暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

たつの市・葎菴の茶事-2

2014年02月20日 | 思い出の茶事  京都編
             
後座の席入、
障子を開けた途端、佳い薫りが漂ってきました。
誘われるように中へ入り、「あっ!」と息を呑みました。

「天下泰平群仙遊楽」の軸は飾り残したままですが、
見事な花が床柱にダイナミックに生けられています。

須田剋太の書に負けない、生命の輝きを感じさせる花は、
柳、ネコヤナギ、そして紅い椿が一輪、
角笛を連想する花入が豊かな空間をピリッと引締めていました。

ヤナギのしなやかな動きは春の女神が戯れているようで、
待合の色紙「・・春の水 しょろり」を思い出します。
唐銅の香炉が書と花の邪魔をしないように、
控えめに置かれているのも心憎く・・・香銘は「花の花」とか。

古色ある釜と炉縁が以前からのお気に入りで、
炉の季節にこの釜を囲んで濃茶を頂くのが夢でした・・・。
古芦屋釜の蓋が殊更味わい深く、歳月を感じる炉縁は法隆寺古材です。
垂涎の二つですが、葎菴にぴったり納まっています。

             

湯相もよく、濃茶点前が始まりました。
久しぶりとのことで心配していたのですが、きちんとお点前されて、
唐物茶碗に濃茶をたっぷり練ってくださいました。
芳しく甘味と苦味のバランスが程よい濃茶をたっぷりと頂戴しました。
姫路・小林松壽園の「豊昔」です。

渡岸寺(滋賀県長浜市)の十一面観音の腰のひねりを連想させる、
織部釉のかかった水指も素敵でしたが、茶入に魅せられました。
笠地蔵のような、かわいらしい、赤みがかった土色の茶入ですが、
手に取ると、印象が一変しました。

池川作品らしい微妙な歪みのある形、
廻すと土色の中に繊細な釉薬の模様が次々と現れ、
雲母のような煌めきが見えます。
香雪美術館の利休丸壷を思い出しながら、しばし見惚れました。

土は池川家の畑の土と信楽の土を混ぜて使っているとか、
釉薬の話や還元焔の使い方など・・・
陶芸のことを静かに話されるみどりさんも輝いて見えました。

仕覆は古紫ちりめん、上品な花の絵柄があり、
席入で見た瞬間から気になっていました。
古い着物からやっと仕覆分だけとれたそうで、
古布の持つ柔らかくやさしい手触り・・持ち主の愛情を感じます。

              

家に帰ってから調べてみると、
兵庫県ゆかりの芸術家の作品が随所に使われていたことに気が付きました。

  池川みどり・・揖保川焼・陶芸家、たつの市在住
         小柄で細身の佳人ですが、作品は驚くほど力強い。

  須田剋太・・・洋画家、書家、埼玉県鴻巣市に生まれる。
  (故人)   具象から抽象画へ進み、力強い奔放なタッチが特徴。
         司馬遼太郎「街道をゆく」の挿絵を担当。
         西宮市に住み、そこで亡くなる。

  丸投三代吉・・日本画家、姫路市で生まれ、
   (故人)  出征からシベリア抑留の4年間を除き、生涯姫路で暮らした。
         激しい筆遣いで描く作品は「鬼筆仏心」とも呼ばれた。

これって、とても大切なことですよね。
最近、郷土の色や香りを感じる茶会が少なくなった気がしています。
郷土、郷土の芸術家、住む家や家族、そしてお茶の仲間を大切に思う
ご亭主の心意気を今頃になって感じながら、書いています(汗)。

                                 

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