
いい作品だった。
本屋大賞に少し偏見を持っていたが、読者賞も合わせて受賞しているとのこと。これから迷ったときは本屋大賞にしようかな。
高校時代に聞いた音に魅せられてピアノの調律師になった男の子、成長してからの話もあるから青年の話。
うちでも娘が嫁に行くまでピアノを習っていたので調律してもらうことがあった。息子のバイオリンは途中で止めてしまったが、生徒のコンサートの前は、ずらっと並べられたヴァイオリンを何人かの先生で調律していた。この時、親まで緊張するがいいろんな音が交じり合った雰囲気はとても好きだった。
コンサートホールの演奏会で指揮者を待つ間に団員の方が持っている楽器を鳴らしてみている、それぞれの音が混じってこれから始まるのがなぁと期待でわくわくする。
音の世界でも受ける人によって見たり感じたりするところは違うだろうが、この主人公の外村君は初めて体育館で大きなグランドピアノが蓋(彼は翼に見えた)を広げ、調律師がポンとならした音が、育った森の音に聞こえた。深い夜の音、梢を渡る風の音、木のざわめき葉づれ、踏んでいく積もった枯葉の音。彼は調教が終わるまで二時間我を忘れて聞き入ってしまった。
貧しい山のふもとの家で育ち裏の深い山の音を聞いて育った、そんな記憶が音になって聞こえた。彼は決心して調律の専門学校を出て楽器店に就職する。
名人というような技で調律をする板鳥の補助を始める。同僚には個性的な面々がいて、それぞれ自分の術を持っている。理解できなかった先輩の技術が分かり始める。
ピアニストの音が清涼に美しく聞こえるよう。ピアノが持っている音がよりよく響くよう調教したいと思う。
それぞれ作られた時代もおかれた条件も違う。
羊の毛をフェルト状にしたハンマーや鋼の弦の張り具合。どうしたら奏者も聴衆も望む音が出るのか。
どうすればタッチにあうようペダルや鍵盤が整えられるのか。
演奏する側の話は時々目にするが、調律の技術者が彼らの望む音に対する情熱は、常に裏方のもので、調律の前とあとをピアニスト以外は比べることは出来ない。音を作り演奏すると言う行為や、音の響きを聞き分けて感じる奥深い世界がとても多彩で優しい言葉を使って綴られている。
古い古いピアノをよみがえらすところ。大きなコンサートホールの名演奏家が弾くピアノ演奏の前に調律し、本番はジット耳を澄ませる調律師という仕事が少し理解できた。
調律師は呼ばれてなくては行くことが出来ないが、たまたま関わった双子とのエピソードが面白い。
でも、いわしてもらえば、この当たりから次第に感傷的な記述が増えてはいないだろうか。いい話で感動的だが、著者が感傷的過ぎるとすこし重く感じてしまう。
でも、でもはじめて読んだ宮下さんという作家が好きになった、これまでにかかれた評判のいい作品を読んでみたい。嬉しい人を見つけた。