温度計ではかれる温度
身の回りの温度計、何度まではかることができるのだろう?
日常目にするものは100℃までのものがほとんどである。天ぷら用の温度計で約200℃まで、このあたりまでなら市販されている。しかし、それ以上高温となると一般では手に入らない、特殊な温度計が必要となる。高い温度を正確に測定するのは現代でも難しい課題だ。
そんなに高温なんて、日常ほとんど使わないから関係ない?ちょっと待ってほしい。高温の世界には重要なことがたくさんある。
例えば、物が燃える温度は発火点といって、物質によって違う。燃え出す温度を発火点と言って、紙の発火点は450度、木の発火点は400~470度位。マッチに使われている赤リンは発火点がとても低くて260度位。マッチは燃え始めは低い温度だが、火が付いた瞬間のマッチの温度は何と2500℃にまで上昇する。
あなたの知らない高温の世界
よい鉄をつくるには、正確な鉄の融点 1,535 ℃の測定が欠かせない。広島に落ちた核分裂原子爆弾の1秒後の温度は 3,027 ℃ 爆心地にいた人は一瞬で蒸発してしまい影だけが残った。
5,507 ℃ は太陽の表面温度。私たち人類が生きるためには、太陽エネルギーがなくてはならないが、太陽の中心温度は約1400万℃、核融合反応の起きるためには、温度が最低でも約1000万℃は必要だという。
人類がこれまでに核融合実験でつくった最高温度は、約5億℃だ。1億℃を越えると、3つのヘリウム原子核がトリプルアルファ反応により核融合を起こし、炭素が生成され始めるという。
宇宙の始まりビッグバンから30万年後にはまだ宇宙は 5,927℃高温だったという。ビッグバン後10,000 年後の宇宙の平均温度では 24,727 ℃。もっと遡って宇宙の誕生直後はどのくらいあったのだろうか?
熱力学の第3法則により、温度の正体は原子のエネルギー状態に等しいから、高い方に上限はない。「温度0=エネルギー0」の状態は理論的にはあるが現実にはない世界。
宇宙創生直後の超高温状態再現
そんな不思議な熱・温度の世界であるが、理化学研究所と高エネルギー加速器研究機構は2月16日、金のイオン同士を衝突させ、約4兆度という実験室で実現した温度としては最高記録を達成したと発表した。
実験は、米ブルックヘブン国立研究所の相対論重イオン衝突加速器(RHIC)を用いて行われた。4兆度は太陽中心温度の10万倍も高く、また、これまで理論計算法を用いた大規模計算機シミュレーションで得られた宇宙創生直後の温度推定値約2兆度をはるかに上回っている。
このような高温を直接測る温度計はない。衝突の結果、バラバラに壊れた粒子の一部が瞬時に熱的光子に崩壊する現象を利用し、熱的光子の発生量とエネルギー分布を正確に測定することで温度を割り出すことに成功した。
約4兆度という高温では、陽子や中性子を構成するクォークとグルーオンがプラズマ状態になっていると考えられている。宇宙ができた直後の数十万分の1秒の間、宇宙はクォークとグルーオンのプラズマ状態で満たされていた。その後宇宙が冷えて、クォークとグルーオンは陽子や中性子に凝縮、さらにその後、原子核や原子とそれらが集まってできる星がつくられたという。
どうしてこのような研究の意味があるのかについて理化学研究所と高エネルギー加速器研究機構は、宇宙創生直後の宇宙の状態をより詳しく研究できることに加え、素粒子の基本作用の一つである「強い相互作用」とその理論である量子色力学の性質を解明できる、と説明している。(サイエンスポータル 2010年2月17日)
熱的光子で分かる超高温
衝突初期に発生する光の粒子である光子は、高温物質から熱的に放射されるため、熱的光子と呼ばれる。熱的光子は、その周りに作られている高密度物質によって乱されることなく外部に放出される。その発生量とエネルギー分布は、衝突初期の温度とその後の時間発展を反映している。このため、この熱的光子を測定することで、衝突初期の温度を直接的に測定することが可能になる。
しかし、この熱的光子の測定は非常に困難。RHICの金原子核同士の衝突では、衝突1回あたりに数千個もの崩壊した粒子が発生(生成)するが、これらの粒子の中には、発生後瞬時に光子に崩壊するものも多く、それが測定したい熱的光子を隠すバックグランド(雑音光子)となり、測定を難しくする。雑音光子の発生量は、熱的光子の発生量の約10倍もあり、しかも雑音光子と熱的光子を直接区別する方法はなかった。
研究グループは、高エネルギーの光子の一部が、電子とその反粒子である陽電子の対(電子・陽電子対)に変換することを利用して、熱的光子を雑音光子から分離し、その発生量とエネルギー分布を測定することに成功した。アインシュタインの有名な質量とエネルギーの関係式 E=mc2 に従って、光子(エネルギー)は物質(電子・陽電子対)に変換。光子が電子・陽電子対に変換する割合は、理論により正確に計算することができるため、光子自身ではなく、電子・陽電子対を測定することで、もとの光子の発生量を求めることができる。
雑音光子を物質から算出
研究グループは、電子・陽電子対の測定領域を適当に選ぶことで、雑音光子の量を約5分の1に減らした。残りの雑音光子成分については、その元になる親粒子の生成量を測定し、雑音光子の発生量を計算して差し引くことで、余剰光子成分を算出した。
陽子同士の衝突では、高温物質を生み出すエネルギーに達することがないために、熱的光子は発生しない。また、金原子核衝突の場合と異なり、余剰光子成分はほとんど残らず、わずかに残った余剰光子も、反応初期に高エネルギーのクォークとグルーオンが衝突した結果生ずる光子として説明できた。
従って、金原子核衝突で観測した余剰光子は、その大部分が金原子核衝突で作られた高温物質から生じている光子、すなわち熱的光子と考えられる。
こうして求めた、熱的光子の発生量とエネルギー分布を、理論予想と比較することで、反応初期の高温物質の温度を推定しました。その結果、理論計算から求められたクォーク・グルーオン・プラズマへの転移温度である約2兆度をはるかに超える、4兆度程度と推定された。
参考HP Wikipedia「核融合」・Panasonic Kids School「熱の不思議」 ・理化学研究所「重イオン衝突型加速器「RHIC」で4兆度の超高温」
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