昨日、”ノクターナルアニマルズ”ブログを読んで下さった方、有難うです。映画ブログをもっと書きたいんですが。映画を見る機会がなくて。
さて、『獣人』のあらすじ編です。レビューだけでは、この作品の魅力の5%も伝わらないかと。ネタバレだと敬遠されそうですが。ゾラやバルザックの小説は、ネタを全てバラしても、物語の新鮮味や斬新さに深い味わいは、殆ど損なわれる事はありません。
私なんか、読む前に敢えて、あらすじと登場人物の概要を頭に入れ、彼らの世界に飛び込むのです。
欲望が狂気をあぶり出し、本能が本性が殺意を呼び醒ます。まるで、犯罪小説の鏡。読み入る程に、野蛮な獣性が剥き出しになる。貴方は、獣欲に翻弄された剥き出しの本性に耐えられるのか。
まるで、凶暴という名の暴走列車に乗せられたみたいに。それに、異常な程に変人•変態が多いから、登場人物及び地理上のレイアウトをキチンと理解しておかないと、この複雑に絡み合う”獣性”には、まずついて行けない。
”パリとル•アーブル”を結ぶ西部鉄道が、この物語の舞台だ。主人公は、”獣人”ジャック•ランチエで、『居酒屋』の洗濯女のジェルベーズの次男。
女に欲望を抱くと凶暴になるという、先天性疾患に常に悩まされるが。自ら操縦するラ•メゾン号をこよなく愛する一等機関士だ。
仕事にはホント忠実で、性格も真面目なんですが。マッカール家の中で最も凶暴な男とされます。でも、実際に読んでみると、全然イイ人です。
ジャックと同じブランサン出身の、ル•アーブル駅の助役であるルーボーも、彼に劣らず凶暴で、愛しの妻セブリーヌの残酷な不浄の過去を知り、逆上し、彼女をフルボッコにする。
ホント、この男こそ獣人そのものですな。お陰でジャックの運命も、このルーボーに大きく狂わされるのです。
その後、このセブリーヌの不浄の相手であり、鉄道会社の取締役であり、ルーボーの恩人でもあるグランモラン氏を殺害する(2/15の事です)。その上、グランモランの死体から、一万フランを盗み出す。
この爺さんは、ルーアンの元裁判長でもあり、セブリーヌが16の時から、ずっと淫行を働いてた。その上、同居してる小間使いのルイゼットをも犯して死なせるという、とんでもないドスケベ親父なのだ。
この被害者に見える、セブリーヌも実は周囲に犯罪と嫉妬を呼び起こすのですが。無邪気だが、”危険な女”として描かれてる。実際には、そうでもないんですがね。
殺人が殺人を呼び、謎が謎を招き、社会を混乱の渦に巻き込む。人間の悪の本性が剥き出しとなり、残忍性と野蛮さと狂気が暴走特急と化す。
故に、この物語は鉄の塊の轟音と共に進行し、未開の雑風景な閉塞的な描写と相まって、不穏さと不気味さを一層醸し出すのです。
後に、妻と裁判長の不浄を知ったルーボーはブチ切れ、妻を殺すか、2人で死ぬかの選択を迫られるが。ある犯罪計画を企てる。彼が選んだのは、淫蕩に溺れたこの悪逆好色爺を殺す事だった。
3月に入り、このグラン•モラン殺害事件は、パリでも大きな話題となり、鉄道会社と経営陣を大きく揺るがした。その振動は、混乱した政界だけでなく、政情不安の国家をも脅かした。この拡張性高い展開に、読者は興奮しっ放しでしょうか。
殺された裁判長の破廉恥な素行も広く噂され、ルイゼット殺害も蒸し返された。老人の遺言が公開されると、ルーボー夫妻も疑惑の中心に晒される。
老爺の遺産の一部である、クロア•ド•モーフラの隠れ家が、ルーボー夫妻に送贈されたのだ。
この遺言に対し、裁判長の娘のベルト夫妻は猛反発するが、老人の妹のボンヌモン夫人からアッサリと反対される。この未亡人は、ルーボーの妻セブリーヌを我が子の様に可愛がり、世話をしてたのだ。
当然、ル•アーブル周辺では、遺産目当ての殺害という噂で一致し、ルーボー夫妻に検察の尋問が集中する。
しかし、犯行の唯一の目撃者である、ジャックの供述が曖昧である事と、元裁判長の派手な淫行とルイゼット殺害の真相が表沙汰になるのを、パリの司法省が恐れた為、敢えて、彼女の親友でもあり、前科者のカビューシュを犯人として挙げるも。証拠不十分として、公訴棄却にする事で決着を見るのだが。
一方、会社のイメージを大きく損なったとして、ルーボーは解雇の危機に晒される。
パリ司法省の事務局長であるカミィ•ラモットは、殺害の絶対的証拠となるルーボー夫人の直筆の手紙を持っていた。
夫ルーボーの解雇の却下を乞う為、パリに赴いた妻セブリーヌの筆跡を確認し、ルーボー夫妻による殺害の確証を得たのだが。
しかし、夫を解雇する事で世論を敵に回し、政治的混乱を引き起こす事を恐れ、解雇を取り消させる。世論は法律をも捻じ曲げるのです。
5月になると、この”グランモラン事件”は忘れ去られ、ルーボー夫妻にも穏やかな生活が戻りつつあった。
夫妻には、ジャックだけが頼りだった。彼以外は誰とも親しくしなかったし、当然の如く、ジャックとルーボー夫人はゆっくりと時間を掛け、互いに惹かれ合う様になる。
ジャックはセブリーヌを愛する事で、崇高な愛に目覚め、女に対する欲望と狂気に悩まされる事はなくなっていた。
彼女の方も、彼の慎み深い愛情に包まれる事で、16歳の時にグランモランから受けたレイプや、夫の暴力のトラウマから逃れようとしてたのだ。
12月になると、二人は愛を通じて信頼し合う様になり、彼女は犯行の全てを彼に自供する。しかし、殺害の生々しい告白が、ジャックの眠ってた本能に火を付け、例の発作が再発するのだ。
年が明けるとルーボーは、愛に目覚めた妻とは次第に絶縁状態となり、酒と賭博で身を滅ぼす様になる。
終いには、殺害したグランモランから奪い取った1万フランと血に染まった10枚の紙幣に手を付ける。この盗みの現場を抑えたセブリーヌは、夫の殺害を企む様になる。
しかし、頼みのジャックが変わっていくのが、彼女にはとても辛かったが、それ以上に彼を求めた。今では飽く事を知らぬ情熱の、もっぱら愛撫の為に作られた生き物と化し、全身が愛する女となったのだ。セブリーヌは今となっては、ジャックなしでは生きられなくなってたのだ。
年が明け、3月になると、セブリーヌは夫に対し、凶暴になりつつあった。夫を殺害し、アメリカへ逃亡する計画を夢見るようになる。
一方、ジャックもアメリカでの成功を夢見ていた。"あいつさえ殺せば、この厄介な発作も治るだろうし、アメリカでの新生活が、巨万の富と安楽な暮らしが待ってるのだ"
二人は当然の如く、ルーボー殺害へと突き進んでいく。"アイツは全てにおいて有罪だ、殺されて当然の男さ"
以上長々となりましたが、このボリュームで前半の終了です。
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