僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 景色

2009年03月02日 | ケータイ小説「パトスと…」
辰雄はラッシュの電車が嫌いではなかった。

ひとつ前か後の電車は乗り入れ路線が異なる為もう少し空いている。折りたたんだ新聞が読めるほどだ。
会社にはどの電車に乗っても行けるので何回かそうしてみたが、押され方に物足りなさを感じていつも戦いのようなこの電車を選んだ。


窓にはごみごみとした住宅の裏側やビルの配管、レールのサビで赤茶けた砕石が切れ目なく流れていくのだが、そんな景色の中にも季節は巡ってくる。

風が運んだか土いじりの好きな年寄りが柵越しに植えたのか、可憐な花がまとまって咲いていたり、砕石の間からたくましく芽を出した雑草に地味な花が懸命に咲いていたりするのが見えたりした。

一度気がつくと楽しみになるもので、毎朝その場所が近づく度に見逃さないようにとかなり前から前方に注意を集中させるのだった。


ロン毛のお兄さんのイヤホンから漏れてくるシャカシャカ音や、強烈に匂ってくる動物系のフレグランスの発生源などに気を取られて気付くのが遅れ一瞬の差で見逃した日などは、残念なだけでなくその花に朝の挨拶ができなくて申し訳ないような気持ちになった。









コメント
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