放射性物質の発見
1802年、イギリスの化学者ドルトンは「原子説」によって、物質を細かくしていくと原子にまで分解されることを提唱した。当時の科学者の多くは物質に本当にそのような構成単位があるのか大いに疑っていて、一般に理解されるには時間を要した。
1900年、カナダのモントリオールにあるマギル大学で化学の実験助手に就任したフレデリック・ソデイは23歳、共同実験を行ったアーネスト・ラザフォード教授は当時29歳だった。
原子は不変の粒であると考えられていたが、ラザフォードとソディが発見したウランの放射壊変は原子の概念を大きく変えた。ウランは放射線を出しながら、ラジウムへと変わっていったからである。原子は不変の粒子ではなくなった。
放射性物質が発見された当時、何かが出ていることは分かっていたが、誰にもその原因はわからなかった。原子の変化が実際に起きていることを証明するため、ソディとラザフォードは慎重に研究を進める必要があった。
アルファ線の発見
1903年にフレドリック・ソディはウィリアム・ラムゼーとユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで、ラジウムの崩壊が、ヘリウムの正の電荷を持つアルファ粒子を生成していることを明らかにした。
実験ではラジウムの試料は中空のガラス球内に設置されたガラス容器に封入された。アルファ粒子は薄いガラスの壁を通り抜けることができたが、その周囲のガラス容器の中にとどまった。
長い時間をかけた実験ののち、ガラス球の内容物をスペクトル解析した結果、ヘリウムの存在が明らかになった。
1908年、アーネスト・ラザフォードは、α線をガラス管に集め、放電スペクトルを調べることでα線がヘリウム原子核であることを発見。この年ラザフォードは、「元素の崩壊および放射性物質の性質に関する研究」によりノーベル化学賞を受賞している。
原子核の発見
1911年、ラザフォードの助手であったハンス・ガイガーと学生だったアーネスト・マースデンは、金のうすい箔にアルファ線(正の電荷をもったヘリウムの原子核)をあてる実験を行った(ガイガー=マースデンの実験)。その結果、アルファ線の大部分は金箔を透過するが、一部が大きな角度で散乱される現象を見いだした。ラザフォード散乱の発見である。
原子は不変・最小の粒ではなく、中心に原子核とよばれる存在が確認された瞬間であった。これ以後、原子核は陽子・中性子からできていることや、核力で結びつけられていること、陽子・中性子はさらに3つのクオークでできていることが解明されていく。
ソディの射性崩壊・同位体
1904年から1914年までフレデリック・ソディはグラスゴー大学で講師を務め、この間にウランがラジウムへと崩壊することを示した。ソディはまた、放射性元素が化学的性質が同一にもかかわらず複数の原子量を持つ可能性を示した。ソディはこの概念を、「同じ場所」を意味する「アイソトープ」と名付けた。
ソディはアルファ崩壊では原子番号が2つ小さい方へ、ベータ崩壊では1つ大きい方へと原子が遷移することを示した。これは放射性元素群の関係を理解する上で基礎となるステップだった。
1914年にソディはアバディーン大学の教授に任命され、第一次世界大戦に関連した研究をおこなった。1919年に化学の教授としてオックスフォード大学に移り、1936年に退職するまで務めた。
1921年に放射性崩壊の研究と同位体元素理論の公式化への貢献により、ノーベル化学賞を受賞した。
フレデリック・ソディとは?
フレドリック・ソディ(Frederick Soddy, 1877年~1956年)はイギリスの化学者である。放射性元素の研究で、アルファ崩壊・ベータ崩壊などを見出した。1921年に原子核崩壊の研究、同位体の理論に関してノーベル化学賞を受賞した。また、後には経済学に関する研究もおこなっている。
アルファ崩壊とは?
アルファ崩壊(Alpha decay)は、アルファ壊変ともいい、原子核の放射壊変の一種。
ある原子核がアルファ粒子(陽子2つ、中性子2つの、ヘリウム原子核)を放出し、原子番号と中性子数が2減る(すなわち、質量数が4減る)ことをいう。
アルファ粒子はヘリウムの原子核でもあり、質量数や中性子数の減少はヘリウム原子核分と等しい。アルファ崩壊は一つの原子が二つの原子へと分かれる核分裂反応ととらえることもできる。
なお、崩壊の際にアルファ粒子は原子核内で働く核力(強い力)を振り切り、上回るだけのエネルギーを持つわけではない。アルファ崩壊はトンネル効果によりアルファ粒子がエネルギーの壁を通り抜け、原子核から飛び出すことにより起きている。
原子核外へは強い力が及ばず、さらに原子核とアルファ粒子の間には電磁気力による斥力が働いているため、一度外へ出たアルファ粒子はそのまま原子の外へ高速で飛び出すことになる。
ベータ崩壊とは?
ベータ崩壊(beta decay)は、弱い相互作用によって起きる放射性壊変の一群を意味する。この中にはベータ粒子と反電子ニュートリノを放出するβ−崩壊(陰電子崩壊)、陽電子と電子ニュートリノを放出するβ+崩壊(陽電子崩壊)、軌道電子を原子核に取り込み電子ニュートリノを放出する電子捕獲、二重ベータ崩壊、二重電子捕獲 (double electron capture) が含まれる。
いずれのモードで崩壊しても、質量数は変化しない。つまり、ベータ崩壊は同重体を推移する現象である。
同位体とは?
同位体(isotope、アイソトープ)とは、同じ原子番号を持つ元素の原子において、原子核の中性子(つまりその原子の質量数)が異なる核種の関係、あるいは核種である。
同位体には放射能を持つ放射性同位体 (Radioisotope) と持たない安定同位体 (Stable Isotope) の2種類が存在する。同位体、すなわち放射性物質、と短絡的なイメージが持たれる場合もあるが、これは誤りである。放射性同位体は時間とともに電子・陽子・中性子を放出して原子番号が変わってゆく(放射性崩壊)が、安定同位体は自然界で一定の割合をもって安定に存在している。
参考HP Wikipeia「フレデリック・ソディ」「アーネスト・ラザフォード」「アルファ崩壊」「ベータ崩壊」「同位体」
アーネスト・ラザフォード―原子の宇宙の核心へ (オックスフォード 科学の肖像) J.L. ハイルブロン 大月書店 このアイテムの詳細を見る |
同位体地球化学の基礎 J. ヘフス シュプリンガージャパン このアイテムの詳細を見る |