
京都に近い楠葉村は、今は枚方市樟葉という名前になっているが、我が家からごく近い町で、今は駅前も開発され、モールも高層マンションも出来た。
子供のころ一度来たことがある。その頃は単線電車が走っていて、無人駅で淋しいところだった。
馴染みの名前を見たので予約してみたら、すぐに連絡があった。
帯には
密命を受け、京に潜入した、女隠密!
武家対公家、静かな闘いの幕が開く---
女隠密利津の運命は?
これは面白そうだ
* * *
楠葉村の郷士、中井家の長男清太夫は秀才で、江戸の要職についていた。
帝のおわす京の公家から上がってくる費用が、幕府の財政を圧迫していた。
不正出費の内情を探る隠密御用という内々の役目で京に来た清太夫は、妹の利津を、御取次衆高屋康昆に嫁がせ、高島家にあるという裏帳簿を見つけることを命じる。
婚礼の日、康昆の息子の腹痛を助けて、高島家の信頼を得た。
京では三人が次々に惨殺されると言う事件も起きていた。
こんな中、期限は「楠の実が熟すまで」、、、秋には調べをつけなくてはならない。利津はそれまでに、無事に高島家にあると言う帳簿を見つけられるのだろうか。
楠の花が咲き、青い実がなり、少しずつ熟し始める。
期限が迫るころ、夫はなにかを悩み利津も苦しむ。
* * *
面白い設定で、登場人物もわかりやすい。 高島家には、開かずの間のような秘密の部屋がある、それが謎めいている。
子供もなつき、夫は思ったような公家のうりざね顔ではなく男らしい利津好みの男だった。
途中で、この夫婦のラブストーリーを盛り上げる舞台装置なのかと思った。
入り組んだ金の流れも案外あっさりとしているし、高島家の謎めいた、妖しい蔵の中にも入ることが出来る。
座敷牢のような離れも台風の日に、弟がいるというのがわかる。
利津の、役目と夫への愛情の板ばさみ、ということもあるが、隠密というには、彼女は育ちがよく、
案外周りの情に流されていく。利津の行動には多少緊迫感が薄い。
淀川べりには今も大楠が旧街道沿いに生えている。村の名前のように楠が多かったのだろう。
土師氏も住んでいて、土器が見つかることも多く、今でも楠葉では建物の基礎工事の時に茶碗のかけらが出て、史跡調査のために工事を長く中断することがある。
身近な土地で、昔の風景もすぐに思い浮かぶような話が、読みやすくより身近に感じられた。
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