僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 紫陽花の予感

2009年03月19日 | ケータイ小説「パトスと…」
手のひらを広げてキーケースを見せた。

ハッとした表情でバッグとポケットを確認し、すぐに困ったような表情になった。

「すみません」
「ドアのすぐ外に落ちてました」
「ありがとうございます」

聞き取れないくらい小さな声だった。

「いいえ、じゃ」

そう言い残し辰雄にしては早足でその場を離れた。

ずいぶん歩いてから、改札口が見えなくなる曲がり角で我慢できなくなり振り向いてみた。
彼女はどこにも見つからなかった。


ゆっくりした歩調に戻り少し悔やんだ。もう一言何か話してみてもよかったんじゃないか、ひょっとしたらこれをきっかけにお友達になれたかも知れないのに。

そんな小説みたいなことがあるはずないと分かっていてもちょっと空想の世界で遊びたかったのだ。
仲良くなった時を想像しながら歩いた。

フラワーショップの店員が開店の準備をしていた。
鉢植えを店先に並べ打ち水をしてひときわ明るい春の幸せを演出している。温室から運び出されたのであろう初物の紫陽花がたくさん並べられていた。
小さな鉢に不釣り合いなほど大きく、水色、桃色、淡いパステルカラーに咲いた花たち。1280円。

紫陽花かぁ、
そう思った時辰雄の足が止まった。


さっきの人、留美子に似ている。












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