「金属ガラス」という新材料の研究開発成果の公開講座を聴講しました。8月19日から20日の2日間にわたって、東北大学金属材料研究所が東北大の青葉山キャンパス(仙台市青葉区)で開催したものです。
公開講座の正式名称は「平成22年度 東北大学リカレント教育講座・公開講座 『非平衡金属の材料科学と応用技術』」とかなり難しいものです。公開講座の中身の中心は金属材料研究所の教授や准教授による研究成果を解説する講義です。こうした大学教員の研究成果の解説に加えて、企業が金属ガラスをどんな製品に実用化しようとしているかについて解説する講義もありました。
企業の研究開発者2人による金属ガラスの製品化・事業化の苦労談のご講演です。日立金属の峯村哲郎さんは金属ガラスの誕生の基になった「アモルファス金属は約30~40年ぐらい前に盛んに研究開発され製品化されたが、事業収益という点ではここ5年ぐらいでやっと事業収益が本格的に見込めるようになってきた」と説明されました。

従来無かった独創的な新材料を本格的に事業化するまでには30年~40年もかかってしまうという貴重な証言でした。
「金属ガラス」という言葉を聞くと、一般の方は「透明な金属ができたの?」という質問をよくします。普通の“ガラス”は液体がそのまま固まったようなもので、構成原子がバラバラのまま固まっているのです。同様に、金属ガラスも、おおまかにいえば構成原子が結晶構造を取らず、バラバラのままでそのまま固まったものです。構成原子がバラバラのままで固まっているものの代表的なものはアモルファス(非晶質)と呼ばれるものです。少し話がややこしくなりますが、金属ガラスはアモルファス金属の中で、ガラス転移点を持つものです。
アモルファス金属が磁気的性質に優れているなどの高性能さはよく知られていました。しかし、高コストなどの点からアモルファス合金の実用化は限定的な状態になっていました。こてに対して、ここ数年、省エネルギーの視点が強まり、電気を送電する際に必要となる変圧器のコアと呼ばれる部分にアモルファス合金を採用する機運が強まり、採用数が増えているようです。いくら技術面で優れていても、実際に採用されるには、何かのきっかけが必要なようです。こうしたことから、研究開発が進展し、実用化に必要な要素技術も整ったのは20~30年ぐらい前でしたが、実際に採用数が増えたのは最近のようです。
先輩格のアモルファス金属がやっと事業化が本格的に進み始めているのですから、金属ガラス製部品はまだ事業化の途上です。独創的な新材料が本格的に事業化されるまでには30年~40年もかかってしまうという典型例は、炭素繊維でしょう。旅客機の胴体や主翼などに多用されている炭素繊維も事業収益を上げるまでには30年以上かかったようです。主力企業の東レはやや後発として、PAN(ポリアクリロニトリル)という合成繊維を蒸し焼きして炭素繊維を製品化しました。「合成繊維を巧みに扱う技術を持っていたことが、高品質な炭素繊維の開発に成功した要因」と、東レの研究開発者から伺ったことがあります。
いい炭素繊維はできたが、各企業はなかなか採用してくれない状況が続きました。その内に、ゴルフクラブやテニスラケットに採用され、炭素繊維は少し足場を築きます。でも、本命と考えていた旅客機の部品にはなかなか採用してもらえないかったのです。そこで、東レは、当時ボーイング社の航空機部品に採用してもらうために必要な品質認証制度の審査に合格していたユニオンカーバイド社に対して、東レの炭素繊維製造技術を技術移転させます。これによって東レの炭素繊維の優秀さを知らしめます。これが後日、東レの炭素繊維の採用の布石となります。
航空機部品としては、最初は万一壊れても機体に本質的な損傷を与えない非構造用部品の一つに炭素繊維強化プラスチック製の部品に置き換えてもらうことに成功します。これを起点に、旅客機の部品が炭素繊維強化プラスチック製に代替されていきます。非構造用部品から重要な構造用部品に対象を拡大させていきます。ここまできて初めて、炭素繊維をつくる製造装置を本格的に拡充し、炭素繊維強化プラスチックをつくる工程向け製造装置も拡充されます。こうした設備投資を経て、やっと炭素繊維事業は収益を上げ始めます。
現在、炭素繊維事業は中国企業の追い上げを受け、厳しい状況になっています。東レは炭素繊維の低コスト化を図るために、原料のPAN繊維から炭素繊維に変換させる際に炭素原料を無駄にしない製造法を研究開発中です。新材料が事業収益を上げるまでには苦労の連続であると、改めて感じました。
最後に、金属ガラスの製品化に挑戦し続けている財団法人素形材センターの西山信行さんが聴講生に、実物として見せたパラジウム系金属ガラスの大きな塊をお見せします。直径10センチメートルぐらいの大きな塊は、パラジウムなどの原子がバラバラのままで凝固しています。手に取るとずっしりと重いです。

パラジウム系の溶融金属をガラス製の鋳型に流し込み、大量の氷を含んだ氷水に漬けて急冷したものです。このごろんとした塊は、構成原子が結晶構造を取っていません。このゴロンとした金属ガラスは、パラジウムを多く含むために、原料費が数百万円もかかっているそうです。
公開講座の正式名称は「平成22年度 東北大学リカレント教育講座・公開講座 『非平衡金属の材料科学と応用技術』」とかなり難しいものです。公開講座の中身の中心は金属材料研究所の教授や准教授による研究成果を解説する講義です。こうした大学教員の研究成果の解説に加えて、企業が金属ガラスをどんな製品に実用化しようとしているかについて解説する講義もありました。
企業の研究開発者2人による金属ガラスの製品化・事業化の苦労談のご講演です。日立金属の峯村哲郎さんは金属ガラスの誕生の基になった「アモルファス金属は約30~40年ぐらい前に盛んに研究開発され製品化されたが、事業収益という点ではここ5年ぐらいでやっと事業収益が本格的に見込めるようになってきた」と説明されました。

従来無かった独創的な新材料を本格的に事業化するまでには30年~40年もかかってしまうという貴重な証言でした。
「金属ガラス」という言葉を聞くと、一般の方は「透明な金属ができたの?」という質問をよくします。普通の“ガラス”は液体がそのまま固まったようなもので、構成原子がバラバラのまま固まっているのです。同様に、金属ガラスも、おおまかにいえば構成原子が結晶構造を取らず、バラバラのままでそのまま固まったものです。構成原子がバラバラのままで固まっているものの代表的なものはアモルファス(非晶質)と呼ばれるものです。少し話がややこしくなりますが、金属ガラスはアモルファス金属の中で、ガラス転移点を持つものです。
アモルファス金属が磁気的性質に優れているなどの高性能さはよく知られていました。しかし、高コストなどの点からアモルファス合金の実用化は限定的な状態になっていました。こてに対して、ここ数年、省エネルギーの視点が強まり、電気を送電する際に必要となる変圧器のコアと呼ばれる部分にアモルファス合金を採用する機運が強まり、採用数が増えているようです。いくら技術面で優れていても、実際に採用されるには、何かのきっかけが必要なようです。こうしたことから、研究開発が進展し、実用化に必要な要素技術も整ったのは20~30年ぐらい前でしたが、実際に採用数が増えたのは最近のようです。
先輩格のアモルファス金属がやっと事業化が本格的に進み始めているのですから、金属ガラス製部品はまだ事業化の途上です。独創的な新材料が本格的に事業化されるまでには30年~40年もかかってしまうという典型例は、炭素繊維でしょう。旅客機の胴体や主翼などに多用されている炭素繊維も事業収益を上げるまでには30年以上かかったようです。主力企業の東レはやや後発として、PAN(ポリアクリロニトリル)という合成繊維を蒸し焼きして炭素繊維を製品化しました。「合成繊維を巧みに扱う技術を持っていたことが、高品質な炭素繊維の開発に成功した要因」と、東レの研究開発者から伺ったことがあります。
いい炭素繊維はできたが、各企業はなかなか採用してくれない状況が続きました。その内に、ゴルフクラブやテニスラケットに採用され、炭素繊維は少し足場を築きます。でも、本命と考えていた旅客機の部品にはなかなか採用してもらえないかったのです。そこで、東レは、当時ボーイング社の航空機部品に採用してもらうために必要な品質認証制度の審査に合格していたユニオンカーバイド社に対して、東レの炭素繊維製造技術を技術移転させます。これによって東レの炭素繊維の優秀さを知らしめます。これが後日、東レの炭素繊維の採用の布石となります。
航空機部品としては、最初は万一壊れても機体に本質的な損傷を与えない非構造用部品の一つに炭素繊維強化プラスチック製の部品に置き換えてもらうことに成功します。これを起点に、旅客機の部品が炭素繊維強化プラスチック製に代替されていきます。非構造用部品から重要な構造用部品に対象を拡大させていきます。ここまできて初めて、炭素繊維をつくる製造装置を本格的に拡充し、炭素繊維強化プラスチックをつくる工程向け製造装置も拡充されます。こうした設備投資を経て、やっと炭素繊維事業は収益を上げ始めます。
現在、炭素繊維事業は中国企業の追い上げを受け、厳しい状況になっています。東レは炭素繊維の低コスト化を図るために、原料のPAN繊維から炭素繊維に変換させる際に炭素原料を無駄にしない製造法を研究開発中です。新材料が事業収益を上げるまでには苦労の連続であると、改めて感じました。
最後に、金属ガラスの製品化に挑戦し続けている財団法人素形材センターの西山信行さんが聴講生に、実物として見せたパラジウム系金属ガラスの大きな塊をお見せします。直径10センチメートルぐらいの大きな塊は、パラジウムなどの原子がバラバラのままで凝固しています。手に取るとずっしりと重いです。

パラジウム系の溶融金属をガラス製の鋳型に流し込み、大量の氷を含んだ氷水に漬けて急冷したものです。このごろんとした塊は、構成原子が結晶構造を取っていません。このゴロンとした金属ガラスは、パラジウムを多く含むために、原料費が数百万円もかかっているそうです。