ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

大学発ベンチャー企業に人材流動経験者が集まっています

2010年08月12日 | 汗をかく実務者
 大学発ベンチャー企業には当然、起業家の人材が集まってきます。
 新規事業をつくるイノベーション創出は新規事業づくりは、異分野からいろいろな人材が集まってプロジェクトを推進します。人材流動の経験者が自然と集まってきます。その典型例を聖マリアンナ医科大学発のベンチャー企業であるナノエッグ(川崎市)で確認しました。

 ナノエッグの代表取締役社長の大竹秀彦さんに8月11日午前にお目にかかりました(2010年6月25日のブログにご登場いただいた方です)。大竹さんには、夏休み前の貴重な時間を割いていただきました。


 今回お時間をいただいたのは、東京工業大学大学院のイノベーションマネジメント研究科の方が研究対象として同社を調査するのに同行したのが経緯です。研究調査の脇でお話を伺いました。その時に、ナノエッグの新しい会社案内をいただきました。

  会社案内の「会社概要」に役員プロフィールが載っています。3人の役員、2人の監査役、2人の顧問の略歴が書かれています。今回、改めてしっかり読んでみました。すると、全員が転職経験者でした。数回の転職を経てナノエッグの役員に就任しています。例えば、3人の役員は平均3.7回転職していました。3回目か4回目にナノエッグの役員に就任していました。お一人の監査役は大手監査法人を3回経て、某社の監査役を経て、ナノエッグの監査役に就任されていました。

 日本の多くの組織(企業や大学など)は原則、終身雇用です。中途採用者が珍しく無くなったとはいえ、新入社員からの“生え抜き”が大部分です。例えば、一部上場企業では(子会社や関連企業への出向は計算に含めないで)が2/3ぐらいが生え抜きではないでしょうか。その一方で、最近創業したネット系企業などでは転職経験者が多いことも事実です。会社の成長が速く、自前で人材育成している時間が無いので、中途採用を繰り返しているからです。

 ベンチャー企業の創業期は、最適な経営メンバーを集めることが、新規事業の成功を大きく左右します。このため、自社に最適なCEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CTO(最高技術責任者)、CFO(最高財務責任者)をどう集めるかが大事になります。そのベンチャー企業の死活問題だからです。大竹さんは、創業者である取締役の山口葉子さんに口説かれて代表取締役社長になりました。CEOでありCOOとCFOの一部を兼務されている同社のキーマンです。山口さんはCTOの役目を果たしています。同社の取締役経営管理本部長の飯塚幸造さんは、大手銀行からネット系企業2社を経てナノエッグに入社されています。COOとCFOを兼務されていると想定しています。現在の経営陣を集めるには、「あれこれと人脈を使って来てもらった」と、大竹さんは笑います。

 起業家精神に富んだ方は、その時に自分のやりたい仕事をするために、職場を選びます。この結果、その時点での企業に最適な職場が無ければ転職することになります。現在、日本では多くの方が“就社”しますが、自分のやりたい仕事をするために“就職”を貫くと、結果として転職を繰り返すことが増えると思います。最初に就社した企業で、“就職”を貫くにはかなりの幸運が必要になると思います。

 逆にいうと、ベンチャー企業では面白い仕事をつくり続けないと、また別の企業に転職してしまいます。腕に自慢の起業家に面白い仕事をする場を提供し続けるのもかなりの難問でしょう。

 現在の終身雇用制度は、現行の製品・サービスを改良し続けるという点では優れた人事制度です。現行の製品・サービスのユーザーにとって、その時点での最適なモノを提供するには現行製品・サービスを熟知し、改良・改善を続けることが必要だからです。単なる設計変更ではなく、例えば生産工程や販売経路、故障や不具合の修理のやり方などの一連の体系の中で、改良・改善を実施するには安定した雇用制度の方が有効だと思います。終身雇用で安定した身分の方が改良・改善に集中できます。

 これに対して、従来にない新規の製品・サービスを開発するには、何が最適な解になるかはなかなか見通せません。部分最適解でしかない状態の新規製品・サービスはリスクの塊です。プロジェクトチームの中で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をし、うまくいけば市場に出せます。だめなら、また別の新規製品・サービスを開発するすることになります。企業規模が小さいベンチャー企業では、創業当初は終身雇用制度ではない人事制度をとらざるを得ないのです。リスクを取る人材は、人材流動というリスクを取れる方々です。