テレコネクション
ようやく暖かくなってきた。今年は北極震動の影響で、思わぬ積雪が全国で見られた。一方、気象庁は向こう3か月はエルニーニョ現象の影響で、日本南海の亜熱帯高気圧が強くなり、南から暖かく湿った空気が入りやすいため、全国的に気温は平年より高くなる見通しだという。
6~8月は、同現象が終息に向かい、日本付近への高気圧の張り出しが弱くなると予想され、北日本では冷夏になる可能性があるという。6~7月の梅雨時期(沖縄・奄美は5~6月)の降水量は北日本で平年より多くなるほかは、ほぼ平年並みの見通し。
北極振動やエルニーニョは北極やペルー沖など、日本から遠く離れた場所で起きたことが、日本の気候に影響を与える現象で「テレコネクション」と呼ばれている。この他にはダイポールモード現象やマッデン・ジュリアン振動などがある。
太平洋十年規模振動を再現
今回、テレコネクションの1つである「太平洋十年規模振動(PDO)」の再現に国立大学法人東京大学気候システム研究センター,独立行政法人海洋研究開発機構,及び独立行政法人国立環境研究所の研究グループが成功した。
太平洋十年規模振動(PDO)とは太平洋各地で海水温や気圧の平均的状態が、10年を単位とした2単位(約20年)周期で変動する現象である。
これにより,近未来(2030年頃まで)の地球温暖化傾向のゆらぎやその地域的な違いに対する予測性能が向上し,「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書に大きく貢献することが期待される。
国立大学法人東京大学気候システム研究センター(センター長 中島映至),独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏),及び独立行政法人国立環境研究所(理事長 大垣眞一郎)の研究グループは,大気海洋結合気候モデルMIROCを用いて10年規模の気候変動を予測するシステムを開発して,スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」上で気候予測実験を行い,環太平洋域における大気・海洋の顕著な変動である「太平洋十年規模振動(PDO)」の再現に成功した。
PDOは,日本の東方海域と,それを取り囲むようなアラスカからカリフォルニア沿岸,赤道太平洋域の海面水温が10~20年規模でシーソーのように変動する現象。その動向を客観的にあらわすPDO時係数は,1977年頃に負から正へ大きく変化したことがよく知られていて,最近では2006年頃に正から負への反転が観測されている。
PDOの物理メカニズムはまだ完全に解明されているわけではないが,海洋大循環(黒潮の強さや位置など)やアリューシャン列島付近の気圧,太平洋域の偏西風の変化を伴い,日本を含む環太平洋域の気温や降水量だけでなく、海洋生態系の変動にも10年規模で強く影響することがわかってきた。
気候予測システム概要
研究グループは,季節予報などに適用されている手法を応用して10年規模の変動を予測するためのシステムを開発した。このシステムでは,データ同化という手法を用いて1945年から予測計算スタート時までの水温と塩分の観測データ(いずれも海面から700m深まで)を気候モデルに教え込み,予測計算のスタート時の大気・海洋の状態(初期値)を決める。
このようにPDOのような内部変動の初期状態を反映させた初期値を使い,地球シミュレータ上で気候変動予測計算を行った。また初期値をわずかに変化させて10通りの予測計算を行い,その平均値を予測結果とみなすこと(アンサンブル予測)によって,結果の信頼性を向上させた。
2005年7月スタートの再現実験では,2006年頃に観測されたPDO時係数の正から負への変化の再現に成功し,2008年までの平均的な結果も観測値とよく一致しました。負のPDO時係数に伴って,日本付近は高温化しているが,赤道太平洋域の広範囲では低温化しているため,結果として地球平均気温は押し下げられる。長期的な地球温暖化傾向は変わらないが,PDOの影響によって2012~13年頃までは地球平均気温の上昇が一時的に緩やかな状況が続く可能性が高いと予想される。
参考 国立環境研究所「太平洋10年規模振動の再現実験成功」
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