Yes,We Love Science!

自然科学大好き!「自然」は地球、宇宙、人、社会、宗教...あらゆるものを含みます.さあ、あらゆる不思議を探検しよう!

「ハート・ロッカー」に見る爆風の恐怖「外傷性脳損傷(TBI)」とは?

2010年04月28日 | 環境問題
科学大好き!アイラブサイエンス!最近気になる科学情報を、くわしく調べやさしく解説!毎日5分!読むだけで、みるみる科学がわかる!
 映画で注目の「防護服」 
 映画「ハート・ロッカー」は今年、第82回のアカデミー賞で作品、監督賞など6部門受賞に輝いた素晴らしい映画だ。

 斬新な3D映像を武器に、北米で最高の20億ドル(約1800億円)を稼ぎ、日本国内でも約130億円の興行収入を突破。最大の前哨戦といわれる米ゴールデン・グローブ賞でも作品賞、監督賞を獲得していた「アバター」を抑えて圧倒的な支持を得た。

 この映画で、爆発物処理に当たる主役の米兵が身にまとう分厚い防護服は、日本など世界120カ国の警察や軍隊が使う本物だ。世界の注目を集める最新鋭の装備。「映画で有名になったが、良いことばかりじゃない」。防護服を開発したカナダ企業「アレン・バンガード」(本社・オタワ市)のアリス・マクリス副社長(開発研究担当、工学博士)が苦笑する。

 映画の舞台は2004年当時のイラク。防護服を着た米兵が武装勢力の仕掛けた手製爆弾(IED=即席爆破装置)を次々処理していく。敵の気配、今にも爆発しそうな爆弾。極限の緊張状態の中での作業を通して、戦争の狂気を描き出す。

 同社が、この防護服を開発したのは2004年だった。2003年開戦のイラク戦争では、武装勢力による爆弾攻撃で多数の米兵が死傷。金属片などから保護するだけでなく、爆風の衝撃を和らげ、戦場で長時間着用できることが求められた。

 カギを握るのは材質だ。業界シェア85%を誇る人気商品の素材は「企業秘密」。マクリス氏は「衝撃を吸収する柔らかい素材と、金属片や銃弾から体を守る硬い素材を複合的に使用しているのが特徴」と話す。

 重さは約30キロ。記者も米軍基地で試着したことがある。砂袋を巻きつけたような感じだが、意外に柔らかく小回りがきく。腕に装着された大型のリモコンで、ヘルメット内に外気を入れたり、冷却機能で温度を下げることもできる。価格は非公表。映画には依頼を受けて貸与した。

 重量防弾服とTBI
 米兵を守る装備が開発されると、その弱点をつくような攻撃が始まり、新たな負傷が生じる。戦場では、そんな皮肉な連鎖が続く。

 イラクやアフガニスタンでの戦争では、米軍の頑丈な装甲車に対し、武装勢力が強力な爆弾を開発。その仕掛け爆弾の爆発から生じる超音速の衝撃波(圧力変化の波)で、脳内組織が破壊される「外傷性脳損傷(TBI)」の米兵が多く出た。目に見える傷はないが、頭痛やめまい、集中力の低下などの症状を訴える。

 同社は爆風が人体にもたらす影響を20年以上、研究してきた。「昔なら死亡していた衝撃でも、最新鋭の装備で生き残るため繰り返し爆風を浴び、TBIを発症する兵士が増えた」とマクリス氏は語る。同社の防護服とヘルメットを使うとTBIを防ぐ可能性が高い。

 TBI発症の詳しい仕組みは分かっておらず、同社は「衝撃の加速度や圧力を計測してデータを蓄積する」センサーも開発。米軍はヘルメットに付けるこのセンサーを2007年から戦場の兵士に配備した。「テロとの戦い」で繰り広げられる最新鋭の装備開発。一方でTBIとの戦いが続いている。(毎日新聞 2010年4月24日) 

 重量防弾服が症状を悪化?
 イラクやアフガニスタンで手製爆弾(IED:即席爆発装置)攻撃を受けた米兵2万人以上が爆風による外傷性脳損傷(TBI)と診断されている問題で、米国防総省などが1999年から研究者に爆風と脳損傷の関係について調査・対策の必要性を指摘されながら長年放置していたことが、毎日新聞の調査で分かった。

 重い防護服が症状を悪化させる危険性も指摘されたが、同省は2007年になってようやく対策を本格化させた。一連の対応の遅れが事態を悪化させた疑いが浮上している。国防総省は、爆弾による負傷は飛来物などによる直接的な衝撃で起きると考え、重厚なヘルメットや防弾服を積極的に導入した。しかしイラク戦争では、外傷がないのに爆風だけで脳損傷を起こす米兵が続出。米国防総省は2007年以降、戦地に向かう米兵の脳機能を事前に検査するなど対策に乗り出した。

 ミネソタ大のデビッド・トルードー准教授は退役軍人省軍医だった1998年、湾岸戦争(1991年)帰還兵らを対象に脳波の調査を実施。爆風をあびた帰還兵が車の事故で脳損傷を負った患者らと同様の兆候を示すことに気づいた。同年医学論文で発表、翌1999年から2年間にわたり複数回、同省に拡大調査の予算措置を求めたが、認められなかったという。論文は最近、「爆風と脳損傷の関係を最初に指摘した」として医学雑誌などに再掲されている。

 また、ジョンズ・ホプキンス大のイボラ・セルナック医師も2001年から2005年にかけて、米国防総省に対し繰り返し、爆風と脳損傷の関係調査の必要性を訴える提案書を送った。しかし「優先順位が高くない問題」と拒否された。セルナック医師は1990年代の旧ユーゴ紛争で、多数の兵士が爆風にあおられ記憶障害などを起こす症例を調査。1999年に論文で発表している。

 セルナック医師は重くて硬い防弾服が、爆風が兵士に与える圧力を増幅させることも指摘。国防総省は2008年、防弾服を見直し、「(爆風による)衝撃波を消散させるのに効果的」(予算請求書)なセラミック素材の軽量防弾服の研究を始めた。

 「放置」批判に対し、米陸軍病院脳損傷センターのジャッフェ代表は「2003年から兵士の脳検査を研究するなど、早期に取り組んできた」と説明している。(毎日新聞 2009年2月21日)

 TBIはなぜ起きる?
 重量装備は兵士を守るものと思われたが、逆に爆風を正面から受ける。その結果、装備の下の脳には深刻なダメージを受けるとは驚きだ。ところで、TBIとは何だろう?

 TBIとは、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)のことで、頭部に物理的な衝撃が加わり起こる脳損傷。略称TBI。軽度のものは軽度外傷性脳損傷(MTBI)と区別することもある。

 脳の一部が局所的にダメージを受ける脳挫傷とは異なり、脳の軸索が広範囲に損傷を受けるもの。軽度から中程度の損傷においては、早期回復が期待されるが、高次脳機能障害に至った場合、記憶力、注意力の低下や人格形成やコミュニケーション能力に問題が生じるほか、四股の麻痺が生じることもある。外見上、健常人と何ら変化は無いが、社会適応性が損なわれるため、通常の生活が送れずに苦しむ患者は多い。

 爆風のダメージは想像以上
 人体に起きる気圧のダメージを考えてみよう。例えば、私たちは高い山に登ると気圧の変化で、耳が痛くなることがある。痛みを取り除くためには、つばを飲み込んだり、あくびをしたりする。

 これは水中に潜るときにも起きる。私たちはわずか5m潜るだけで、すぐに耳が痛くなる。そのまま潜ると鼓膜が破れてしまうので「耳抜き」という作業を行う。これは外の水圧で鼓膜が押されて痛くなるのを、内側から息を送り痛みを取り除く作業だ。

 毎日の天気の変化もそうである。低気圧が近づくと気温が変化し、風が吹き、雨が降る。この時の気圧の変化は100hPa(0.1気圧)程度。わずかの気圧の変化でも、私たちの体は悲鳴を上げてしまう。

 爆風による人体への影響を考えてみよう。人体が爆風に暴露した場合、まず最初に負傷するのが耳と眼である。 次に損傷を受けるのは表皮と肺である。表皮は厚手の服などで守られていれば軽症で済むが、呼吸器から出血すると大事に到る場合がある 。

 ふだんの気圧を1気圧とすると、人体にわずか2気圧の爆風を受けるだけで、鼓膜破裂、眼底出血を起こす。4気圧で眼球破裂、内臓破裂、皮膚に裂傷を引き起こし重傷。それ以上は死の世界で、人体が12.0kgf/cm²(kgfとはkg重のこと12気圧に相当)以上の爆風に晒されると、肉が剥がれ、人間としての原形を留めなくなってくる。広島に落ちた原子爆弾では何と、爆風は数十万気圧にもなるという。(Wikipedia)
 
 条文の平和より現実の平和
 「ハート・ロッカー」とは極限状態とか棺桶という意味。米国の若い兵士達はこうした極限状況で、祖国のため命をかけて戦っている。米国は圧倒的な軍事科学技術の優位性を確立しているので、現在は徴兵制は停止中である。しかし、正義を掲げて勇敢に戦う国民性がある。

 米国ほどめだたないが、お隣の韓国では、男性に18歳から約2年の徴兵期間がある。永世中立国のスイスの男性にも260日間の兵役義務がある。世界のほとんどの国が、国を守るために徴兵制があり軍隊がある。英国は現在、徴兵制をとっていない。しかし、有事の際にはすぐに徴兵制を採用する。第二次大戦当時、女性まで徴兵した唯一の国だ。

 それに比べ日本はどうだろう?NHKの「龍馬伝」で坂本龍馬は黒船を見て、世界に対抗するために日本にも黒船が必要だと考えた。現実的な平和を得るためには、戦争はしなくても、軍備が必要だと訴えていたのだ。そして勝海舟の海臨丸を見て、日本にも黒船があることに驚き、すぐに勝の弟子になる。

 こうして黒船の技術力を目の当たりにした志士たちは、鎖国による平和を否定し、明治維新による軍備による現実の平和を選ぶ。日本を欧米の植民地にさせないために、彼らは必死だったことが分かる。明治維新の志士たちが現代日本を見たらどう思うだろうか?

 「いったいいつからこの国は、国を憂い、強くなろうとする気概をなくしてしまったのだ?」ときっと思うことだろう。戦後65年たってもいまだに、憲法を改正できず、自分の国を自分で守ったことのない国民を大量につくり続ける日本。今後、誰がこの国を守るのであろうか?

 

2001年・日本の軍事力―「有事」の際、本当はどこまで守れるのか
桃井 真
祥伝社

このアイテムの詳細を見る
ハート・ロッカー [DVD]



このアイテムの詳細を見る

ブログランキング・にほんブログ村へ ランキング ←One Click please