僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 落とした物

2009年03月16日 | ケータイ小説「パトスと…」
新しい物だ。使い始めてまだ数日かも知れない。

拾い上げてみると思ったよりずっと重量がある。ムクの銀でデザインされたくつわが重厚に光るエルメスのブランドに見覚えがあった。
昨日隣り合わせに立っていたショートカットの女性が手に持っていた物だ。

その人はオ・パフメの優しいフレグランスに包まれて目を閉じていた。
じろじろ見ては失礼かと思ったが、耳にピアスの穴が3つもあったこともあって良く覚えている。


すぐに持ち主を探した。

今落としたのならそんなに離れていないだろう。
辰雄は改札口に急ぐ。
かき分けた何人かに迷惑そうな顔をされたが、エスカレーターの中程に後ろ姿を見つけることができた。
歩き上る右側の列に割り込むとまた迷惑そうな顔をされたが頭を下げて強引に割り込んだ。

何故そんなに急ぐのか。
階段が動く、そのことだけで充分急いでいると思うのだが、そのエスカレーターをまた急いで上る。いつもはそんなに急いでどこへ行くんだ、と感じていたのだが今は本当に急いでいる。

はぁ、とため息がひとつでる頃、その人とほとんど同時に降り立つことができた。


肩を叩いて良いものか一瞬ためらった。
最近多い痴漢冤罪の記事が頭をよぎったのだ。
手は出さないことにして横に並び、歩きながら声を掛けた。

「あのぅ、これ」






コメント
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