暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

「丘の上チャリティ茶会」・・・思静荘の濃茶席(1)

2024年11月05日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)

 

(書けずにさんざん迷いましたが、不思議なご縁を感じながら一生懸命書いています・・・)

10月26日(土)に第28回「丘の上チャリティ茶会ー名残の茶の湯の楽しみー」が開催されました。

3年前に野原薊さまからこの茶会へお誘いがあり、それ以来お伺いしたいと思いながらこの度願いが叶い、埼玉県春日部市の春日部福音自由協会・丘の上記念会堂へいそいそと出かけました。

10月になっても暑い日が続き、この日にようやく袷を着ましたが、最寄の東岩槻駅から徒歩10分ほど、丘の上記念会堂への最後の登りではぐっしょり汗をかきました。

 

教会の中とは思えない水墨画の襖絵がある広い座敷が受付と待合になっています。そこで身支度し、最初の濃茶席の会記と消息の解説書(菊月二十二日伊勢侍従あて、解説:小松茂美)をいただきました。

野原薊さまのお社中と8人で思静荘と名付けられた茶室(広間)へ席入りしました。

床には大きな横物の消息「伊勢侍従宛利休手紙」(写、大阪城天守閣蔵)が掛けられています。香合(村上堆朱)が荘られ、フェニキア出土の泪壷(ローマンガラス)に生けられた秋桜が2本、赤い花に白い花がそっと寄り添っているように見えました。

点前座に回ると、十字透紋のあるどっしりした唐銅鬼面風炉に織部好みを思わせる肩衝筋釜が掛けられています。存在感のある風炉釜から幽かに松風が心地よく聞こえてきて、このまま聴いていたい・・・と。

すぐにお点前が始まりました。表千家流の濃茶点前、しかも男性のお点前を拝見するのは初めてなので、良席(次客)でもありじっくり拝見したかったのですが、常盤饅頭が運ばれ、そちらも急ぎ食べねばなりません。

そのころに席主の高橋敏夫牧師が入られて、ご挨拶やお菓子の話が始まり、お点前を拝見するのはまたの機会にしました・・・というのは、高橋牧師の魅力あるお話に引き込まれてお点前どころではなくなったからです。

床に掛けられた利休の消息、冒頭に南坊が都を立ったという一文があり、南坊とは高山南坊(高山右近)のことで利休七哲の一人ですが、無事に金沢へ向かって都を立ったことを伊勢侍従(蒲生氏郷)へ知らせています。高橋牧師は高山右近の研究をされているので、キリスト教禁止令が出され苦境にある高山右近の行動や心境を、この消息から慮っていることでしょう。

 

濃茶が運ばれ、お正客の野原様、三客の野原社中の若武者と3人で一碗をともにしました。

「三人様でどうぞ。茶碗は出土品なのでやさしく一回だけ清めてください」

久しぶりに3人で濃茶をいただきました。飲みやすく優しい濃茶は「楽寿の昔」(柳桜園詰)です。

茶碗はヘブロン出土(紀元前2200~2000)の土器だそうです。漆を塗った茶碗は、とても薄手で縁に何か所か金継があります。ヘブロン出土と伺っただけで、時を経てはるばる旅をして日本の、この教会の茶会で使われ、その茶碗で濃茶をいただくご縁の不思議さを思いました。

毎年、記念茶会を開催しているものの、5年間で3度死にかけたことや、最近大切な人を亡くしたことなど、近況をお話しくださいました。

その後に高橋牧師から鋭い質問がお正客へありました。

「貴女は長く茶の湯を修練していますが、茶の湯に究極に求められているものは何だと思いますか?」

しばらく考えられてから「それは「茶の心」でしょうか」とお正客が答えると、

「「茶の心」も良いけれど、私は「ぬくもり」だと思いますよ」と。

正解はありませんが、茶の湯の有り様や心構えをいろいろ考えさせられる質問でした。

 

三碗目の濃茶は「沙毘恵留(ザビエル)」という銘の赤楽茶碗(十五代楽直入作)で出されました。この茶碗はハート形をしていて、直入氏が奥様のことを思いながら制作し、奥様へ贈られた茶碗だそうです。直入氏の心がこもった茶碗を奥様は高橋牧師に使ってほしいと贈られたそうです。そのお話を伺って、思わず・・・

直入氏の大ファンでして、楽美術館茶会で直入氏のステキなお話を伺った思い出がございます。そのお茶碗をぜひ拝見させてください」と声にしていました。

すると、「そうですか・・・それではこのお茶碗で薄茶を差し上げますので、ぜひ喫んでください」と高橋牧師。

直入氏のあたたかなお気持ちが伝わってくるような赤楽茶碗、ハートのお形やへら遣い、釉薬の複雑な景色に感激しながら熱い薄茶を美味しくいただきました。感激も一入ながら、すぐにこのような粋な計らいをしてくださった高橋牧師にお茶を愛する茶人としての柔軟な心構えや対応力を教わった気がしました。

ごちそうさまでした。そして、ありがとうございます。  つづく)

 

      「丘の上チャリティ茶会」・・・思静荘の濃茶席(2)へ続く