(Hは必ず単位元を含む)のでHνの中にもτと等しい元がある。それをανとすると、τ=αν→α⁻¹τ=νとなる。Hνの任意の元Bνに対し(β∈H)、βν=βα⁻¹τとなり、βα⁻¹∈Hよりβν∈Hτとなる。故に、Hν⊂Hτ。従って、τH=HνからτH=Hτが言えた(証明終)。
 以上より、”Hによる左剰余類と右剰余類が一致⇔Hは正規部分群”という事が分かる。

 一方で、正規部分群の剰余類は群をなす事もわかる。a,b∈GとしてaHとbHを掛けるとaHbH=abHH=cとなり、積について閉じ、単位元εと逆元a⁻¹が存在するより、明らかですね。
 また「その18」で触れた様に、”剰余類群”はその言葉を知らなくても、意外にも身近に存在する。例を上げれば、素数pの倍数を除く整数全体の集合をGとし、pで割った余りが1である集合をHとする時、G(の元)は掛け算で群を成し、剰余類:H,2H,…,(p-1)Hにより、G=H+2H+…+(p-1)Hと分解される。
 この剰余類が群である事は明らかで、p=7の時は、3H×4H=12H=5Hとなり、掛け算で閉じる。合同の記法を使えば”3×4≡12≡5”と簡単になる。この時、右剰余(3H)=左剰余(H3)となるので、HはGの正規部分群となる。
 ところで、Gの部分群Hの位数がGの位数の半分の時、必ず正規部分群となる。これは、Hの位数がGの位数の半分だとして、G=H+αH=H+Hβと分解でき、αHとHβはGからHの置換を取り除いたもので、αH=Hβとなる。故にHは正規部分群となる事が判る。 

 先の第10章で紹介した手紙の部分は、そのまま正規部分群の定義となるが、現代では”H⊂Gの時、Gの任意の元τに対し、τ⁻¹Hτ=H(Hτ=τH又はτHτ⁻¹=H)である”と定義される。しかし、そんな記法がなかった時代にあっては、簡潔な定義と言えるが、更にガロアは、正規部分群による剰余類分解を”固有分解”と名付けた。 
 ここで、第2節の結論を現代の記法で導いてみるが、その結論こそが正規部分群の発見であり、その定義が判ってれば議論は至極単純になる。
 但しその結論とは、補助方程式の根rにより生じたガロア方程式g(x)=0の因子h(x,r)、つまりrを動かさない全ての置換の群をH、r₁を動かさない全ての置換の群をH₁、r₂を動かさない全ての置換の群をH₂、…として、H₁=τ₁⁻¹Hτ₁、H₂=τ₂⁻¹Hτ₂、…というものだった。
 そこで、H₁=τ₁⁻¹Hτ₁を示せば、正規部分群の定義が言える。

 rにσを作用させる事をσ(r)としたが、ここでは見易い様に、σ^rと記し、Hの任意の元σに対し、τ₁⁻¹στ₁をr₁に作用させる。
 すると、τ₁⁻¹(r₁)=r,σ(r₁)=r₁,τ₁(r)=r₁となるより、r₁^(τ₁⁻¹στ₁)=r^(στ₁)=r^(τ₁)=r₁を得て、従って、τ₁⁻¹στ₁はr₁を変えない。故に、τ₁⁻¹στ₁∈H₁となり、τ₁⁻¹στ₁⊂H₁―①を得る。
 一方、H₁の任意の元θに対し、τ₁θτ₁⁻¹をrに作用させる。同様に、τ₁(r)=r₁,θ(r₁)=r₁,τ₁⁻¹(r₁)=rとなるより、r^(τ₁θτ₁⁻¹)=r₁^(θτ₁⁻¹)=r^(τ₁⁻¹)=rを得て、従って、τ₁θτ₁⁻¹はrを変えない。故に、τ₁θτ₁⁻¹∈Hを得て、両辺に左からτ₁⁻¹、右からτ₁を掛けると、τ₁⁻¹τ₁θτ₁⁻¹τ₁∈τ₁⁻¹Hτ₁→θ∈τ₁⁻¹Hτ₁となり、H₁⊂τ₁⁻¹Hτ₁―②を得る。
 以上①②より、H₁=τ₁⁻¹Hτ₁が示せた(証明終)。


最後に

 ガロアは与えられた条件だけを使って真っ向勝負したがが、前回「#5」で述べた様に、HとH₁の置換の共役を使った方がτ⁻¹στを計算するだけで、H₁の全ての置換を見いだせるので、ガロアの証明よりもずっとスムーズで解り易い。
 一方で、第2,3節の[定理B]は明らかで、補助方程式の根r,r₁,r₂,…の添加により、ガロア方程式の因数分解出来れば、K(r,r₁,r₂,…)のガロア群に正規部分群Hが存在する事が明らかになった。
 また、第4節の[定理C]の”中間体K(r)の元を不変とする正規部分群Hが存在する”事も明確に理解できた。
 そこで、残された課題は、その因数分解を引き起こす為に添加する補助方程式の根rを累乗根で求める為の条件は何か?を探る事である。
 ガロアは(次回で述べる)第5節で、この条件を明らかにする。この第5節こそが第一論文の華となる。

 次回「#7」では、方程式がべき根で解ける時の必要十分条件を探ります。



4 コメント

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tokoさん (象が転んだ)
2024-04-05 15:12:02
いいとこ突いてますね。
初心者にしては上出来だと思います。
ただ、第1論文でガロアが最も苦悩した所は、第2、3節での”補助方程式の根を添加した場合にガロア方程式がどの様に変化するか”を検討し、正規部分群を発見する経緯でした。
勿論、正規部分群の存在が判ってれば、この節は無視出来るのですが、17歳のガロアには確信がなかったんですかね。
あえてこの部分を残しました。

それともう1つ
ラグランジュの分解式に至る前のガロアの「対応定理」(第4節)です。
これはガロア群と拡大体が1対1対応する事ですが、これにより一気に正規部分群の定義から方程式の可解性へと突き進みます。
つまり、ラグランジュの分解式は正規部分群を確認する為のツールに過ぎませんでした。

少し長くなりましたが、補足でした。
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Unknown (tokotokoto)
2024-04-05 11:59:16
超簡潔に言えば
ラグランジュの分解式の先に
正規部分群が見えたって事でいいのでしょうか。
記事が理解できないので
コメントだけを頼りにしてます。 
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腹打てさん (象が転んだ)
2024-04-03 23:23:34
まずは
小難しい記事を読んで頂き、更にコメントまで有り難うです。
ガロアはアーベルの背中を追い、確実に射程内に捉えてたんですよね。
第1論文の中にも、ガウスとアーベルの名前ははっきりと出てきます。勿論、ポアソンもラグランジュも出てきますが、あんまり良い意味ではないですね。
アーベルはガウスの評価を聞いて夭逝しましたが、ガロアは何も評価される事なく、決闘に破れそのまま死に絶えました。 
運命と言えばそれまでですが、アーベルの上を行ってただけに実に惜しいコトだと思います。
そういう思いで書いてる「ガロアの最終論文」も残り2回ほどで終るつもりですが、先に結論を纏められたみたいで、お恥ずかしい限りです。
では・・・
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日の目を浴びる筈の3つの論文 (腹打て)
2024-04-03 17:38:01
ガロアは、元の方程式のガロア群の中に正規部分群を見出し、ガロア群Gを正規部分群Hによる剰余類分解ができれば、ラグランジュの分解式の値が求まる。基礎体にこの分解式を添加すれば体は拡大し、ガロア群は最小の正規部分群{ε}へと縮小する。
そこで、それぞれの剰余類群の位数が素数の時に限り、方程式はべき根で解ける。
以上が、ガロアの第1論文の要約だけど、ガロアはこの代数方程式論だけではなく、楕円関数の研究も熱心に行っていたが、概略だけで正式な論文として書かれる事はなかった。
特に、こうした超越関数の取扱いは特殊で、従来の解法にはない新たな解法の構造を見出していた。

転んだ君が<序章>で書いたように、ガロアは友人の遺書の中に、<自分の研究は3つの論文にまとめる事が出来る>と書いたが、1つは代数方程式上のガロア群だが、2つ目は楕円関数のモジュラ方程式へのガロア理論の応用と、3つ目は超楕円関数における積分論である。
最後の1つはリーマンによって日の目を浴びたとは言え、今でも十二分に評価されてるとはいい難い。
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