「相手の女性はね、通称ビーチのマドンナ」
「マドンナ!いいね、いいね」
「美人だし、スタイルいいし、そりゃぁ地元のみんなが憧れる素敵な人だったんだって」
「留美子みたいだな」
「こらっ!どうせ私はブスですよ」
「違うよ、違う、本当にそう思ってるんだから」
辰雄はふくれた留美子のほほに素早くキスした。
留美子はそれで機嫌を直し、んもう、と言って話を続けた。
「仲間はみんなマドンナの前でいいところを見せようと必死で泳いだ。
アルバイトでビーチの監視員をしている仲間も、
マドンナの姿を見つけると必要以上に張り切って、今ならライフセーバーってとこかな、
ビーチを走ったり沖の監視ボートまで泳いだりして自分が一番だってアピールしたんだって」
「うんうん、分かる分かる」
「だけどね、一番泳ぎが上手なのはマドンナだったの」
「えぇ~っ女なのに?昔なのにすごいな」
「マドンナの両親はスポーツ選手だったらしくて、
小さい時から当時はまだ珍しかったプールで泳ぎを教わっていたのよ」
「オリンピックって当時あったのかなぁ」
「オリンピックはどうか分からないけど、ちゃんとした人に習ったって事ね」
「そうか、やっぱ基本が大事なんだよな」
「当然湘南ボーイの叔父さんも頑張ったわ、自己流だけどね」
「男って勉強以外だったら喜んでいっぱい頑張る生き物だよな」
「夕暮れになって観光客がほとんどいなくなった海岸で、
オレンジ色に染まる海を見ながら仲間が集まって笑いあっていたんだ。
もちろんその中に叔父さんもマドンナもいたのよ」
「いいんだよなぁ、夕暮れの海。バカヤローって叫んだりして」
「それは森田健作!」
「はい。」
「酒屋の仲間が冷えた缶ビールを差し入れたの。
魚屋の友達はめざしを何匹が持ってきて、観光客が捨てていった金網で焼いてみんなでかじった」
「それいいなぁ、絶対うまいよなぁ」
みんなが次々にとりとめのない話をし、
誰かの話がうける度に缶ビールで乾杯を繰り返して笑った。
夕日が海にすっかり沈みもうそろそろお開きだなと思う頃それは起こった。
つづく
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