矛盾したような意味深長な題名で、題名の謎解きも含めて面白かった。
つい名作の「弁護側の証人」を思い浮かべた。
司法修習生の研修会場で最上は検事の卵たちの指導教官だった。そこで沖野という修習生が、検事になる決意を最上に告げる。未来に希望を持ち瞳を輝かした若者だった。
5年間の地方勤務から東京地検に異動して、その後一年を経て刑事部に配属される。そこの上司が最上だった。
「法という剣を究めて世の中の悪を一刀両断にする・・・」彼は最上のはなむけの言葉を繰り返し、なお、法律は叡智の結晶でもその剣は生かすものの力量に匹敵するではないかと言う。
だが最上はそれを肯定する姿勢を見せなかった。
その時点で、凶悪犯罪の公訴の時効は10年から25年に改正されていた。
「俺は少なくとも、凶悪犯罪に時効はいらないと思っている。
「時効が存在する理由は法解釈でいろいろ挙げられたりしているが、結局そんなものはただの慰みだ。個々の事件で判断すればいいことであって、一律に線引きする理由にはならない。人間の能力として犯罪者を捕まえられないと言うのなら、それは仕方がない、しかし、法律が限界を区切るのは法律の負けだ」
「時効が撤廃されたとしても、それまでに時効が成立した事件は、やはりそのままということになるだろう。俺はいいとき人を殺したとほくそ笑むわけだ。
自分が手にした剣も万能ではない・・・そういいたくもなるってもんだ。
飲み屋でするような話をしてしまったと最上は思ったが、沖野は畏まって聞きいり、話の通じるやつだと言われ嬉しそうだった。
鎌田で老夫婦二人の刺殺事件が起きた。夫の趣味だった競馬仲間に小額の金を貸していたが、現場からは、犯人の決め手になるような証拠は見つからなかった。
借用書は残っていたが、抜かれている可能性もある。とりあえず出入りしていた競馬仲間を調べることになる。そこで最上は、昔殺人事件の容疑者になった松倉という名前を見つける。かっての事件で彼は少女殺しの重要容疑者と見られていたが、最後まで罪を否認して迷宮入りになり、時効が成立していた。
過去の松倉の事件というのは、会社の寮を管理していた夫婦の六年生の一人娘が、犯されその数日後に管理人の留守を狙って、また犯されて殺されていた。北海道つながりで最上は学生時代この寮に下宿していた。
余った部屋には会社員や現場作業員などが住んでいた。
最上達は司法試験を目指し勉強中だった。仲間は4人いたが、現在は弁護士、政治家、記者、などと道が分かれている。
政治家になった仲間は、義父の罪をかぶって自殺した。彼は重要な位置にある義父の生き方を清濁あわせて信頼し、将来の政治に必要な人物だと最上にいった。そして自分が盾になって死んでいった。
最上は、自分の検事という仕事を考えることになる。
松倉は別件で逮捕し、事件について取調べを始める。
沖野は最上からまかされて、松浦を取り調べるが、決定的な証拠がなく、松倉は否認し続ける。
かって起こした事件はすらすらと認めた。時効が成立してしまっている事件で、認めるのは簡単だった。
沖野の尋問は苛烈を極め、口汚くののしり、ついには逆上した様子までも見せて追い詰めていく。法という基準がなければ、彼のこういった取調べは、一人になって振り返ると、逆に自己崩壊を招きかねない心理状態を自覚するほどだった。
しかし、最上は、決して松倉の否認を認めず、取調べの手も緩めなかった。
沖野は、追い詰める側の究極の苦しみを知る。そして、ここまで確信を持って責めろと言う最上に何か割り切れないものを感じ始める。
決め手の証拠と容疑者の自白を求め、捜査官と検察官が粘り続けるうち、居酒屋でやはり容疑者として浮かんでいた弓岡という競馬仲間が、事件に触れて話していたと言うニュースが入る。
そして、弓岡に接触してみると、今までの矛盾点が明らかになるような話をする。
松倉に固執する最上は、一つの解決法を思いつく。
面白かった。最上について書きたいこともあるが、流れに沿って終章まで行くのが、読書の楽しみかもしれない。
沖野は辞職し、迷った末弁護士登録をする。
「正義」と言う言葉が何度か出てくる。法の正義の刃は使う人の正義によっては切れ味も違ってくると考える沖野の正義は、人権派という看板によりかかった弁護士とも相容れないところにあって、読者に明るい未来を見せてくれる。
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