
全くの興味本位で立てた、大場アナザストーリーも今日(その10)で最期です。最初は2、3回であっさりと終えようと思ったんですが、どうも思い入れが強く、ダラダラと長くなってしまいました。
試合の方は大場が5Rでサラテを血祭りに上げるんですが。誇張や贔屓もあってか、大場のやや一方的な展開にしました。勿論、大場らしい脆さと危うさも交えながらですが。
この世にはいない大場をこの世に蘇らせ、往年のファイターと対戦させるって事が、無理があるのは十分承知ですが。大場とサラテは活躍した時代が近く、ファイトスタイルも世代も似てるので、書いてて不思議とスムーズに進めました。
さてと、ストーリーに戻ります。
長野ハルは大場を叱り飛ばした後、すぐに帝拳に電話した。元会長のバカ息子(明彦)に車で迎えに来る様に促した。明彦が迎えに来ると、大場と妻と娘たちを先に車に乗せ、桑田トレーナーと長野はその場に残り、メディアへの対応に追われた。
マスコミは大騒ぎした。
”何故、今夜の主役である大場がいないのだ?具合でも悪くなったのか?一言くらい挨拶するのが礼儀だってもんだろー”
プレス会場となった新蔵前国技館に隣接する体育館は喧々諤々の大騒ぎとなった。熱狂したファンがなだれ込み、暴動と化す勢いだ。
警察側は慌てて緊急事態を引き、記者会見を取りやめにした。長野と桑田はファンやメディアに深くお詫びをし、明朝に改めて記者会見をすると申し出た。
”大場や大場の家族に危険が降りかかるのを察しての事です。どうかお許しを、そして冷静に”、と懇願してもファンが黙っちゃいない。
”大場を出せ!一寸だけでいいから顔を出せ!それが礼儀ってもんだろ?チケットを幾らで手に入れたって思ってんだ!”
長野と桑田を警護する警官と目があった。
”今大場君は何処にいます?”と警官は訊ねた。
”元会長の息子の車の中です”
”呼び戻せますか?このままじゃ、このパニックは収まりそうもない。今の大場君は神様の領域を超えてるんです。急いで下さい、お願いします”
”今からですか?でも奥さんや娘は?”
”家族はこちらで厳重に保護します。だからご心配なく、さ大場君を呼びましょう”
”わ、わ、分かりました”、桑田の声が震えた。
”では電話をお借りしたいんですが?”
長野ハルはパトカーの中に入り、帝拳ジムに電話をするも、まだジムには到着していない。到着したら、警察に電話するよう事つけた。
プレス会場の周りには、多くのメディアとそれを取り囲むファンや野次馬で溢れていた。警察の数も次第に増し、パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響く。
その時電話が鳴った。明彦からだった。
”大場がいないんだよ。それに家族もろとも消えちゃったんだ。何が起こったのか、こっちが知りたいくらいだ”
”何馬鹿な事言ってんのよ!ちゃんと乗せたでしょ?途中で降りたとか、信号待ちの途中でどっかへ行ったとか”、長野の表情が青褪めた。
”首都高速を走ってたんだから、とまる訳ないよ、ノンストップでジムに直行したんだからね。それに高速で後ろを確認しながら運転は出来ないよ”、明彦も青褪めてた。
その時、桑田が怒鳴った。
”テメーは何馬鹿な事言ってんだ。大場の送り迎えがお前の仕事だろ!大場が家族共々消えたっていうのか、このバカが!”
警察はすぐさま帝拳ジムに直行する。大場と大場の家族を乗せた筈の車が、大慌てで徹底検証された。
検証結果、後部座席に人が乗った痕跡が全くないのだ。2人の大人と2人の娘が乗ってたにしては、熱が全くない。髪の毛1本も衣服の僅かなゴミ1つすら出てこない。それに指紋1つ検出されなかった。
警察は極秘で捜査を進めた。新国立から帝拳ジムに至る首都高速に厳戒態勢が引かれる。
メディアには、大場が緊急入院したという事で何とか折り合いをつけた。”圧勝だったけれど異常なまでにタフな試合だったからな。ま今晩くらいはゆっくりと休ませてやるか”、とファンもようやく諦めて家路に戻り始めた。
長野と桑田は顔を真っ赤にして、明彦を怒鳴りつけた。大場とサラテのタイトルマッチよりも凄みがあった程だ。社会人になったばかりで、元々気の弱い明彦は泣きじゃくった。
”俺は悪くないよ、気が付いたら後ろに誰もいないんだ。首都高速を降りた時、何か変だなと思ったら、家族まるごと消えてたんだ。ウソじゃない”
警部補は3人をなだめすかした。
”ここは落ち着いて、先ず人が4人も一辺に消える筈がない。多分高速を降りた所で、大場君がトイレかなんかに逃げ込んだんじゃないのかな、それで家族も一緒に降りたと”
”でも後部座席には何も出てこなかったんでしょ?”この巡査の何気ない言葉が警部補を怒らせた。
”このバカが、気持ちを落ち着かせようとして言ったのに、何故そんな事を言うんだ💢”
”ホントに何も出てこなかったの?試合が終ったばかりだから、汗くらいは滲んでたでしょう?”と長野が叫んだ。
”靴には泥がついてる筈だから、靴の痕くらいある筈だぜ”と桑田。
”そう言えば、大曲カーブ(大場が事故死した現場)付近で、何かがスッと消えていく感じがしたんだ。窓を開けてる筈もないのに、冷たい風が入ってきた感じかな。その時は娘さんが窓を開けたと思ったんだ”
警察の事情徴収は深夜まで行われた。流石に長野ハルも桑田も疲れ、ぐっすりと寝込んでしまった。
何時間が経っただろうか?長野は目を覚ました。目覚ましを見ると朝の11時過ぎだった。本棚の上には往年の大場の写真が飾ってある。その横にチャンピオンベルトが飾ってあった。フライ級ではなくバンタム級のサラテから奪ったベルトだ。
そしてその横には小さな便箋が添えられてた。”約束通りベルトを持ってきたよ、お母さん。何時でも会いたくなったら言ってね、何時でも戻ってくるよ。ではサヨナラ”
長野は慌ててカレンダーを見た。2015年の1月15日。大場が死んだ丁度同じ日だ。時刻も大場が死んだ11時22分だった。
そしてこの年、大場は国際ボクシング名誉の殿堂に選出された。
ベルトにはまだ温もりがあった。サラテとの死闘の余韻が残ってた。
長野ハルは口癖にいう言葉があった。”この子がチャンピオンになれないのなら、神様はいない”と。そして大場は神様になった。
常に努力が報われるのなら、この世はもっとましで、但しもっと退屈なものになってるだろう。しかし、リングという祝祭空間では、神はより必要とする者に勝利を与える。ボクシングでは、より強く勝利を望んでいるボクサーが勝つ。自分の意志をリング上に実現しようという、神的なまでの決意こそボクシングの本質なのだろう。(”mario文庫”より抜粋です)。
つまり、大場の勝負への渇望は、42年後もずっと息づいてたのだ。
長野ハルはひとり微笑んだ。
”独り寂しくしてたから、会いに来てくれたんだわ。あの子はそういう所があったの。ひとりボーッとしてると何時もそばに来て、何も心配いらないよ、起きたらベルトが飾ってある筈だからと”
事実その通りとなった。
翌日長野は、大場が事故死した首都高速5号池袋線の大曲のカーブを訊ねた。そこに大場が待ってるような気がしたからだ。勿論大場はいなかった。ただ、サラテとの激戦の熱気と興奮が漂ってるように思えた。
”あの子はまだ死んじゃいない。あの子はまだ戦い続けてる。神様が大場を生き返らせたんだわ。あの子はまだ戦い足りなかったのかしら、男って呑気なもんね”
そう言うと、ひとり微笑みながら、帰路に向かった。
終
とうとう終わったね。
大場が勝つとは思ってたけど、スリリングで愉快だった。勝利への渇望の差が最後には決めてになったが。実際に闘ったら、もっと競り合いになるだろうね。
でも、最後に大場ファミリーが消える辺りのオチは、転んだサンらしいや。笑っちゃったな。
長野ハルさんの名言も胸にジーンときたもん。大場は戦い続けたかったんだね、天国にいても。それに長野ハルさんももっと大場の闘う姿を見続けたかったんだよ。
実に憎いエンディングだったな。転んだサンと長野ハルさんに一票です。
書いてる本人も少し寂しいです。
何だか1つの人生が終わったみたいで。書いてる時は楽しかったが、いつか終わりが来ると思うと、やはりね。
大場ストーリーの後は、フォアマンを予定してます。象を3発で倒すプレデター級の破壊者の物語です。
これからも宜しくです。
最後は大場ファミリー共々消え去ったエンディングで、呆気ない幕切れでしたが。転んだサンらしいや。
大場と井上も見たいけど、大場の圧勝でしょうね。やっぱり大場ってスゴいボクサーだったんです。そう思わせるストーリーだったな。
フォアマンも楽しみにしてます。
大場と井上も見てみたくはないんですが。多分同じ様な結果にするでしょうね。一時は考えた事もあったんですが、もう十分かなって。
それより、デュランとロマチェンコとの夢の対戦を考えてます。石の拳かハイテクか。
これからも宜しくです。