中村文則の作品に共通する、心の暗い部分に埋まりそうなテーマに共感しながら、どこか反社会的な生き方をする登場人物たちにやりきれなさも感じる。
だが作品はストーリーの流れに乱れが無く、減速する箇所もなく、文字を追うことについては抵抗が無かった。
少年から青年にかけての性衝動に付きまとわれた生活は、全て小学生時代に偶然見た、知的障碍者の女がホームレスたちに犯されていたことに始まる。
その風景が、ホームレスたちとの共犯じみた原風景になって脳裏の底に沈んでいて、常に顔を出す。
友達だった二人の少年が同じ事件をわずか違った視覚から見、その違いが 二人が別の人生に分かれてしまったあとの生き方になる。
しかし二人の成長とともに原風景は広がり、それに捉えられてしまった後では、頭にこびりついたような性というものに人格を覆い尽くされ、支配されていく。
人の暗部を少年の性を語ることで、暗い闇を背負った二人の男が如何に生き、それを受け入れ抗い、どこにたどり着いたか。
人の原罪に迫る悩みを、生活全体に塗り広げ、作者は解決することを登場人物に任せた、そんな救いようのない作品だった。
分かれた後、闇に流され立ち直ろうともがいていることをお互いに知らなかった二人が、偶然出会い、過去を見つめ返す、しかしやはり、自分を救うのは自分でしかなく、深みに流されていった一人。
助けの要る女を伴侶にして、生き続けようとする一人の、漆黒の中に薄闇が見えてくるような生き方にわずかな救いが見える。
若い中村文則の描き出す暗い人生シリーズの中で、心に残る一冊だった。