マ・ドンソク主演の少し前の韓国映画ですが、気になった作品を2つ紹介します。レビューは3/5ほどと高くはないんですが、彼の演技の幅を感じさせてくれたという点ではとても興味深く映った。
まずは「アンダードッグ」(2016)ですが、出来はともかく、とても楽しめた映画ではある。
窃盗で日銭を稼ぐ青年のジニルと風俗店経営の悪オヤジのヒョンソク(マ・ドンソク)に、資産家のバカ息子ソンフン。
まるで、奥田英朗さんの「最悪」(CLICKで参照)を見てるみたいで、この3人の接点が執拗に絡み合い、最後には悲劇を生む。
3人に共通するのが、揃っておバカさんだが、やってる事がやけに中途半端で、ワルなのか?単なる不良なのか?よく判らない。
が、”憎たらしい”という視点で言えば、親の資産と金持ちのプライドだけで生きているバカ息子(ソンフン)だが、彼の存在が中途な作品に何らかの活性剤らしきものを与えている。
登場人物を紹介しただけで大まかな展開は想像できそうだが、”アンダードッグ”程にシリアスでもないし、アクション映画ほどに痛快でもない。それでいて不思議と見入ってしまう。
その後に見た「モガディシュ 脱出までの14日間」(2021)の方がずっと完成度が高く秀作なのに、こちらは殆ど印象には残らなかったし、見入る事もなかった。
つまり、人間と同様に映画も少しは悪いくらいな方が丁度いい。しかし、”ワル=カッコいい”という単純な縮図は悪質な暴力を繁茂させるだけで、最悪は大量虐殺を生み出す。
特に、田舎は娯楽も教育もカネもないから、ワルや暴力は繁茂しやすい。悪は理性により制御出来るが限界もある。故に倫理や道徳や法があるのだろうが、それらにも限界はある。
映画では、そうした現実に起こりうる暴力をシリアスに描く事で、暴力を未然に防ぐ効果がある。一方で、暴力をド派手に描く事で興行的に優位に立てるという側面もある。
ただ、最近のアクション一辺倒のマ・ドンソクには余り魅力を感じなくなったが、こうした際どい役をヤラせると非常に才能豊かな俳優サンである事が判る。
韓国の”闇社会を描いた”というより、カラオケ店が風俗店を兼ねる韓国の性ビジネスの方が興味深く写ったという映画でした。
「玩具~虐げられる女たち」(2013)
この映画は、痩せたマ・ドンソクに興味を唆られて見入ってしまった。多分太ってた彼なら見なかったであろう。
現実に起きた性接待の闇を描いたシリアスな作品で、権力者による性虐待で自殺した女優の真実を追い続ける(マ・ドンソク演じる)”ニュース記者の奮闘を描いた”までは良かったが、純粋なドキュメントだけに幕切れも中途で後味が悪い。
「アンダードッグ」も含め、以上の2つの作品に共通するのは、正義で悪には勝てっこないし、”悪にはそれ以上の悪でしか打ち負かす事ができない”という事である。
しかし、強い悪で打ちのめしても悪が無限に大きくなるだけで、解決には程遠い。
故に、悪には法やギロチンよりも中和剤が必要なのだが、その中和剤が風俗店経営の男なのか?アテにならないネット記者なのか?
2つの作品とも、展開的には単純すぎるので敢えて触れる事はしない。
(前者はともかく)後者は描いてる事自体は、どの国でも起こり得る事で、実際に起こってる事ではある。(特に韓国では)歴代の大統領がその職を辞した後、反対勢力の検察から必ず訴追される。
こうした検察が(法を超える)強大な力を持ってる国ならではの迫真性と純朴性がある。
つまり、”悪は絶対に許さん”という気持ちは世界共通だが、悪に対する防衛手段や処罰の行使の程度は、時代やそれぞれの国で異なる。
私は悪は脳内に宿ると思っている。だったら、その悪を中和する薬や方法を開発する必要がある。少なくとも悪を薄めて海洋放出する様な愚挙だけは止めてほしいのだが、現実には(ある程度は薄められた形で)悪は放置されている。
一方で、貧しさや劣悪な環境が悪を生むとすれば、そうして生まれた悪は脳を宿主にして繁殖する。たとえ悪が薄く広く繁茂したとしても、結果的には巨悪に繋がる。
が、貧しさを未然に防ぐ事は不可能に近いから、劣悪な環境から生まれた悪の因子が脳内に宿るのを防ぐ事が重要になる。故に、脳内で(悪と戦うではなく)悪を中和する術を模索するしかない。
ただ仮に、全ての悪が中和され、善だけになったら?むしろこっちの方が怖いかもしれない。リスク管理においても必要最低限の悪は存在した方がいいのだろう。
最後に〜性行為と性犯罪
性風俗と性接待の2つの闇を描いた作品だが、”韓国女優の63%が性接待の提案を受けた事がある”とされるから、単純に同じ様な確率で未成年の韓国女性が性風俗店の誘いを受けたと考えるべきだろうか。
確かに、韓国の女優さんは色白の美人が多いが、不審な自殺も多い。それに、日本以上に政治と映画界が癒着してるから、掘れば掘るほどに色んな問題が露呈する。
勿論、日本でもアイドルや芸能人の枕営業はしばし問題になるが、掘り起こせば、同じ様な確率で露呈するであろうか。
が、こうした性犯罪は、韓国だけでなく世界共通の闇である。こうした闇が地下深く潜るほどに巨悪と結びつく。一旦巨悪と結びついた性は一気に蔓延し、国家を食いつぶす。
勿論、性があるから子供が生まれ、種の存続には不可欠ではあるが、逆に性が過ぎると種を滅ぼす。
つまり、性とは矛盾を多く含んだ快楽であり、腐った本能なのであろうか。一方で、同じ性でも”性行為と性犯罪は別物”という認識を持つ事も必要であろう。
因みに、韓国版では自殺した彼女が首輪を付けられ後ろ手に縛られ、全裸でバックから犯されているシーンがあるとされる。
日本では過激過ぎるとしてカットされたのだろうが、このシーンがあるとないとでは物語の残酷さや事の深刻さが違って来る。レビューが低い理由が判った様な気がして、とても残念ではある。
映画は社会を映し出す鏡であるべきだ。目を背けたくなるシーンを敢えて流す事で、性犯罪の深刻さを国民に理解してもらうのも映画の大きな役割である。
つまり、脳内に潜む暴力や悪を(完全撲滅は出来なくとも)減らす為には、それらを白日の下にさらけ出す覚悟と勇気が必要であろう。少なくとも、ハゲ上がった額を前髪で隠す様な曖昧な事はして欲しくない。
という事で、少し古い韓国映画の紹介でした。
私は田舎の人は純朴だと信じていましたが、そうでもないですか?
しかし、どこにも悪い奴はいるものですね。
田舎の場合、純朴が故にワルも暴力も純朴過ぎる所があります。
地域性もあるんでしょうが、時代とともにワルも暴力も多様化してきたんでしょうね。
言われる通り、知らない事や知らなかった事を知るというのは、短期的には抵抗あるでしょうが長期的に見れば、大きな意味を持ってくると思います。
ただ、日本には”知らぬが仏”とかいう諺がありますが、事実を知らないが故に心を乱されず仏でいられるの意味と、逆に、知らない事を嘲ける意味もあります。
でも知らないことを知る事で、人間や人生の幅が広がる事もあるので、”真実は口に苦し”となる薬でしょうか。
コメントいつもありがとうです。
でも
>悪を中和する薬や方法を開発する術を模索する~
これ面白い発想ですね。シナリオを書いてみてはいかがでしょうか?転像さんの夢などの文章力、確たる自我、数学(科学)の造詣など拝読してそう思いました。
>映画は社会を映し出す鏡であるべきだ~
全くその通りですね。以前は欧米の映画を中心にみていましたが、韓国のドラマ映画を観るようになって、歴史や多様な社会や考え方がより身近なものとして捉えられるようになったような気がします。
去年の今頃かな、「モガディシュ脱出までの14日間」映画館で観てきましたが私は面白かったです。北朝鮮のロビー活動はなかなか力が(今も?)ありましたね。
性風俗を描いた映画、故キム・ギトク監督の「悪い男」は観ましたか?
訂正してお詫びします。御免なさいね。
韓国らしい映画ですね。
ただ、純愛と暴力って両立するんでしょうか。
主演を山川穂高にすれば面白いかもですが、出来すぎなのも少し構えそうで・・・
今回の2つの作品は、マドンソク主演だから見たようなもので、性犯罪のテーマには正直興味はありませんでした。
でもマドンソクの演技力は流石です。今更ですが、見直しました。
では・・・
色んな見方があるかもです。