Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

愚か、を前提に。~2023映画回顧(2)~

2023-12-03 00:10:00 | コラム
2023年回顧特集、映画篇の第二夜。

今宵は、新作映画ベスト15の10位~6位を展開。

ではいくぜ!!

第10位 月

作家志望の陽子や絵の好きな「さとくん」。
洋子は、そんな同僚とともに森の奥深くに建つ重度障害者施設で働いている。

しかし穏やかな日常、、、とはいえない現実がそこにはあった。
他の職員たちによる入所者への暴力は珍しいことではなく……相模原障害者施設殺傷事件をモチーフにした辺見庸の同名小説を石井裕也が映画化、
そこに居なければ見えないことがある、いや、そこに居たとしても「見たくないもの」は「見えないことにしている」ことだってあるだろう、きちんと目を向けていたのは、結局は「さとくん」だけだったのかもしれない―という皮肉。

「さとくん」役の磯村勇斗が際立って素晴らしい、
石井裕也の覚悟も相当なもので役目を果たしているとは思うが、唯一スプリットスクリーンなどのテクニカルな演出は主題にあっていない気がした。



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第09位 ウーマン・トーキング



キリスト教一派のコミュニティで起こった複数のレイプ事件、それまで被害者の女たちは男たちに「悪魔の仕業」と信じ込まされてきたが、実際はそうではないことに気づく。
女たちは①このまま男たちに支配されつづけていくのか②戦うのか③逃げるのかの選択を迫られることになり…。

2000年代にボリビアで実際に発生した事件を下敷きにした、サラ・ポーリー(オスカー脚色賞受賞)監督作。
三つの選択肢を絵で説明する―読み書きの機会さえ奪われた女性たちの境遇を、このショットだけで表現しているところが映画的で素晴らしい。

「me too」以降の作品として記憶されるだろうが、
ただ「敵を撃つ」だけでなく書記役として唯一の男「オーガスト」を配置し、未来を託しているところに胸を打たれた。

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第08位 ほかげ



終戦直後の、とある闇市―。
焼け残った居酒屋に住む女は身体を売ることで生き延びていたが、そこに、ある男の子が食べ物を盗みに入り…。

塚本晋也が「キナ臭くなってきた世の中を憂いて」創った反戦映画。

乗りに乗っている趣里が熱演、塚本監督は相変わらず女優を美しく撮ることに長けているし、
どんな物語を紡ごうが「生まれながらのインディーズ精神」を貫いているのが格好いい。

95分とコンパクトにまとめあげ、
派手な戦闘シーンや爆破がなくとも戦争の悲惨さは描けることを力強く証明、スコセッシと塚本の新作を拝めた2023年は映画小僧にとって至福の年であり、はっきりいって来年はなにもなくとも生きていける!

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第07位 君たちはどう生きるか

タイトルとポスター1枚のみが発表されただけ、一切のプロモーションを展開せずに公開された宮崎爺の最新アニメーション、、、ゆえに本稿でもあらすじに関しては触れないが、これが出来るのもジブリブランドあってこそでしょう、その確信を有している時点で鈴木P×宮崎爺、そして日テレと東宝の勝利ですよきっちり興行記録も残しているし!

はっきりいってタイトルに「引き」がある映画ではない、むしろ「説教臭が…」と嫌悪感を抱く向きもあるはず、
しかし『風立ちぬ』同様、タイトルは「借りた」に過ぎず、ほとんど無関係。
爺の自伝的要素が濃いとされているが、それも眉唾かもしれない。

プロモーションをしない代わりに、そういったアレヤコレヤの情報を憶測として流しっぱなしにすることも戦略のひとつだったのではないか、
それはともかく、アニメーションだけが許される豊饒なイマジネーションの洪水に浴びる快感は相当なもので、『崖の上のポニョ』で感じてしまった「巨匠の衰え」がまるで嘘のようだった。

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第06位 ベネデッタ

17世紀、イタリア・ぺシアの町はペストの恐怖に怯えていた。
6歳で出家しテアティノ修道院で祈りをつづけるベネデッタは、夢か現実か、イエス・キリストと会話が出来るようになり、やがて聖痕を受け周囲に崇められ修道院長に就任されるが…。

レズビアン主義で告発され処刑の「寸前」までいったという実在した修道女、ベネデッタ・カルリーニの半生を鬼才ポール・バーホーベンが「いつもの調子」で描く快作。

情緒もヘッタクレもない、そんなものは受け手が勝手に想像してくれといわんばかりに物語はサクサクと進み、そのエピソードがいちいち面白い。
そのクセして、レズビアン描写のくだりになると「じっくり」「ねっとり」「あけすけ」に描く。

みんなが見たいのはコレだろ?
バーホーベン85歳、なんとも清々しい映画界きっての知性的な野蛮人だ。



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明日のコラムは・・・

『愚か、を前提に。~2023映画回顧(3)~』
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