象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

映画「アクリモニー〜辛辣な復讐」と境界性人格障害の間で

2024年02月04日 02時28分31秒 | 映画&ドラマ

 専門家の間では酷評の目立つ作品だが、私には刺々しくもよく出来た、シリアスなヒューマンサスペンスに映った。
 多分、”境界性人格障害”の傾向が少しでもある人には、非常に興味深く映った?であろうか。事実、映画を見た直後に、判断テストをしたら、案の定その傾向にあった(悲)。
 境界性人格障害に関しては後ほど触れるとして、この作品の一番のポイントは、名監督タイラー・ベリーの手腕と奇策、それに主演女優タラジ・P・ヘンソンの思い入れとリアルな演技とその深さにある。
 特に、ヘンソンに関しては高校時代に恋人との間に長男マルセルを出産したが、その恋人は8年後に殺害されるという苦い経験があるが故に、刺々しい演技は私の心を打つものだった。

 展開を縮約すると、愛する旦那ロバートのリチウム電池の研究開発の為に、昼晩働き経済的に支え続けたメリンダ(Pヘンソン)の悲劇と狂気と復讐の物語である。
 心身共に疲弊してた中で発覚した、ロバートの不倫?と愛人ダイアナへの狂気じみた恨み。確かに、悲しい家庭環境で育ったロバートを必死で支え続けたメリンダの献身には頭が下がる。
 更に、若い頃のロバートの浮気が元で、自暴自棄な行動を取り、子宮摘出という大怪我を負い、子供が産めない身体になっていたから、ロバートと彼の子を身籠ったダイアナの結婚に狂うのも理解できる。

 しかし、後半のメリンダの度の過ぎた狂気と言動には疑問が残らなくもない。勿論、所詮はフィクションである。どんな奇抜な展開も面白ければそれでいいし、映画とは娯楽とは、そんなもんだろう。
 ただ、前半がとても良く出来たヒューマニックなドラマだっただけに、その流れで一気に突き進んで欲しかった気もする。

 策に溺れた感もなくもないが、実に惜しい作品である。
 最終的にロバートは長年の研究が認められ、莫大な額のライセンス契約を勝ち取り、不倫相手のダイアナと再婚する。だが、彼の目標が次世代のリチウム電池の完成ではなく、単に研究が認められ、大金持ちになるという陳腐な成功哲学しか持ち得てない所も、後味の悪さを加担してしまう。


境界性人格障害を描いた作品

 この作品は、メリンダの狂気を境界性人格障害をダブらせて実に見事に描いている。そういう点では、私はこの映画を高く評価したい。
 事実、終盤間際では、それまで快くインタビューに応じていた彼女が”境界性人格障害って言葉知ってる?”と聞かれた途端、自分をコントロールできなくなり、その場を去ってしまう。その後の展開が、実に残酷なものになるのは想像に難くない。
 そういう意味でも、タイラー・ベリー監督は境界性人格障害を通じて、(酷評を覚悟で)この作品を描きたかったのだろうか。

 因みに、境界性人格障害(以下、BPD)とは、他人や恋人から見捨てられる事を極端に恐れ、感情の起伏が不安定になり、感情の波も激しくなる。結果、自分の感情を制御できずに周囲に多大な迷惑をかけてしまう。
 つまり、メリンダの行き過ぎた献身と愛情は、結果的にBPDを患い、場違いな狂気や嫉妬を生んだとも言える。故に、BPDの視点でメリンダの刺々しい復讐劇を見れば、色んな見方が出来るのではないだろうか。

 ”理想から幻滅への移行”
 この境界性人格障害を象徴する言葉は、今のアメリカ社会だけでなく、我々にも当てはまるのではないだろうか。
 そういう意味では、他人事に思えなくもない作品でもある。



2 コメント

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#114さん (象が転んだ)
2024-02-04 17:39:33
お久しぶりです。
父親の死が原因との声もありますが
ガロアは元々から激しやすい性格にあった事も事実ですね。
それが父の自殺や政治や社会への不満が重なり、次第に道を外していきます。
せめて、エリート大学の入学が許されてたなら、ともおもうんですが・・
ガウスですら追いつけない程の数学理論の持ち主でしたから、時代に背を向けられたとしかいいようがないですね。
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境界性人格障害と天才 (#114)
2024-02-04 12:41:31
父親の死
二度の受験失敗
二度に渡る論文の損失
政治や社会への不満

若過ぎた天才ガロアも
その傾向にあったんだろうか 
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