前回その2では、方程式が代数的に解けるか否かは、解の置換群の構造を見れば分かるという所で終えました。そこで、”解の置換”に入る前に、ガロア群についての基本をおさらいしたいと思います。
”一般方程式を代数学的に解くとは、係数に四則演算と累乗根を施して解を表現する”と言いましたね。
そこでまずは、複素数の累乗根についての基本的な説明からです。
複素数の累乗根とは?
”複素数を係数とするn次方程式は、複素数を含めn個の解を持つ”というのは、数学の帝王ガウス(Johann Carl Friedrich Gauss 1777−1855)が若干22歳の時に証明した”代数学の基本定理”です。
因みに、この基本定理を厳密に言うと、n次方程式をa₀+a₁x+a₂x²+•••+axⁿ=0とおいた時、a₀、a₁、a₂、•••が複素数なら、xは複素数の解を持つ。つまり複素数の範囲で方程式が解けると。
ガウスは、この歴史に残る様な大定理で学位を取ったというから、人間的にも桁外れのスケールですね。
例えば、x²=2の答えはx=±√2です。x³=2では、x=³√2は1つの解ですが、3次方程式では解は3つですね。
それに、x³=2は重根を持たない。1つはx=³√2、他の2つの解はどう求めるの?
そこで虚数iを使い、ω=(−1+√3i)/2とおくと、このωは”1の3乗根”の1つになる。
ω³=(−1+√3i)³/2³=(−1+3√3i+9−3√3i)/8=1、この時、(ω²)³=(ω³)²=1²=1となり、ω²も1の3乗根になる。
このωの様に、その累乗により1のn乗根を全て表せる根を、”1の原始n乗根”と言います。
故にωを使えば、(³√2ω)³=(³√2)³ω³=2×1=2、(³√2ω²)³=(³√2)³ω⁶=2×1=2。
つまり、方程式x³=2の解は、x=³√2、³√2ω、³√2ω²の3つ。
故に、最初の解の³√2は3乗して2になる実数の事で、3つの解とも何ら曖昧さはない。
因みに、方程式の係数(1と2)こそ有理数ですが、解は複素数ωを含む事に注意です。
x⁴=2も同様に、1の4乗根は±1、±iより、4乗して2となる実数を±⁴√2とすると、この解は、x=±⁴√2、±⁴√2i、の4つ。
では、x⁵=2は?
これも、1の原始5乗根をζとすると、x³=2の時と同じ様にして、この解は、x=⁵√2、⁵√2ζ、⁵√2ζ²、⁵√2ζ³、⁵√2ζ⁴、の5つとなる。
一般に、ⁿ√A、(n自然数、A>0)とは、n乗しAになる実数の事ですが。Aが実数でない場合、少し問題になる。
まず√iを求めてみる。
高校で学ぶドモアブルの定理より、複素数(a+bi)を絶対値R、偏角θとすると、a+bi=R(cosθ+isinθ)で示され、(a+bi)ⁿ=rⁿ(cosnθ+isinnθ)となる。
そこで、√iを極形式で表すと、R=1、偏角θ=π/2より、i=cosπ/2+isinπ/2となり、√i=i^(1/2)=cosπ/4+isinπ/4=√2/2+√2i/2。でも2乗してiになるのは、−√2/2−√2i/2=cos5π/4+isin5π/4も同様である。しかし、この2つの解は2乗して”i”という同じ権利を有するが、区別して明記する必要がある。
それに、ドモアブルの定理でn=1/2とは、nが自然数という条件に反するかもだ。
そこでオイラーの定理を使えば、eⁱᶿ=cosθ+isinθより、(cosθ+isinθ)ⁿ=eⁱⁿᶿ=cosnθ+isinnθ。これはnが分数の時でも成り立つが。
上記の√iの時の様に、値は複数になり、多価性(1つの入力に対し複数の値)に注意する必要がある。
以上より、ⁿ√AにてAが実数である場合は問題ないが。Aが実数でない場合、ⁿ√Aがそのn個のn乗根のうちどれを指すのかを注記する必要がありますね。
解った様な解かんない様なですが。この複素数の累乗根の初等的な概念こそが、後に述べる”ガロア拡大体”にて重要な意味を持って来るんです。
”ガロア体”と四則演算と
次に、方程式を代数学的に解くとは、係数に四則演算と累乗根を施して解を表現すると言ったが。この”四則を施して方程式を解く”とはどういう事なの?って。
5x−7=2x+5という簡単な1次方程式を解いてみます。5x−2x=7+5、3x=12、x=12ですね。小学生でも出来るレベルですが。
この方程式の係数である5,−7,2,5に、足し算、引き算、掛け算、割り算を施し、4という解を導き出したんですが。”四則を施して方程式を解く”とはこの事です。
そこで、この四則演算によって行き着く限界を見極める為に、”体”(field)という概念を考えます。この四則によって作る事の出来る全ての数の集合を”体”と言います。数学的に言えば”四則に閉じてる”と。
体を英語でfieldと言いますが、庭(field)の中ではみ出す事なく遊び回る子供達(数=元)を、イメージして下さい。
ある”体”に、0でない数字aが1つ存在するとします。a/a=1より、この体は1を含む。1に1を加え続けると、この体は全ての自然数を含みます。その自然数に引き算を施せば、全ての整数が出てくる。これに割り算を施せば全ての有理数が作れます。
故に、全ての有理数を含む体は、(考えられる)最小の体ですね。
今ではこういった体の概念も抽象的に定義され、有限のみの体や数ではない体も考えられてます。が、この(有限)体という概念を最初に思いついたのがガロアなんですね。故に”有限体”の事を”ガロア体”と呼びます。
因みに、素数pとn(自然数)に対し、元の数(位数)がqの有限体は、q=pⁿを満たすから、ここにても素数がガロア体と密接に繋ってる。恐るべき素数の魔力ですね。
”体”の概念とは?
この最小の体である有限数体はQで表され、体に含まれる数を”元”と呼ぶ。先述した様に体を庭(field)、元を子供(数)とイメージします。体の元同士に四則演算を施し現れた数がその体に含まれる事をお忘れなく。庭の中で遊び回る子供のイメージですよ。
自然数は引き算で自然数ではなくなり、整数同士の割り算が割り切れない時がありますね。故に自然数も整数も体ではない。
これを拡張すれば、有理数が体(有理数体Q)になるから実数全体も体(実数体R)になり、複素数全体も体(複素数体C)になる。
ガロアにあって、ラグランジェやルフィニに欠けてたのが、この体の概念なんです(その2参照)。今では体を無限集合という集合論で扱うんですが、ガロアに集合という概念があった筈もない。”集合論の祖”と言われたカントールは、ガロアが死んだ後に生まれてますね。
しかしガロアには、明確な体の要素つまり、”体の拡大”という認識が明確にあった。集合論を使わずして、ガロアは体を拡大していくんですが。超新星と言われる所以ですな。
”係数体”と”可約”と”既約”と
次に、x²−5x+6=0の2次方程式を考えます。この方程式の係数は、1と5と−6。これらの係数を含む最小の体を”係数体”と呼ぶんですが、この係数体は有理数体Qですね。
そこで、上の方程式を因数分解して解くと、x=2、3。故にこの方程式の解は有理数であり、係数体は全く変化しない。言い換えれば、解が係数体をはみ出す事はない。
この様に、係数体の範囲内で因数分解できる方程式を”可約”(分解可=reducible)と呼びます。
では、x²+x+1=0の場合はどうだ?
勿論、係数体は有理数体Qですが。Qの範囲内では因数分解できませんね。故に公式を使って解くと、x=(−1±√3i)/2と、解が係数体をはみ出す。故に係数体を拡大する必要がある。
この様に体を拡大しないと因数分解できない方程式を”既約”(分解不可=irreducible)と呼びます。
故に、”可約”方程式の場合、代数的に解けるのは明らかで、”既約”方程式の場合が問題になる。”可約”と”既約”の違いをよーくご理解をです。
少し長くなったので、今日はここまで。次回は、簡単な(既約)方程式を使い、ガロア流に調理していきます。
群とか環は、イメージ付きそうですが、”体”はアカンです。せめて”庭”ですかね。
ガロアも言ってますね。ギリシャ記号に何故こだわるんだって。漢字や日本語でも使えそうなのは使おうと。
確かに、ギリシャ記号って意外に以外に解り難いんですよ。数学を気嫌いする要因にもなってますかね。
愚痴もこの辺で。次回のガロアその4を読めば、ガロア体とガロア群の関係が大体理解できると思います。その1とその2は少し抽象的過ぎましたかね。
では次回も宜しくです。
転んだサン言うように、庭にすれば判りやすいのに。いい子にして庭からはみ出すことなく遊んでる状態を《体》と言えば、少しは理解できますか。
ガロアも大人しくいい子にしてれば、若くして死ぬこともなかったのに。合掌。
逆に集合論という認識がなかったから、ガロアの群は明快だったかもですね。以降変に弄っちゃったから、ゴチャゴチャになった。
でもやっぱり数学は難しく、抽象的になりますね。愚直ほどシンプルにとは、数学のためにあるんですよ。そうでないと数学という学問は難しいまま絶滅するかもです。
有理数体という最小の体を使い、集合論を使わず、必要最低限の要素を使って拡大することで、明確な認識を失うことなく、体を拡大できたんでしょうか。
これだけでも、ガロアの洞窟の闇に触れた様な気になりました。
ガロア探訪はしばらく続きそうですかね。