
9月、大型の台風が関東地方を吹き荒れていた。
渦巻く風だけでなく、風がやんでも小さな雨粒が地表を覆い部屋のなかまで湿ってしまったような、一歩外に出ると体中が濡れそぼるような日だった。
そんな、まるで一面に立ち込めた霧に覆われたような不幸の中で暮らしている、二組の兄弟がいた。
兄の辰也と圭介。もう一組は兄の蓮と妹の楓。
それぞれは不幸なだけでなく、大型の低気圧とともにやって来た、不運・悲運に襲われる。
蓮と楓は二人を連れて再婚した母と、継父という家庭だったが、母が突然交通事故で死に、血のつながらない継父は、中学生の楓に不審な様子を見せる。蓮は昼間は留守勝ちの父を疑っていた。
辰也と圭介は幸せだった海水浴で、心臓病の母が突然死に、父もしばらくしてすい臓がんで死んだ。
こうした環境が偶然二組を結びつける。
蓮のバイト先の酒屋で、辰也と圭介は万引きをする。雨はひどく吹き付けていたし、蓮は見逃すことにする。
蓮がアパートに帰ると父が死んでいた。楓が殺したという。床下収納庫を上げて地面に死体を寝かせ、凶器になった魔法瓶とともに隠した。
夜、父が乗っていた車で、秩父の山に穴を掘って埋めた。
雨は容赦なく降り続いていた。
中学で楓と顔見知りの辰也は、蓮のアパートに行き偶然二人が何か重いものを車に乗せるのを見た。
その荷物から風でスカーフが飛んできたが、それは真っ赤な色に染まっていた。彼はそれをポケットに入れた。
渦を巻いて窓に吹き付ける雨は、小学生の圭介には、禍々しく暴れる竜神の姿に見えた。
蓮のアルバイト先のオーナーがビルを建てかけで放置してあった。
そこで、吹き付ける暴風雨になって竜神が暴れ、二組の兄弟はいわれない悲運を招いてしまう。
あらすじはそういう話だが、竜神の雨というには竜神の造形が生きてない。
幻夢のようにわずかにそれと思わせるように現れはするが、全ては竜神が象徴するようなものではなく、遭遇した台風の日に起きてしまった不幸な出来事だということ。
「向日葵の咲かない夏」でも少しつめの甘さが気になった。
人生が始まったばかりの若者(子ども)たちが引き起こさなくてはならなかった事件、悲しみとともに胸が詰まる。
思いがけない結末は納得、やはり次の作品も読んでみたくなる。
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