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『獣人』に見る、ゾラの剥き出しの獣欲とメルヘンチックな本性と〜あらすじ前半

2018年06月02日 15時19分47秒 | バルザック&ゾラ

 昨日、”ノクターナルアニマルズ”ブログを読んで下さった方、有難うです。映画ブログをもっと書きたいんですが。映画を見る機会がなくて。


 さて、『獣人』のあらすじ編です。レビューだけでは、この作品の魅力の5%も伝わらないかと。ネタバレだと敬遠されそうですが。ゾラやバルザックの小説は、ネタを全てバラしても、物語の新鮮味や斬新さに深い味わいは、殆ど損なわれる事はありません。
 私なんか、読む前に敢えて、あらすじと登場人物の概要を頭に入れ、彼らの世界に飛び込むのです。


 欲望が狂気をあぶり出し、本能が本性が殺意を呼び醒ます。まるで、犯罪小説の鏡。読み入る程に、野蛮な獣性が剥き出しになる。貴方は、獣欲に翻弄された剥き出しの本性に耐えられるのか。

 まるで、凶暴という名の暴走列車に乗せられたみたいに。それに、異常な程に変人•変態が多いから、登場人物及び地理上のレイアウトをキチンと理解しておかないと、この複雑に絡み合う”獣性”には、まずついて行けない。


 ”パリとル•アーブル”を結ぶ西部鉄道が、この物語の舞台だ。主人公は、”獣人”ジャック•ランチエで、『居酒屋』の洗濯女のジェルベーズの次男
 女に欲望を抱くと凶暴になるという、先天性疾患に常に悩まされるが。自ら操縦するラ•メゾン号をこよなく愛する一等機関士だ。
 仕事にはホント忠実で、性格も真面目なんですが。マッカール家の中で最も凶暴な男とされます。でも、実際に読んでみると、全然イイ人です。


 ジャックと同じブランサン出身の、ル•アーブル駅の助役であるルーボーも、彼に劣らず凶暴で、愛しの妻セブリーヌの残酷な不浄の過去を知り、逆上し、彼女をフルボッコにする。
 ホント、この男こそ獣人そのものですな。お陰でジャックの運命も、このルーボーに大きく狂わされるのです。

 その後、このセブリーヌの不浄の相手であり、鉄道会社の取締役であり、ルーボーの恩人でもあるグランモラン氏を殺害する(2/15の事です)。その上、グランモランの死体から、一万フランを盗み出す。


 この爺さんは、ルーアンの元裁判長でもあり、セブリーヌが16の時から、ずっと淫行を働いてた。その上、同居してる小間使いのルイゼットをも犯して死なせるという、とんでもないドスケベ親父なのだ。


 この被害者に見える、セブリーヌも実は周囲に犯罪と嫉妬を呼び起こすのですが。無邪気だが、”危険な女”として描かれてる。実際には、そうでもないんですがね。


 殺人が殺人を呼び、謎が謎を招き、社会を混乱の渦に巻き込む。人間の悪の本性が剥き出しとなり、残忍性と野蛮さと狂気が暴走特急と化す。
 
 故に、この物語は鉄の塊の轟音と共に進行し、未開の雑風景な閉塞的な描写と相まって、不穏さと不気味さを一層醸し出すのです。


 後に、妻と裁判長の不浄を知ったルーボーはブチ切れ、妻を殺すか、2人で死ぬかの選択を迫られるが。ある犯罪計画を企てる。彼が選んだのは、淫蕩に溺れたこの悪逆好色爺を殺す事だった。


 3月に入り、このグラン•モラン殺害事件は、パリでも大きな話題となり、鉄道会社と経営陣を大きく揺るがした。その振動は、混乱した政界だけでなく、政情不安の国家をも脅かした。この拡張性高い展開に、読者は興奮しっ放しでしょうか。


 殺された裁判長の破廉恥な素行も広く噂され、ルイゼット殺害も蒸し返された。老人の遺言が公開されると、ルーボー夫妻も疑惑の中心に晒される。
 老爺の遺産の一部である、クロア•ド•モーフラの隠れ家が、ルーボー夫妻に送贈されたのだ。


 この遺言に対し、裁判長の娘のベルト夫妻は猛反発するが、老人の妹のボンヌモン夫人からアッサリと反対される。この未亡人は、ルーボーの妻セブリーヌを我が子の様に可愛がり、世話をしてたのだ。

 当然、ル•アーブル周辺では、遺産目当ての殺害という噂で一致し、ルーボー夫妻に検察の尋問が集中する。


 しかし、犯行の唯一の目撃者である、ジャックの供述が曖昧である事と、元裁判長の派手な淫行ルイゼット殺害の真相が表沙汰になるのを、パリの司法省が恐れた為、敢えて、彼女の親友でもあり、前科者のカビューシュを犯人として挙げるも。証拠不十分として、公訴棄却にする事で決着を見るのだが。


 一方、会社のイメージを大きく損なったとして、ルーボーは解雇の危機に晒される。
 パリ司法省の事務局長であるカミィ•ラモットは、殺害の絶対的証拠となるルーボー夫人の直筆の手紙を持っていた。

 夫ルーボーの解雇の却下を乞う為、パリに赴いた妻セブリーヌの筆跡を確認し、ルーボー夫妻による殺害の確証を得たのだが。
 しかし、夫を解雇する事で世論を敵に回し、政治的混乱を引き起こす事を恐れ、解雇を取り消させる。世論は法律をも捻じ曲げるのです。


 5月になると、この”グランモラン事件”は忘れ去られ、ルーボー夫妻にも穏やかな生活が戻りつつあった。
 夫妻には、ジャックだけが頼りだった。彼以外は誰とも親しくしなかったし、当然の如く、ジャックとルーボー夫人はゆっくりと時間を掛け、互いに惹かれ合う様になる。

 ジャックはセブリーヌを愛する事で、崇高な愛に目覚め、女に対する欲望と狂気に悩まされる事はなくなっていた。
 彼女の方も、彼の慎み深い愛情に包まれる事で、16歳の時にグランモランから受けたレイプや、夫の暴力のトラウマから逃れようとしてたのだ。

 12月になると、二人は愛を通じて信頼し合う様になり、彼女は犯行の全てを彼に自供する。しかし、殺害の生々しい告白が、ジャックの眠ってた本能に火を付け、例の発作が再発するのだ。


 年が明けるとルーボーは、愛に目覚めた妻とは次第に絶縁状態となり、酒と賭博で身を滅ぼす様になる。
 終いには、殺害したグランモランから奪い取った1万フランと血に染まった10枚の紙幣に手を付ける。この盗みの現場を抑えたセブリーヌは、夫の殺害を企む様になる。

 しかし、頼みのジャックが変わっていくのが、彼女にはとても辛かったが、それ以上に彼を求めた。今では飽く事を知らぬ情熱の、もっぱら愛撫の為に作られた生き物と化し、全身が愛する女となったのだ。セブリーヌは今となっては、ジャックなしでは生きられなくなってたのだ。


 年が明け、3月になると、セブリーヌは夫に対し、凶暴になりつつあった。夫を殺害し、アメリカへ逃亡する計画を夢見るようになる。
 一方、ジャックもアメリカでの成功を夢見ていた。"あいつさえ殺せば、この厄介な発作も治るだろうし、アメリカでの新生活が、巨万の富と安楽な暮らしが待ってるのだ"
 二人は当然の如く、ルーボー殺害へと突き進んでいく。"アイツは全てにおいて有罪だ、殺されて当然の男さ"

 
以上長々となりましたが、このボリュームで前半の終了です。 



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