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燃料「ゼロ」?究極の惑星間省エネ航法、宇宙帆船「イカロス」

2010年02月28日 | 宇宙
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 宇宙帆船「イカロス」
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、神奈川県相模原市由野台の研究施設で開発され、2010年度に打ち上げ予定されている、世界初の宇宙帆船「イカロス」に搭載する名前やメッセージを募集している。
 
 このキャンペーンの名称は「君も太陽系をヨットに乗って旅しよう!」。イカロスは約14メートル四方の巨大な帆で太陽光の光子と呼ばれる粒のエネルギーを受けて、宇宙空間をヨットのように進むことから命名された。イカロスは、打ち上げから半年後に金星に接近する予定という。
 
 応募者の名前やメッセージ(50字以内)、絵画はDVDに収録され、イカロスに搭載される。応募締め切りは3月14日。応募者のうち、2月28日までに申し込んだ人の名前はアルミプレートに刻まれ、帆の四隅に取り付けられる。

 担当者は「名前やメッセージを大切に預かり、宇宙に届けたい」と応募を呼び掛けている。 申し込みはインターネット(http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_cam/j/index.html)で。 (2010年2月24日 読売新聞)

 どうやらイカロスは金星を探査する宇宙船のようだが、風のない宇宙で「帆船」とはいかなる宇宙船だろうか?

 ソーラーセイルとは何か?
 イカロスは、ソーラーセイルを動力源にもつ宇宙船である。ソーラーセイルは簡単に言うと、太陽の光で推進する宇宙機(宇宙船)のこと。ロケットは自分で搭載している燃料をエンジンの中で高圧の燃焼ガスを大量に作って、それを後方に高速で噴射することによって推進する。これに対し、ソーラーセイルは太陽からの光で押されることによって航行する。

 理由は、光は光子というエネルギー量をもつ粒でできていて、あたかも高いエネルギーをもった原子のようにふるまう。光のビームが鏡のような表面に向けられると、光子はまるで壁からはね返るボールのように反対側にはね返る。この過程で、光子はその運動量の2倍を壁に伝えてはね返る。太陽の光が恒常的に帆にあたることにより、わずかではあるが、その明るく輝く表面の壁が押されて持続的に前進する。

 太陽の光がソーラセイルの表面で反射すると、光子という光の粒のエネルギーが帆への運動量に変換される。これが宇宙空間でソーラーセイルを加速させる「押す力」となる。その加速度はとても小さいが、連続して発生する。化学エンジンを使ったロケットでは、燃料を燃やすことで目的の速度に到達させられるが、燃料消費を抑えるために運転を停止する必要がある。

 他方でソーラーセイルは常時加速を続ける。その結果として、相対的に短い時間で非常に速い速度へと到達させることができる。推進力の方向は帆の太陽に対する角度を変えて制御でき、軌道速度を加速も減速もさせることができる。

 燃料「ゼロ」究極の惑星間航法
 「太陽風」は、太陽から放射されるイオン化された粒(陽子)からなっている。これらの粒の運動は、光の速度よりもずっと遅いため、光による圧力の1パーセントに満たない力にしかならない。だから、ソーラーセイルでは、ほんとうに速く飛ぶために、太陽風ではなく光を使って航行する。

 ソーラーセイルの最大の利点は燃料が不要なこと。ソーラーセイルは時間さえかければ化学ロケットよりもずっと速く飛行させることができる。例えば火星に行くには、ソーラーセイルのはたらきで行き、帰りは太陽の重力で帰るので、燃料の必要がない。

 太陽はとても重い星。地球は1年かけて太陽の周りを回っている。地球は太陽の周りを回る遠心力と、太陽からの重力がちょうど同じなので、同じ場所を回っているのだが、もし、地球がゆっくり回り出したらどうなるだろう?結果、遠心力が弱くなるので太陽に近づいていく...。

 これと同じ仕組みをイカロスは使う。イカロスが地球と同じスピードで地球と同じ軌道を回っているとします。大きな帆を太陽に斜めに向けて、スピードを上げるとどんどん太陽から離れて火星や木星の軌道に近づく。反対にスピードを落とすと太陽に落っこちていこうとして、地球より太陽に近い水星や金星の軌道に近づく。

 太陽系大航海時代の幕開け
 かつて人類は、風の力だけを頼りに帆船を操り、地球の果てまで探検をした「大航海時代」があった。これからは太陽の光と重力を利用し、太陽系をくまなく探検する時代がやってくるのかもしれない。

 イカロスは半年かけて金星に近づくことを計画している。イカロスは金星に向かって飛んでいくが、将来の探査機は木星に行くことを計画している。この探査機の帆の面積はイカロスの帆の約10倍を予定している。

 さらに、イオンエンジンを搭載し、ソーラーセイルと合わせたハイブリッドな推進を実現する。イオンエンジンを運転するには大きな電力が必要となるが、広い帆にたくさんの薄膜太陽電池を貼り付けることでこの電力をまかなう。私たちは、このソーラー電力セイルによって、太陽系大航海時代を先導する。

 太陽の光を受けて進むソーラーセイルのアイデアは実は100年程度前からある。しかし、帆の素材や展開方式など非常に難しく、近年になりやっと実用化の見通しがついてきた。欧米でもソーラーセイルの研究を進めているが、まだ実現できていない。イカロスが成功すれば世界初の快挙になる。

 今までの宇宙船はスピードを調整するのに燃料を必要とした。燃料が無くなれば調整は不可能。(宇宙空間にはガソリンスタンドはない。)小惑星探査機「はやぶさ」は、イオンエンジンという省エネタイプのエンジンを積んでいたが、それでも燃料としてキセノンガスを必要とした。ソーラーセイルは燃料無しでも飛行できるので、省エネというより、0(ゼロ)エネである。

 ポリイミド素材と薄膜太陽電池
 宇宙で使う帆は広ければ広いほど太陽の光から推進力を取り出しやすいのですが、広くても重くなってしまうと探査機がゆっくりとしか動けなくなってしまいます。そこで、薄い膜素材が重要になる。イカロスの帆の膜の厚さは何と7.5マイクロメートル(7.5ミクロン)!家庭用のラップフィルムやコピー用紙は約100マイクロメートルなので、この帆がいかに薄いかが分かる。

 このため、イカロスの帆の広さはバレーボールコートぐらいですが、重量はたったの15キロしかない。

 さらにイカロスの帆はポリイミドという素材でできている。普通のプラスチック素材を宇宙空間に持って行くと、熱や宇宙線の影響ですぐにボロボロになってしまうが、このポリイミドは宇宙空間でも丈夫で長持ちする。イカロスでは接着剤を用いなくても、熱を加えて融着することで貼り合わせられるようポリイミドを改良した。イカロスの帆はこのポリイミド膜にアルミを薄く蒸着して、太陽光をよく反射するようにしている。

 木星と太陽の距離は地球と太陽の距離の5倍で、木星近辺の太陽光は地球近辺の太陽光の25分の1となる。もし、木星近辺で太陽電池のみで電力をまかなおうとすると広大な太陽電池パネルが必要になる。

 これまで欧米では、木星よりも遠い天体に行く探査機には軽量高出力の原子力電池を使っていた。他方で、イカロスでは、帆に膜のような太陽電池を貼り付け、太陽光で電力をまかなう。広い帆にたくさんの太陽電池を貼り付ければ、たとえ木星近辺であっても十分な電力が得られる。 イカロスは太陽の光で進み、太陽の光で発電する、クリーンな探査機の先駆けとなる。

 イカロスの進む方向は帆の傾きによって調整する。 イカロスでは、姿勢制御デバイス(曇りガラスと同じ原理)で帆の傾きを変更する仕組みを取り入れている。帆の表面は真っ直ぐ光を反射します。その反作用で、反射した方向と反対の向きの力を光からもらう。曇りガラスと同じような作用にすると、その部分だけ光が乱反射して光の力が分散してしまう。よって、曇りガラスでない面がより強い力で押されて帆全体の傾きが変化する。曇りガラスと同じ原理の装置は、太陽電池によって発電された電気で働くので、太陽の光のみでイカロスは自由に飛ぶことができる。

 

参考HP JAXA「君も太陽系をヨットに乗って旅しよう 

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